害虫屋の雑記帳(ブログ人の保存版)

ブログ人のサービス停止に伴い、gooに過去記事を保管させてもらうことにした。

カワラタケのコナダニ

2010-01-28 23:28:52 | 自然観察

別にコナダニを集めようとは思っていないのだが、奇遇にお目にかかることしばしばである。
相生市の仕事先の裏山を覗いてみると、線下伐採による丸太が数本放置されていた。材に生じた多数の貝殻のようなカワラタケの隙間に目をやると、普通種のアカハバビロオオキノコがいた。次の瞬間、なぜかその丸太は我社の工事車両に積み込まれていた。
全長約50cmほど、大人の太ももくらいの太さのソレを狭い事務所のドコへ置く気?への答えは現在も熟考中。

Umakefeq_sp03
ひとひらのカワラタケをむしって、実体顕微鏡で観察すると、やはり細長いコナダニがいた。いままで、多孔菌の傘の裏にいるゴミムシダマシ類だのキノコバエ類だのとかを眺めているときに、視野の端でみかけていたアレだ。カワラタケの管孔とピッタリサイズのコナダニで、強い光をあてると管孔にスッポリ入り込んで出て来なくなる。
普通種の名前くらいは知っておきたいので、プレパラートにしてみた。体形からムシクイコナダニの属と思っていたのだが違っていた。特徴的な歩行器がみられないし、背板のあたりにウロコ模様みたいなものがある。Umakefeq_sp01Umakefeq_sp02 
調べてみると、ネット上で公開されている文献でうまい具合に属にたどり着いた。
Umakefeqという属。語尾がqで終わるって新鮮。
で、日本からは Umakefeq microophtalmus Klimov, 2000が記録されていた。ただし、成虫はロシアでのみ記録がある種が図示されているだけで、日本にもいる種はヒポプスだけで記載されていた。つまりこの文献だけでは、日本で採集された成虫について、属までの判断はできても、種までは特定できないということ。
文献を読んでいると、このコナダニはオオキノコムシの体表にヒポプスがみつかるとのこと。最初に見かけたアカハバビロオオキノコを、フィルムケースから取り出して調べてみると、ちゃんと文献どおりにヒポプスがへんばりついていた。Umakefeq_sp04

Umakefeq_sp05 しかも、U. microophtalmusと特徴はほぼ一致した。

Umakefeq_sp06 同じカワラタケ上で見つかったとはいえ、ヒポプスと成虫の関係はハッキリ確認したワケではないので、やはりいまのところ成虫の方は属までの同定にとどめるしかなさそう。このあたりは、追々観察してると確認できるかも・・・ちょっとまて、丸太からヒポプスが発生しだしたら仕事場がヤバいのでは!


吸盤

2010-01-24 20:41:20 | 自然観察

Thyreophagus_sp_deutonymph 観察中のムシクイコナダニの一種 Thyreophagus sp. は、仕事場でみつけたものだ。
ある微小甲虫を飼育していた容器内で、古い菌糸塊で細長いコナダニが増殖していた。最初は、コナダニのメス成虫と幼虫ばかりが採集され、ヒポプス(第2若虫)が現れないなと思っていた。先日、ふと飼育容器のフタの内側を調べると、いつの間にか多数のヒポプスの死骸が付着していることに気がついた。
ヒポプスには、胴体背面前方に一対の明瞭な窪みがあり、やや菱形気味の体形などからみて、やはりムシクイコナダニの一種だと思う。Thyreophagus_sp_front

コナダニ科のヒポプスというものは、理解しにくいことが多いダニの世界でも、ひときわ異質な感じの生き物だ。陣笠のような平たい体躯、太い脚、食物を摂れない退化した口器、胴体腹面後部の吸盤構造などの形態を有する種が多く、それらは大抵の場合、他の生き物にしがみ付いて移動するだけで、付着対象の生き物から養分を摂らないらしい。
こういうのは便乗といって、寄生と区別されている。実際に実体顕微鏡レベルで昆虫の体表を観察してみても、ヒポプスによる吸い痕のようなものは確認できない。
腹面後部の吸盤のほうは、光学顕微鏡で観察するといろいろな大きさの円盤が並んでいるのだが、観察しててもナニが何だかよく分からない。昆虫の体表に吸着するための円盤部分と、昆虫から離脱するときに役立つらしい可動の円盤部分があるということなのだが、ムシに付着するだけにしては、やけに複雑な構造にみえる。

