昆虫採集をする場所を選ぶにあたり、唐突に地名にこだわってみる気になった。
「こあかかべで昼飯を食べよう」
「ハぁ!?」
姫路市で仕事を終えて、工事車両の運転席で地図を眺めていた私は、心の琴線にふれた地名を指さして助手席の者にみせた。
「なんでまた、そこなん?」
「地名の語感が悪いからだ。小さな赤い壁と書く。しょうせきへき、と読むのかもしれん。」
「???」
貴様のやうに、科学に謹直なものにはいっこうに解せぬだらうが、たいていの奇妙な地名には、超自然的要素が少なからずや含まれてゐる。特異な場には尋常ならざるモノノケやら蟲やらがいるに相違なひのだ。原住民たちは、うっかり名を口の端にのせたりせぬように、常ならざるものが障らねように言いにくい地名にしているわけである。当然、そこで昆虫採集しようものなら夥しい珍種と相まみえることは必定といへやう。
例えば、奄美大島に独特なムシがいるのも、地名との奇縁があって云々かんぬんと、もはや私との間にみえない防壁を築いて自閉症モードの運転助手に、伝奇ロマン風昆虫地理学を説き聞かせているうちに目的にたどり着いた。
海辺の崖っぷちにある公園だった。岩とススキに覆われた急斜面の上を、ラジコンのF-15戦闘機がヒョーンと奇妙な音をたてて飛んでいた。プロペラがない・・・。駆動音は電動っぽい・・・。なんだあれは?とポカンと見つめていた。
オヂサンらが若い時分には、ラジコンジェット機つーとみんな先端にプロペラついてて・・・カッコワルとかは禁句だった。今は、プロペラが無い模型飛行機を飛ばせるのか・・・・。
後で調べたらダクトファンを利用した技術ってことで驚いた。もっと金持ちの人はケロシン燃やす本格的ジェットエンジンをラジコン機に積むらしい。知らないうちにラジコン飛行機の世界は恐ろしく進歩しているようだ。
他人の道楽を眺めていてもしょうがないので、自分の趣味に移った。キスイムシ科を採集しようとして枯葉や枯枝をビーティングしてまわったが、さんざんやって、ミジンムシ科とか。これも全く分類できないってところはキスイムシ科同様なんだが。ムシを差別しては悪いが、大幅に目算をはずしたショッボイ結果といわざるを得なかった。
奇しき地名に奇しきムシ在りの説は、有耶無耶ムニャムニャで昼休み終了。