害虫屋の雑記帳(ブログ人の保存版)

ブログ人のサービス停止に伴い、gooに過去記事を保管させてもらうことにした。

チビナガヒラタムシは外来種か?

2008-06-22 20:57:09 | 自然観察

今夜のテレビで、ジョーンズ博士の「失われたアーク」が放映される。みなくては(みるの何度めだろう)。カワゆいムシたちが、無理のある演出でキモい生物として描かれている、ムシ虐待映画ともいえる面もあるが、何も考えずにみるとたいへんオモシロい。最新作の「クリスタル・スカルの王国」も早くみたい!!


クリスタル・スカルが出土したベリーズといえば、マヤ遺跡とか重武装の麻薬密輸団とかが有名な国だが、ここの自然林で衝突板トラップをしかけると、チビナガヒラタムシがとれた(飛んでたってこと?)という研究がある。つまり、自然林で採集されるので、中米では在来種だったのかもしれないってことが議論されている。
チビナガヒラタムシは米国東部が原産とされ、世界中で「外来種」として記録されている昆虫だ。ところがコハク化石では、バルト海やらメキシコやらでみつかるので、大昔は世界中にいたらしい。その末裔が北米の片隅で生き残っていたが、今度は人為的に世界中に分散しだしたってことになるけど、これはすごくヘンな話ではないのか?
北米の研究者には、「確かにタイプ標本は我が国産だが、まともに採集されてるのは木製電信柱の腐ったところばっかしで、自然林からメッタにみつからんからホントに在来種か?」なんて意見の人もいるようだ。

日本のチビナガヒラタムシの分布記録は1970年代に入ってからで、外来種であることを疑う人なんていないだろう。
現在、近畿地方の市街地では、チビナガヒラタムシは珍しい種類ではなく、建築後20年以上経過した木造住宅であれば比較的よく検出される。多分、西日本の平野部では、かなり普通に分布しているとおもう。でも、これが「外来種が分布を広げた」のか、「昔からいる種の分布にタマタマ気づくようになった」のか、両者をどうやったら区別することができるのだろう。

チビナガヒラタムシは、基本的に幼虫形態のままで増殖しているようなので、本当に目立たない種だ。とくに有害な種でもないので、問題種として取り上げられることは少ない。ウチの仕事の例でいうと、成虫に関しては、脱衣場にカタマリでいて気持ち悪いので掃除機で吸ったという奥さん(奈良県)からの相談が1例あっただけ。あとはお風呂に幼虫が浮いていたというのが数例あるくらい。成虫が多い場合は、なんらかの理由で集団を形成するらしいということは、ぜひ観察してみたいナゾの一つである。成虫が珍しいという意見もあるが、幼虫を採集して湿った材と一緒に保管しておけば、割とよく成虫を得ることができる。ただ、忘れたころに成虫になっているのでカビだらけの標本(特にオス)になることが多い。ちなみに私は成虫がちゃんと飛ぶところをみたことがない。一瞬、はばたいて1cmほど横にはねたトコロを一度みただけ。

先週、私は、外来種なんていそうにない古いシイ林(和泉市の神社)で採集した朽木から、チビナガヒラタムシの幼虫をみつけた。この朽木は樹脂製大型収納ケースにいれて、一年ほど会社(東大阪市)の事務所内に保管していたものなので、東大阪産の個体群が後から迷入して、二次的に繁殖した可能性もある。でも、本種の移動可能なステージ(一齢幼虫・成虫)は、乾燥した場所での移動能力が低い。タッパーの側面をよじ登ったりなんてのは得意じゃないのだ。事務所内には同時期に採集している腐朽材もないので、やはり、和泉市の神社林に本種が生息していた可能性が高いと考える。Micromalthus_larva_2

ここで、国内初記録の文献のなかに、確か野外の朽木でも採集した事例が書かれていたことをおもいだした。ふつうに考えれば、自然林の中にまで侵入する外来種と考えるべきなのだろう。でも、ベリーズの記録みたいに、人家からかけ離れた場所ではないが、日本でも在来種である可能性を議論する余地があるかもってのは考え過ぎか?

アセスメントで公表されている環境調査報告書をみてても、チビナガヒラタムシが記録されていることは少ない。大きな河川なら河川敷に転がっている腐朽材なんかをほじくっていると幼虫が結構出てくるはずなのだが、一般に微小コウチュウの幼虫は調査現場ではスルーされている可能性が高い。というか、現場でそんなもん相手にしてる暇はないわな。フツー。
ということは、過去のチビナガヒラタムシの分布は全国的に見過ごされていた可能性もある?世界中で外来種扱いされている種だが、実は世界中にモトからいた種ということはありえないことなんだろうか?