ヒポプスは移動能力が大きいので、コンタミネーションの問題を起こしやすいってところも注意が必要。何かから検出されたからといって、その何かに最初から付着していたのかどうか怪しいこともある。毒ビンで殺した昆虫の場合は、特に要注意と思う。Thyreophagus_sp_sucker


ムシクイコナダニ

2010-01-20 23:45:26 | 自然観察

とらまえたムシを、なんとなく手近な容器に入れて眺めるのは面白い。
観察といえば聞こえはよいが、私の場合は記録をとったりすることはほとんどない。
むしろ採集品を幽閉したまま忘れていることが多い。
何かの拍子に突然思い出して容器内のムシをみると、無数の蠢く粉のようなダニに覆われた死骸になっていることがある。戦慄の惨景に目の焦点をあわせないように苦労しつつ、あわてて観察対象を廃棄してしまうというバチアタリを今までに何度繰り返したことだろう。
ダニについて調べるようになったこの頃は、そういったことを少しばかり後悔しつつ思い出す。
捨てていた粉のようなダニのなかには、コナダニ類がかなり混じっていたと思うからだ。
コナダニ団に含まれる種は、カラダ全体がのっぺりしてて柔らかいのが多いってあたりが好きになれなかったけど、わずかながらでも分類できるようになるにつれ、愛くるしいヤツラだと思えるようになった。

お気に入りの種類の一つは、太っちょなムシクイコナダニの一種 Thyreophagus sp. だ。体幅に対して半分以下の長さしかない第III脚と第IV脚。これで歩き回れるってところが驚異。
この脚の特徴などから Thyreophagus berlesianus Zachvatkin, 1941
だろうと思うのだけれど、オスやヒポプスを観察できていないため、詳細な同定は保留中。スゴイ和名だけれど、別に生きた昆虫をなんかするってことはなさそう。とてもよくカビを食べる。仰向けにひっくり返してやると、いつまでも脚をバタつかせて永久にもとに戻れない感じなのに、翌日にはいつの間にやら起き上がっていたりする特技を持つ。
Thyreophagus_sp_female


文字の解読から

2010-01-10 20:49:00 | 日記・エッセイ・コラム

生き物の名前調べは、自分で調べようとすると何かと労力がかかるけど、偉い人に聞けば一瞬で結果が得られるので、楽な方法を選択するのが自然というものだろう。
だが、知の営みの最前線に立っている人から、分かりやすい答えが返ってくるとは限らない。往々にして、ナニを仰っておられるのかちっともわからないことさえある。
それらには、種を記述するということの裏に潜む底知れぬ深淵や、歴代の研究者が遺した絶望的な混乱などについての注釈が含まれていたりもする。
最終的には自分で判断しなさいという感じで、多数の文献コピーを頂くこともあるが、これは勉強嫌いな小学生が楽をしようとして先生のところへ質問にいくと、プリントの山をもらって泣きそうになるというのに似ている。
せっかくの情報なので読んでおこうとは思うのだが、ロシア語などで書かれてる文書は何とかなる気が全くしないので、絵を参照するだけの資料として保存されることになってしまう。

手軽にweb翻訳が利用できるご時勢だ。この頃になってようやく、露語テキストデータから情報を取り出せる可能性を試してみたくなった。
スキャナー画像からキリル文字を取り出すという問題は、秀逸なフリーのOCRソフトをみつけて何とかなった。
Cognitive OpenOCR (Cuneiform) 参考URL:
http://en.openocr.org/
*ロシア語のOCRソフト、英語インターフェースのほうをダウンロードして使用してみた。

キリル文字が並んだワード形式ファイルが、自動で作られたことだけでも感心することしきり。そこから、Google翻訳でロシア語から英語に変換する。
意外に普通な文章が生成されることもあるが、もちろん宇宙からきたナゾの暗号文みたいな文章がほとんどだ。とはいえ、ところどころ意味が分かるようになると、知らない場所にそっと踏み出したような奇妙な高揚感が湧いてくる。Russian_ocr