害虫屋の雑記帳(ブログ人の保存版)

ブログ人のサービス停止に伴い、gooに過去記事を保管させてもらうことにした。

ケナガコナダニの憂鬱

2010-04-29 23:56:00 | 自然観察

身近で普通にいると思っている種が、実はややこしい分類学的な問題をはらんでいることがある。遠き山々のオサムシ類やらルリクワガタ類などであれば、どれほど種が増えて分類が困難になろうとも、微笑みながら傍観できるが、日々そこらへんの生活圏で出くわす種が、分類困難な複数種で構成されているなんてコトになると勘弁してくださいよマジで、と思う。
ケナガコナダニ Tyrophagus putrescentiae なんて種は、今まで悩むことなく同定してきた。でも実のところ、過去から現在に至るまで難しい分類学的な議論が何度もあった種なのだ。みんなが薬剤試験に使ったりしている種は、ホントは違う学名を使用すべきという論文がでたり、それに対抗して、いやもうみんなが使ってる学名は保護されるべきだしという論文がでたりで、ややこしいコトこの上なしだ。
害虫駆除業者としては、食品上でみつかることがあるし、海外の種かどうかを調べて欲しいという依頼もあるので避けては通れないトコロ。

比較標本を収集するために、大阪市福島区海老江、和泉市信太山の惣ヶ池などのアシの枯れ茎でみつかる個体群のプレパラートを作ってみた。Tyrophagus属のオスは、胴体を横向きにしてカバーグラスで押しつぶすとムニュっと交尾器が飛び出してきて、観察しやすくなる。
すると、オスの交尾器やら上基節剛毛(scx)が、ケナガコナダニとは異なっていた。
どうやら、T. curvipenis Fain & Fauvel, 1993 のようだ。
この種はポルトガル、フランス、オーストラリアの温室などでみつかっている。
日本からランやらユリやらが輸出されることがあるけど、日本が原点てことはないよな、まさか....。ダニって基本的にコスモポリタンな種が多いから、気にしないことにしよう。
Tyrophagus_curvipenis_maleTyrophagus_genitalia Tyrophagus_scx


アナタカラダニの眠り

2010-04-26 22:39:58 | 自然観察

初夏に多いアナタカラダニ。食品工場では、包装資材を汚損する実害もでている。
ビルの最上階に多い場合は、屋上でせっせとコケ取りをすると結構効果があると思う。目地の隙間のわずかなものも見逃さないように掃除することが肝要。除去したコケを拡大して観察すると、やはりアナタカラダニの個体数が多いことが分かる。
この時期のアナタカラダニは、頼りなげな幼虫のほかに、無脚の若虫がコケの根元あたりに沢山ころがっていたりって感じで、今年の春は寒いから発育が遅れているのかもしれない。Balaustium_nymph

コケの中には、アナタカラダニのほかに多数のモンツキダニの一種がいたのだが、狭い容器に一緒に閉じ込めてみても、捕食するところは観察できなかった。
あと、少数のチビテングダニの一種とかもいた。
トビムシ類や双翅目幼虫が意外に多い。
アナタカラダニはナゼか幼虫がよく共食いをしていた。他にはコケを食べているのじゃなかろうかと思うような行動もみられたが、確信は持てない。Balaustium_larve_cannibalism

日当たりの良い場所をウヨウヨする様子から、こいつらは本当に太陽の光が好きなんだなと思う。このダニが、タンパク質なんかを合成するのに光反応をすごく積極的に利用しているなんてことはないのだろうか?生化学に詳しい人に、他の動物でそんな事例がないか聞いてみたい。動物で日光と関係があるって、ビタミンDくらいしか知らないし。

容器にコケをいれて眺めていると、ホワホワした緑というのは人をなごませるのか、なにやら心が落ち着く。ジオラマみたいで、草原とか山地の針葉樹林帯にみえたりして、タマシイが何処か飛んでいってしまいそう。


やわらかササラダニ(コナダニ風)

2010-04-02 23:43:40 | インポート

以前に、ササラダニ不明種とラベルした標本を再度同定してみた。Ctenacarus_araneola_adult Ctenacarus_araneola_siriken

室内塵から時々出てくるのだけれど、科も分からなかった種。
和室のちょっと古いめの畳から検出されることが多い。
実体顕微鏡でみると、変なコナダニみたいにみえて検査者を悩ます。
日本産土壌動物検索図説で絵合わせしてみると、どうみてもシリケンダニ Ctenacarus araneola (Grandjean, 1932)にしかみえない。オシリに両刃の剣状の剛毛が1対あるなんて種は、他に載っていない。だけど、絵解き検索でたどってみると、爪が3本という特徴があるため、シリケンダニ科(爪が2本)にいき着けない。
でも、ササラダニの仲間には、同一種でも爪の数に変異があったりする種がいる。ということはシリケンダニでもよさそうだ。室内で見つかる個体群は爪が3本なのかも知れない。

ちょっと形態の異なる若虫もしばしばみられるのだけれども、同一種と思う。

World Oribatida catalog (http://www.ucm.es/info/zoo/Artropodos/Catalogo.pdf) によると、同属でC. foliisetosus Bulanova-Zachvatkina, 1980というのがロシアやヨーロッパにいるらしいが、その種の資料は手にはいらなかった。
結論として、C. araneolaは、熱帯から亜熱帯に分布する種とされていることも合わないし、爪が一致しないので、シリケンダニの一種 Ctenacarus sp.としておこう。
まあ、最近の家屋の中は亜熱帯って感じなのだけれど。

Ctenacarus_araneola_nymph

*標本データ
シリケンダニの一種成虫 Ctenacarus sp.
 大阪府和泉市1992年8月、和室の畳

シリケンダニ上科の一種 Ctenacaroideaの若虫(上の種と同一種と思うがAphelacaridaeと比較していないので科の決定は保留。決定には飼育が必要だろう。)
 大阪府大阪市1988年7月、和室の畳