一雨ほしいなーなどといっていると、もの凄い大雨になって、エライことになった近畿地方だが、ムシにとっても今回の局地的豪雨は大災害だったに違いない。今日は、三田市の某公園でお昼の休憩をした。小川の川幅を広くして池みたいになっている場所の岸辺に、濁流で運ばれてきたとおもわれる多量のワラ屑のようなゴミが堆積していた。こういうところは珍しいムシが流れ着いていることがあるのでつついてみた。たくさんのクロコガネやビロウドコガネ類の死骸に混じって、生きたゴミムシ類やアリ類が徘徊していた。
特に珍しい昆虫は出てこなかったが、ナガヒョウタンゴミムシやチャバネクビナガゴミムシのような好みのコウチュウをみつけて採集してしまった。ナガヒョウタンゴミムシは草っぱら的な環境でよく採集されるが、近縁のホソヒョウタンゴミムシは似たような環境にいるとされるが、個人的には納屋の周辺やら犬小屋の下やらといった人くさい環境でみつけた経験がある。ホソのほうがやや少ないように感じるのは、里山っぽい場所が少なくなったせいなのではないだろうか?
ゼッタイ、去年よりも今年のほうが暑い!朝、事務所にはいると「熱の壁」がある。航空機の物理限界のことではなく、人の労働意欲をへし折る室温のことである。38℃もある空気層を5mほど移動してエアコンのスイッチにたどり着くことができれば勝ちであるが、いつかは途中で倒れて干物になるだろう。先日の京都のお寺さんの木陰が恋しい。
京都?何か忘れていることを思い出した。京都大学の生存圏研究所からアンケート用紙がきていたのだが、返事をしようにも仕事は山積みだし・・・・。今回は、確かヒラタキクイムシに関することだった。前回のアメリカカンザイシロアリの件では、きわめて有用なレポートが出されていた。ヒラタキクイムシについても、業界関係者の風聞の域をでない情報について、科学的な分析が加えられることだろう。協力しなくては。
チビナガヒラタムシも研究したいが全く暇がない。ネットで文献をチラチラみてても、ワクワクするようなことがたくさん記載されている。コハクからみつかった中新世の個体が新種記載されてる論文では、新種としての特徴の記述よりも、あまりに現生種と差異のないところに心底驚くし(「区別は容易」とか書かれているが、どこが?ってナットクできないけど)、成虫の形態に妙に違いがある南アフリカの個体群というのもみてみたいなとおもう。
それにしても、チビナガヒラタムシの成虫をあつかった研究は、世界的に少ないようだ。発生期についても同じような文献ばかりがでてきて、著者が直接観察した話は少ない。成虫の姿は小型のハネカクシかトビムシのようにしかみえないし、成虫の寿命が10日(ちゃんとした観察ではないが)くらいなので観察しにくいのは確かだ。でも、小型ってだけならコウチュウに1-2mmの種類なんか少なくない。研究者の観察を阻んでいる要因は何だろう?
やはり、気温ではないだろうか?ニューヨークでは8月のメッチャ暑い時に成虫がみつかるようで、日本でも蒸し暑い学校給食室で発生したりする。つまり「熱の壁」があるのだ!
こんな、目の中に汗が入ってイテーとかいってる日に、フィールドワークなんか自殺行為だし、実体顕微鏡なんかのぞけねーよということで、観察例が異様に少ないのに違いない。いや、熱なんかに負けへんぞ。ま、でもとりあえず麦茶と昼寝だ・・・・冷蔵庫、冷蔵庫。
SR-71みたいな高性能じゃないしなワシは。
祇園祭の喧騒を耳にしながら、鬱蒼とした木々のなかに佇む寺院で仕事をした。
大阪の事務所は暑すぎる。わが社はここのお堂の一角に移転すべきだなと、木陰の大きな石材のうえで寝そべって休憩しながら考えた。客の側に立って考えてみても、京都の有名なお寺さんからやってきた害虫屋ということであれば、なにやらありがたい感じではないか。殺虫剤の代わりにムシ封じのお札を売って、たつきとするのも悪くないなー。などとアレコレ営業戦略やら、お札のデザインを練っている間に、働き者の同僚たちが仕事を終えてしまった。
仕方ないので、余った時間でゴミ置き場のスギの杭をほじくっていると、チビナガヒラタムシの幼虫(あるいは幼態成熟雌)がでてきた。
京都府京都市東山区にて、本日チビナガヒラタムシの分布を確認・・・と。チビナガヒラタムシ在来種説を提唱するには、自然林の記録が無さ過ぎる。やはり、西表島辺りに行くしかない!と炎天下の境内で空を見あげて、星飛雄馬の目をしていると熱中症になりかかってきたので、とっとと帰り支度をした。
帰り道、京都府京都市南区九条河原町でプラタナスグンバイがいる街路樹の写真を撮影。
