害虫屋の雑記帳(ブログ人の保存版)

ブログ人のサービス停止に伴い、gooに過去記事を保管させてもらうことにした。

チャイロオオイシアブに便乗しているコハリダニ

2014-06-29 12:41:34 | 自然観察
Iolinidae_gensp
●チャイロオオイシアブに便乗しているコハリダニIolinidae Gen. sp. をAcleris氏から頂いた。
以前にもオオイシアブの胸部腹面中央に球塊となって集団を形成しているのをみたことがあるが、今回も同じパターン。
おそらくこのコハリダニは、あまり乾燥していない朽ち木の孔道で、イシアブ幼虫が食べ残した昆虫の残渣で生活しているのではないかと思われる。イシアブが成虫になる頃には食べ物の供給が止まるので、サナギの周囲に集まって新天地に連れていってもらおうというような生活史じゃないだろうか?
いまのところ、乾燥気味の枯れ枝からでてくるタイプのムシヒキアブからは見つからない。

ダニにはそんなのが多いけれど、コハリダニ上科Superfamily Tydeoidea の多様性も半端ない。
Ereynetidae, Iolinidae, Triophtydeidae,
Tydeidaeの4科で構成されているが、日本では全部まとめてコハリダニ科 Tydeidaeという扱いの研究者が多いようだ
コケだの高等植物やらにたかってたり、腐葉土にいたり、ハチやケモノの巣にいたり、水生甲虫のさやばねの下、ほ乳類、鳥、カエルの鼻腔、ナメクジやカタツムリの体表などなど。
室内塵も忘れてはならないけれど、これは動物の巣というくくりでいいだろう。
以前に、オオイシアブで見つかった種は日本産土壌動物(1999)で検索して、ナメラゲコハリダニの一種 Pronematulus sp. にしていたけれど、昆虫に便乗している種群はProctotydaeusという属に含まれるものが多いらしい。

これらの属は、第III脚と第IV脚のふ節の毛の数が7本かの6本かで見分けるとされるけれど、ウチにある顕微鏡ではぼんやりとしか見えず、6本のような7本のような・・・。というわけで、プアなシステムでも毛の数が分かるような光学的工夫を考え中。
チャイロオオイシアブで見つかったコハリダニはProctotydaeus sp. かもしれないが、もう少しいろいろと観察したり、文献を読んでからでないと何ともいえないということが分かった。

*7月2日追記:第III脚と第IV脚のふ節には7本の毛がみられた。顕微鏡のレンズ表面のゴミをよく取って、朝一番の目が疲れていないときに観察した。簡単なスケッチを描くことで、毛の位置と本数を確認した。
オオイシアブ類でみられるのはProctotydaeus sp. と判断した。日本産土壌動物(1999)ではProctotydeus (スペル間違いなので引用注意)になっていて、ムシコハリダニ属の和名があてられ、「日本に生息するかは不明」と記述されている。
なお、この本の絵解き検索では、PronematulusとProctotydaeus の区別はムリだと思う。


●先日の当ブログの記事でムーミンのネタを書いたけど、もういちど全部読みなおそうとおもって、図書館から何冊か借りてきた。
ムーミンに出てくるへムル族は、昆虫採集したりしておタクなヤツが多い。
特に「ムーミン谷の仲間たち」の遊園地の偏屈なヤツには激しく共感してしまう。
単調でしょーもない仕事でも、やってると夢中になってくるというあたりとか・・・。年金暮らしを夢見てる情けなさとか・・・。
「ムーミン谷の彗星」にでてくるヘムレンさんが持っている「北半球の昆虫 その習性と非習性」って本のタイトルが気に入った。そんな本を書いてみたい。
Photo
●今年の11月末でブログ人がサービスを停止するらしい。ドコに引っ越そう?

ムダじゃムダじゃ

2014-06-15 23:45:02 | 自然観察

トカラウロコアリ有翅メスを標本にしていると、腹部の表面になんかポッチリと半球状のゴミが付着していた。ネズミ用粘着板に捕まっていたアリなので、ゴミが最初から付いていたどうかは不明。

自信なげにプレパラートにしてみるとダニだった。体長約0.13mm。
実体顕微鏡でいじっているときはまん丸にみえていたけど、カバーガラスをかぶせたらムニューと横長になってしまった。
Scutacarus_sp

日本ダニ図鑑で絵合わせして、ヨコナガヒサシダニScutacarus expectatus Karafiat と見たまんまの和名にたどり着いたが、よく見比べると胴背前方の剛毛(c1,c2)は、こちらの標本の方が少しばかり長いように見える。

Khaustov (2008)のモノグラフを参照すると、第IV脚ふ節の長い剛毛が少し異なっていた。S. expectatus は0.05mmを超える長い剛毛が3本だけど、手元のヤツは4本もある。やはり1個体だけで名前を調べようってのは、かなりムダな行為といえる。

