害虫屋の雑記帳(ブログ人の保存版)

ブログ人のサービス停止に伴い、gooに過去記事を保管させてもらうことにした。

メジャーなコガネコバチ

2014-08-07 23:57:43 | 自然観察
● コクロヒゲブトハネカクシの発生現場から、ヒロズキンバエの囲蛹をいくつか拾ってきて、何が出てくるか楽しみにしていた。
期待していたハネカクシは結局現れず、最後の一個からはコガネコバチが出てきた。
コバチなんてメチャクチャたくさん種類があるので、普通は種までとてもたどり着けたのものではないのだけれど、コレは応用昆虫学ではよく知られている有名バチ。
キョウソヤドリコバチ Nasonia vitripennis といって、「キョウ」は何だか得体の知れない読めない漢字でウジの意味、「ソ」というのは読めるけれど人生で書くことはあまりなさそうな漢字でやはりウジの意味。わかりやすくいえば、ウジウジヤドリコバチということになる(のか?)。
ハイカラでナウい害虫駆除屋のなかには、生物農薬として販売されているコイツらを使って、キンバエ退治をしたりするところもあるそうだ。
オスはハネが短くて飛べない。
Nasonia_vitripennis01

Nasonia_vitripennis02
● 北海道の例のタテスジのあるフトカミキリモドキ族は
多分この属↓
検索表でも特徴が合うけれど、大西洋岸で普通種とはいえ、まさか同じ種ってコトはないと思うが・・・。
でもハマベキクイゾウムシとかツマグロカミキリモドキなんて分布を示す例もあるし、同一種かも知れん。Alloxacisってシノニムで消えるのか!
当ブログの過去記事↓
参考文献:Arnett JR RH. (2000). False blister beetles, Coleoptera: Oedemeridae. UF/IFAS Featured Creatures. EENY-154.

土のなかのもの

2014-08-06 13:12:26 | 自然観察

職場の近くで、地面を掘り起こして工事している。掘り出された青黒い粘土のような土には、ついつい物欲しげな視線を送ってしまう。
それというのも、大阪の平野部の遺跡などからは、今の大阪では採集できない珍しいコウチュウの破片が出てくるという話を聞いたことがあるからだ。
黄色くて根食いな葉虫の、翅端が尖ったさやばねなんかは自分も拾ってみたい。源五郎のモドキなヤツも見つかるらしいが、縄文時代から室町時代の頃の、どこまでも湿地が広がっていた大阪なんて想像もつかない。

Doronoyama

昼時にはブロック塀越しに現場をのぞき込みながら、あのピカッて光ってるのは絶対そーやわ、とかいいつつ妄想を膨らませている。

河内平野では、地下水が豊富で軟弱な土地が多いため、地中10~50mくらいに丸く深い穴をあけて、石灰やらなんやらかんやらで固め、基礎の一部にするというやり方が流行りなようだ。深層混合処理工法というらしい。
このあたりの地下水にも生きた微小甲虫がいるとしたら、そいつらに影響はないのだろうか?いるかいないかわからないものが、確認されることもなく忘れられていくというのは、ホントにどうでもいいことだろうけれど、ふとした拍子に地面の深いところで泳いでいる虫の姿なぞを思い描いてしまう。


キンバエとハネカクシ

2014-07-27 21:49:59 | 自然観察
ムッチャ暑い。
地球上とは思えんくらいアツイ。
炎天下に動き回っていると、だんだん気持ち悪くなってくるが、それを過ぎると何だかサワヤカな気分になってくる。

コレは危険なフラグが立っているだけで、もちろん短時間で暑さに慣れたりするはずはない。
むやみにガンバリ続けていると、羽が生えた美しい幼児たちが群がってきて、雲の上に連行されたりするかも知れないので要注意だ。


ハネがはえた美しい生きものといえば、キンバエ類が元気なのもこの時期である。
部屋の中にスゴクたくさん飛んでいるときは、どこかにイヤなものが転がっているシルシといえる。
害虫屋の仕事で多いものに、そんなイヤなものを探すというのがあるけれど、イヌ年生まれで鼻がきく私でも上手く発見できることはあまりない。

それに比べて、ドコで発生するかわからない動物の死体を見つけられるキンバエ類の探知能力は恐るべきものだ。でもそんなキンバエ類を狙う虫もいるようだ。キンバエ類が増えるとハネカクシの一種が目立つようになることがある。室内では大きいと感じる体長5~7mmくらいのハネカクシで、ハエみたいに飛び回る。ハエの天敵としては、ヒゲブトハネカクシ類 Aleochara spp. がよく研究されており、クロバエ科を食べる種も報告されているようだ。 ナカアカヒゲブトハネカクシ Aleochara curtula っていう広域分布種は、幼虫の生活史などが面白いらしい。一度は自分でも観察してみたい。

Aleochara_sp02
兵庫県南部の建物内で、光誘引式捕虫器にキンバエ類と一緒に捕まっていたヒゲブトハネカクシの一種 Aleochara sp.を、粘着剤から取り出して調べてみた。
普段の業務では、ハネカクシについて知らぬ存ぜぬ存ぜぬ知らぬを決め込んでいるけれど、甲虫は好きだし。

往々にして知らない知識の世界には厚い壁があって入れないものだけれど、そんな壁もツンツンしているうちに隙間ができて、向こうが少しくらい見えてくるかもしれない。

Genitalia02

文献をネットで探してみたが、断片的な情報しか得られなかった。ちょっと検索したくらいで、交尾器の図とかが一致して、すっきり問題が解決するような論文が見つかるくらいなら、世のなか苦労はしない。