日本でも、衝突板トラップを使うことで、平野部の自然度の高い地域での分布状況を確認できないものかなと考えるが、実施は難しそうだ。

一つだけ古い国内分布を確認できるかもしれない手法がある。チビナガヒラタムシは、孔道中の糞の状態が結構独特なパターンなので、食跡が残った木片とかが、古代の遺跡から出土するかもしれない。奈良時代の木簡とかをほじくらせてくれる博物館とかドコカにないかな。ムチもって世界中の遺跡を盗掘するとか。


イグサについたドーム

2008-06-15 23:56:00 | 自然観察

先月から今月にかけては、普段はやらないヤケヒョウヒダニの動画を扱う仕事をするはめになってしまった。せっかく古くてデカいビデオ機材を引っ張り出したのだから、ついでに、いろいろなものを撮影してみた。まずはカニムシ。


畳の側面や裏側に、時々、1-2mmの微小なクモの卵のうのようなドームや円形の付着跡が、イグサやワラの繊維にみられることがある。室内塵検査などで見かけるたびに、その正体がわからなくて首をかしげていた。
室内塵にいるカニムシを飼育してナゾが解けた。カニムシが脱皮のときや、産卵のときに、ヒキコモリするための巣だったのだ。どういう手順で作るのかわからないが、ハサミしか持ってないくせに、ずいぶんキレイなドームを作る。ヤケヒョウヒダニやヒラタチャタテを与えて飼育しているのだが、ハサミの先端から出る毒液で、獲物が電撃的に活動を停止する様子が興味深い。そのうち時間を作って、ぜひ撮影したいものだ。

ところでゼンゼン話は変わるが、ヤケヒョウヒダニの対策ビデオを作成している害虫屋がいうのもおかしいが、ヒョウヒダニ類はかわいそうなくらい誤解されていることが多い。実際にアレルゲンにはなることはあり、患者数は増加しているそうだが、大多数のヒトには無害である。それに「患者数の増加」の原因は、ダニと別のところにあると私は考える。

和名がヒョウヒダニってのも悪者っぽい。たしか昔、ロシアのお医者さんによって、頭皮の炎症に関与している害虫ということで「Dermatophagoides;皮膚を食べる」という属名がつけられた。現在では、本種が生きたヒトの体表で皮膚を食べて増える衛生害虫と考えている研究者はほとんどいない。体表から剥離して古くなった皮膚片を食べるだけの掃除屋という考え方が定着している。
このほかにもダニ研究の歴史には、思い込みによる失敗談が多い。パスツールの成功と対比して語られることがある、クロスの不思議な「生命発生装置(ダニがわいてくる)」は可哀想な研究悲話だ。でも、検査器具の汚染に気がつかずに、いろんなところでダニを見つけて衝撃をうける研究者は世界中に後を絶たず、我が国が誇る偉大なる佐々先生だって、ご自身が発表された人体内ダニ症を、後年に笑い話として否定されていたくらいだ。

現在でも、ニキビダニの病原性を喧伝したビジネスみたいに、誤解なのか真剣な研究なのかよくわからないものもあり、判断が難しい。

などといっている私も、この前のコガシラコバネナガカメムシのコナダニ観察では、論理的な推論をしているとはいえなかった。

専門家にうかがってみると、卵を攻撃する可能性や、カメムシに「寄生」している可能性はないだろうとのことだった。たぶん、別の要因で卵が傷んで、コナダニが入り込んでいるだけという可能性が高いのだろう。まあでも、外来種研究の資料として、体表に便乗しているコナダニの記録投稿は必要だとおもうので、同定をお願いした。
他の昆虫類などでも、スカベンジャーが実は天敵の要因を持っていたという学会発表が、その後よく調べるといろいろな間違いがみつかって、天敵説が否定される例を、過去にいくつか聞いたことがあるのに(具体例は挙げられないが)・・・。なんにしても、実験を伴わない説は重要でないわけで、暇があれば、カメムシ卵への影響の有無なんてことをやってみたい。けれども
、その前に片付けないといけない実験はとても多いので、いつのことになるやら。


ムシを見分ける意欲の限界

2008-06-01 23:55:06 | 自然観察

普通にその辺にいる種類だからって、簡単に分類できるとは限らないのが昆虫の厄介なトコロ。ビロウドコガネの仲間もやたらとフツーにみかけるが、外観が似た種が多いため、通常は悩むこともなくビロウドコガネ亜科のレベルで分類をやめる。
好きなグループをたくさん集めて、メッチャみつめている時って、たとえ分類が困難なグループでも、「ああヤッパ、ミセンヒメハナカミキリは、ツマグロヒメハナカミキリとゼンゼン違うわ」などという感じで分類できる気になっているが、時間が経って数年ぶりに同定しようとしたりすると、「どれがどれやったかいのー」とボケじじいになったりしている自分にあきれる。ましてや、普段からメッチャみる気があまり起きないビロウドコガネ類などになると、ビロウドコガネの仲間かどうかすら判断がアヤシクなる。

西宮浜の埋立地で、本年の4月下旬から5月下旬の間に、建物にやたらと飛来していた種類を分類してみた。ハラゲビロウドコガネ Nipponoserica pubiventris と交尾器の特徴が一致した。ハラゲって「腹毛」ということなんだろうけど、雄はともかく雌は特に腹毛が多いという印象を受けない。多分これって1ヶ月くらいで忘れてる分類情報やな・・・自分的には。


ハラゲビロウドコガネ 成虫  左:♂、右♀

Nipponoserica_pubiventris

使用捕虫器:ムシパットル

場所:兵庫県西宮市西宮浜

設置期間:2008年4-5月

Nipponoserica_pubiventris_03 オスの交尾器

側片にツノ状突起がある。

Nipponoserica_pubiventris_02 「腹毛」の観察。オスのほうは腹板だけにした状態。