昆虫に便乗しているダニ類のなかで、ヒサシダニ科はかなり解明が進んでいるグループだと思う。日本の研究者にも、多数の種を記載されている偉い方がおられる。

便乗性ヒサシダニ類の観察なんて、害虫駆除業者には本当にムダなことだという気がする。
ムーミン谷のじゃこうねずみさんの愛読書「すべてのことはムダである」にだって、これくらいムダなことは書いてないだろう。

ところで数日前に、じゃこうねずみさんはホントはマスクラットであって、ジャコウネズミではないっていうことに気がついて調べていたら、たぶんモデルはショーペンハウアーだろうって書いているサイトをみつけて、しきりに感心した。

↓ホンマに似とる。
http://www.hermitary.com/literature/jansson.html

参考文献:Khaustov AA (2008) Mites of the family Scutacaridae of Eastern Palaearctic. Akademperiodyka, Kiev, 291pp.


エグリゴミムシとアリとの交際疑惑

2014-06-12 00:28:01 | 自然観察

Pyramica_and_eustra01
あやしい。やはり、どこかで両者はコッソリと関係しているかもしれない。
病院の食堂室内(兵庫県南部)に設置したネズミ用粘着板をみて、そう思った。
トカラウロコアリが、コロニーごとゴッソリ捕獲されていて、その中にエグリゴミムシの成虫が2個体混じっていたのだ。

ずっと昔は、アリやシロアリの巣の近くでみつかるので、エグリゴミムシは社会性昆虫と関係があるという意見もあった。最近、エグリゴミムシ幼虫はアリがいないところで育つことが分かったので、社会性昆虫とは無関係ぽいと私は思うようになった。
でも自分の記憶を探ってみても、成虫はアリの近くで見かけることが何度かあったと思う。
アリがドコにでもいるだけって気もするが、オオハリアリの集団の側やら、落ち葉の下のシリアゲアリ類がざわざわしているスミのほうとかで観察したことが何度かある。
なにかの図鑑でアリの近くで見られるって読んだような気がするから、過去に専門家も似たような観察をきっとしているのだろう。
エグリゴミムシ成虫は、ひょっとしたらアリ類となんらかの化学的な関係を隠し持っているのかもしれないという気がしてきた。

Pyramica_membranifera_000
トカラウロコアリの群飛は5-6月ってことらしいのも今回の件で分かった。
どうでもいいことだが、トカラウロコアリはヘンな顔だ。
目が頭部の腹面(下面)についている。いったい何をみていればこんな複眼の位置になるのだろう。
Pyramica_membranifera_01b

Pyramica_membranifera_02b


かわきとかつえの世界

2014-06-01 01:33:52 | 自然観察
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アスファルト舗装された駐車場の車止め。
車止めの側面には、小さな四角いくぼみがあってコケがわずかに生えていた。
こんな場所だと、乾きがどんな命もさらっていってしまうようにみえる。
アナタカラダニたちは、強い日差しに焼かれたコンクリートや、アスファルトを平気で走り回ることができるけれど、これは実際のところとんでもない能力だ。
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差し渡し1mmほどの水滴を同じところにおけば、どれほどアっという間に気化するかということと比べれば、1mm足らずの小さなアナタカラダニが干からびもせずに活動できるというのは、すごく不思議なコトといえよう。

昆虫もいろんなのがいるけれど、アナタカラダニと同サイズで、炎天下の乾燥した場所で長時間にわたり同じように活動可能な種となると、ちょっと思いつかない。

少し大きい種だったらアリ類がいるが、あやつらにしてもまったく水気のないビルの屋上を長時間うろついたりなんてことは苦しいだろう。
アナタカラダニの目の近くには、かすかに突出したエントツのような構造があって、ウルヌラと呼ばれる。ウルヌラが穴のようにみえるので、アナタカラダニって名前なのだろう。
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ウルヌラからは赤い分泌物が出てくる。この分泌物は体中をコーティングして耐乾燥・耐日光をもたらすらしい。デューン砂の惑星のスティルスーツみたいだ。
そういえば、カバもたしか赤い汗で体表の乾燥対策をやってたと思う。

ニンゲンの女性が使用する日焼け止めも、真っ赤なのをつくるとよさそう。
ウルヌラの分泌液の効果については論文がでてて、日本の種とは同じかどうか分からないけれど、アレニウスの式とか相転移の臨界温度なんてバケガク話が好きな方は、以下の論文が参考になると思う。
Yoder,J.A.; Rigsby,C.M.; Tank,J.L., 2008: Function of the Urnulae in protecting the red velvet mite, Balaustium sp, against water loss and in enhancing its activity at high temperatures. International Journal Of Acarology: 4, 419-425
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この時期はコケの根ぎわに、多数の暗赤色の卵が産みおとされている。
これも調べると面白そう。