この侵入種も、日本の風景の一部になっていくのだろう。
幼虫の姿のままで子を成すが、子は母の胎内を食い破り姿を現す。
その子には、母にはなかった脚がある。母は無脚のカミキリムシ型幼虫だったが、子はオサムシ型幼虫で活発に歩行する。
やがて子も朽木にもぐり脱皮をすると脚がなくなり、孕んだ子に食い殺されるまで発育する。と、こんな風に書くとワケがわからんが、チビナガヒラタムシ Micromalthus debilis のメスの増え方である。
もう少し続けると・・・・・。
幼虫の姿のメスも、卵を産むことがある。卵は自分の体のうえに産み付ける。その姿は、まるで寄生蜂に卵を産みつけられた何かの幼虫のよう。卵からはオスが孵る。オスは母だけを食べて育つ。寄生蜂の幼虫のように静かに食い進む。朽木を食べるコウチュウだが、オスの幼虫は肉食で、その姿からゾウムシ型幼虫と呼ばることもある。
難解さはアンドレ・ブルトンの詩といい勝負のような気もするが、マジなチビナガヒラタムシの生活史の話である。
今日は、オサムシ型幼虫が母体の中で蠢いているところを観察した。
小部屋の中にオスが乱入してきているがコレは偶然と思う。
しかし、オスって朽木に潜るんだ。朽木のムシだから当たり前だが、一所懸命に穴掘ってるところをみると意外な気がする。で・・・なんのために穴掘るの?キミらは?
成虫がたくさん羽化してくるけど、ほとんどがオス。ちょっお前ら。専門書では日本ではオスが出ないとかいてあるんだから、もう少し遠慮しろといいたくなる。先達の飼育条件とどこが違うのか分からんが、やはり、常時30℃を超える暑い部屋という貧乏な環境が重要な要因と考える。
ついには奇形のオスも現れた。前胸のあたりから、さやばねが1枚余分に出ている。
ハネ3対ムシの古代昆虫パレオディクティオプテラっぽくって好きだが、発育異常に過ぎないと考える。
ところで、オス1個体を使用して飛翔実験をやってみたが、落下途中で少し螺旋を描いたかと思うと視界から消えて、真下に敷いた紙には着地せずにどこかへいってしまった。バミューダ・トライアングルな結果の胡散臭い実験だが、確かにチビナガヒラタムシは飛翔するようである。
昆虫採集が命な友人の一人から、仕事中に電話がかかってきた。
「チビナガヒラタムシ採集してみたいけど、どこにいてるん?」
「なんで、そんなもんいるねん?死ぬほどメクラチビゴミムシ採りまくってる人が、必要とするムシとは思えんが。」
「図鑑の一番目の図に載っているのに、採集したことがないから。」
なるほど、十分な理由である。私も、ゼンゼン採集したことがない種ばかりが載っている図鑑のページを眺めていると、それが興味をひかれないグループのムシであっても妙に悔しい気分になる。
チビナガヒラタムシの幼虫が入っている材についてのメモ。
1)褐色腐朽菌が入り込んでいる木材。マツ、スギ、ベイツガなどの針葉樹が好み。乾燥気味の材でみつかりやすい。野ざらしの古い板塀などをみつけたらチャンスである。
2)素手でほぐすことができる柔らかい部位にいる。幼虫が小さいので見逃しやすいが、慣れてくると簡単。
3)ボロボロに腐って何の木かわからないような街路樹の切株でも採集できる。日本最古の幼虫標本は、御堂筋のイチョウからみつかったモノだそうだ。
4)古い文化住宅が集中している地域。路地を占拠している鉢植えの台で使用されている腐った木の板。
5)古い木造住宅の解体現場。外壁から浸み込む雨水で腐朽した下地板など。こういった現場から、山の中に運ばれて不法投棄された材からもみつかる。で、山の中に「ゴミ捨てるな」と書かれた看板の杭のテッペンあたりでもみつかることがある。
文化住宅周辺はオススメなポイントで、ステテコに腹巻したコワイ感じのオッチャンがサツキに水やりしているトコロなどで、腐った台の端っこをもらうとよいだろう。チビナガヒラタムシという種は、どこか懐かしい古い場所でよくみつかるようにおもう。たぶん侵入種だとしても、ずいぶん昔に日本にはいりこんだのだろう。
本年最初の成虫を、きのう飼育容器でみつけた。和泉市三林町の個体で2♂、1♀。いつも忙しい時期に羽化してくるので、まともに観察できないがチョット撮影してみた。動画はオスの成虫。
オスには、腹端からチョロンと交尾器の一部がみえるという特徴がある。オスの交尾器をみれば、最初はツツシンクイムシ科Lymexylidaeに加えられていたことにナットクする。少なくともナガヒラタムシTenomerga mucida のオス交尾器とは似てない。