害虫屋の雑記帳(ブログ人の保存版)

ブログ人のサービス停止に伴い、gooに過去記事を保管させてもらうことにした。

冬の夜に部屋を歩くクモ

2014-01-04 23:19:09 | 自然観察
昨年末のコト。夜中の1時頃、自宅で寝床にはいり眠りかけていると、枕元でかすかな音がしたような気がした。
そっと起き上がって電灯を点けると、けっこう大きめのクモが歩いていたので捕獲した。
Coelotes_insidiosus
実はこの種類のクモ、2~3年に1回くらい、決まって冬の夜、部屋の中で見かける。
Syokusi_2 
調べてみると、シモフリヤチグモの雄のようだ。保育社の原色日本クモ類図鑑にも、雄は家屋の中に入ってくることがあると、ちゃんと書かれていた。
なんでまた、家の中なんかに入ってくるのだろう?
異物検査でも、トタテグモの仲間の雄をみたことがあるので、雄が放浪するクモは珍しくないのかもしれない。
予測できない遭遇をしやすいというのは、クモを不快たらしめている理由の一つといえるかも知れないが、クモの方もヒトなんかと遭いたくは無かろう。
ウチの娘も小学生低学年の頃、何の警戒もせずに歩いていた通学路の途中で、いつのまにか陣取っていたジョロウグモの巣にひっかかり、振り払っても振り払っても頭に登ってこようとするジョロウグモにパニックを起こしてしまったそうだ。以来、どんなに小さなクモもダメになってしまったといっている。

ホラー映画でも、クモが重要な役回りになっている作品はやたらと多い。「ホビット」には恐ろしい敵として登場するし、時代劇でも焼津の半次がクモ嫌いとか、フィクションとクモの関係を語り出すと切りがない。クモ登場作品の多さは、世界はクモ嫌いで満ちているということの反映なのだろう。

心理学者や神経生理学者にとっても、「クモ恐怖症」は興味深い研究テーマとして研究例が多いようで、昨年もどこかの大学がクモ嫌いな少女を募集していて話題を集めていた。
6本脚の昆虫をあつかう研究者でさえ、脚が2本増えただけのクモを嫌いな人が多いという研究*がある。アメリカの昆虫学者41人へのアンケート結果をまとめて、クモへの不快感は何に起因するのかが考察されている。
古くからいわれている、脊椎動物なら感情移入できるが、体構造が異なり過ぎる生物には感情移入できないので不快とする説明は、少なくとも昆虫学者には当てはまらないようだ。幼少期の原体験とか、いろいろな説明が試みられているが、クモへの嫌悪感は結局不可解なところがあるとしている。
*Vetter, R. S. 2013. Arachnophobic Entomologists: When Two More Legs Makes a Big Difference. Amer. Entomol. 59: 168-175.
(この論文は無料で読める)
著者が提示した無脊椎動物と脊椎動物を取り混ぜた動物30種類についての好感度ランキングは、少し可笑しい結果になっていた。
1.チョウ,2.トンボ,3.テントウムシ,4.イルカ,5.ミツバチ,
6.イモムシ,7.イヌ,8.カエル,9.ウマ,10.トラ,11,ライオン,
12.ウサギ,13.ネコ,14.タコ,15.クマ,16.リス,17.ミミズ,
18.ヘビ,19.ハツカネズミ,20.ハサミムシ,21.ウナギ,22.サメ,
23.ナメクジ,24.ゴキブリ,25.ウジ,26.サソリ,27.ドブネズミ
28.カ,29.クモ,30.マダニ
愛らしい昆虫の代名詞みたいなテントウムシが3位で、2位がトンボって何?(日本人の昆虫学者の著書で、欧米ではトンボは魔女の縫い針とかって呼ばれて嫌われてるという話を読んだことがあるので意外)
信じがたいのが6位のイモムシ。アメリカでポケモンのキャタピーが人気ってきいたことがあるけれど、本当かも。
クモが29位で、マダニが最下位なのは順当だろう。
チョウが1位で、不快さが少ないというのは、逆にナゼなんだろうという気がした。
「生き物の不快さ」について、生物学者の視点から分析を試みている研究は少ないと思うので、この問題を常日頃考えることが多い害虫屋にはとても興味深い話だった。

個人的には、クモを十把一絡げに好きとか嫌いとかいえない。
ハエトリグモ類はみんなカワイイ。
アシダカグモは嫌いだ。
芸術的アニメ「くもとちゅうりっぷ」のクモに、同情を感じない虫屋はいないだろう。
クモなんて平気といいつつも、心の深いところで違和感のようなものを感じることもある。その違和感が大きくなれば、きっと不快になるのだろう。不快感のメカニズムには、とても興味があるけれど、もしも脳内で分泌されている物質によるエラーみたいなものだなんて結論になったりでもすれば、脳に対して著しい不快感を感じることになりそうだ。
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