Aleochara_sp

こっちは捕虫器の個体と同じ場所で、走り回ってたヤツを確保。胸部と腹部の節間膜から、エアーピンセット逆噴射で体内に息を吹き込んで膨らませつつ乾燥させた標本(体長約6mm)。

やっぱ頼りは、原色日本甲虫図鑑II巻(1985)と原色昆虫大図鑑II巻(1963)しかない。
なんだかんだと観察してみて、どの個体もコクロヒゲブ卜ハネカクシ Aleochara parens Sharp, 1874 と判断した。
機能性を追求した結果かも知れないが、形態にゴキブリを思わせる雰囲気があってカッコイイ。特に頭と胸のあたり。


この仲間の検索表は以下の論文に出ていた。
Park, J.-S., and K.-J. Ahn. 2010. Redescription of Aleochara (Aleochara) kochi Bernhauer with a lectotype designation and key to species of the subgenus Aleochara (Coleoptera: Staphylinidae: Aleocharinae) from the Far East. Journal of the Kansas entomological society 83: 313?317.
この検索では、腹背板第8節の後縁中央がへこんでいる程度が鍵になっていたりする。「明瞭にへこむ」と「浅くへこむ」の違いは、一つの標本しか見ていないのなら意味のない情報だが、触角基部1-3節が茶色いのなら parens となるらしいので、同じくコクロヒゲブトハネカクシという結果になった。

ということで、ヒゲブトハネカクシ属 Aleochara ってのは結局よく分からんけれど、うちらの仕事でもネズミ防除や異物問題などで、重要視されるシーンが増えそうな予感。今後要注目。
*maruyama氏のご助言のとおりにオス交尾器の中央片の写真を追加。
長さ1mm、幅0.5mm(7/29)。
ぼやんとした写真しかとれないけど、うちの手持ちコリメート技術ではこれで精一杯。
参考にはならないかも知れませんが貼っておきます。(クリックで大きくなります)
Aleochara_sp_genitalia02
*7/30追記 ヒゲブトハネカクシがご専門の丸山さんから、やはりコクロヒゲブ卜ハネカクシ Aleochara parens Sharp, 1874 とのコメントを頂いた。わざわざ見てもらって、同定までして頂けるとは、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
*8/2追記 「日本産ヒゲブトハネカクシ亜科データベース」に掲示された交尾器写真をみて、似たような感じにならないかと思い、撮り直してみた。写真撮影時だけガムクロラールに漬けて、あとで水洗いして台紙に戻した。内部の構造がチョット分かるようになった。
Aleochara_parens_male_genitalia01
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このシロアリの頭みたいな中央片に詰まっているモノは、ナマコが内臓をボヘッと吐くように中身が飛び出すらしい。
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なんか鱗のようなモノが中身についているが、これは先に交尾した雄の精子を掻き出すという例の仕組みかも。

分布の引き潮

2014-07-20 10:41:18 | 自然観察

始原亜目の研究をはじめた学生さんに、チビナガヒラタムシの材を拾ったら送るヨとかって安請け合いしていたら、恥ずかしいことにゼンゼン採れない。
町中を不審者として徘徊する時間をあまり作れなかったということもあるが、採集を妨げる要因としては町がキレイになったコトのほうが大きい。

古くてボロッちぃ板塀もなければ、空き地に捨ててある廃材も見かけない。
木の杭だって大概が加圧注入材だ。
チビナガヒラタムシを採集できない言訳を考えていると、年季のいった虫屋さんのなかには、他人が希少と思っている虫を、さも普通種のように語るタイプの人がいることを思い出した。教えてもらったとおりにしても採れないですがと疑問を呈しても、「おかしいな。昔はイッパイおったけどな。」などとさらりと流される。
・・・今の私だ・・・、、、。

飛んでいるヒメバチがみんなオニホソコバネカミキリだったとか、立枯れ木のどれを割ってもオオクワガタが無数にでてきたとかって話をされても、眠たげなフクロウのような顔をして聞いていたものだが、そのときは確かに虫が満ちている時勢だったのだろう。虫の勢いが上げ潮で、インセクトタイド・ライジングだったのだろう。
考えてみれば、人間の経済活動の栄枯盛衰に合わせて、生息範囲が潮汐のように押したり引いたり変化している虫ってスゴク多いに違いない。

何かが放棄されることで、特別なムシが一時的に増えるって事がある。
養蚕の時代の終わりがオニホソコバネ豊漁で、木炭の時代の終わりがオオクワガタのタコ採れだとすると、私がチビナガヒラタをやたらとみていたのは、いったい日本の何が終わったのか?

それはおそらく、古き良き大工の時代の終焉ではないかと思う。
個性豊かだったり、適当でいい加減だったりな木造構造物が劣化して消えゆく頃に、シロアリ屋として働いていた私が、方々のお客さんちで腐った木材をたまたま観察できただけなのかも知れない。

現在の木造建築はプレカットが主流だし、エクステリアなんかでも何でも木で造ってしまう風潮がなくなって、古ぼけた木ぎれが市街地の風景から消えたのだろう。

Higasiyama_tibinaga01
仕事の休憩中に、京都の東山で引き潮を追ってみた。やっとのことで林の中で松材らしき木ぎれをひとつ見つけて表面を指でむしってみると、チビナガヒラタムシの有脚幼虫が2匹走り出てきた。でもあまり多くの個体ははいってなさそうな感じ。

朽ち木を利用することにおいて、どこでもヤマトシロアリの勢力は圧倒的だけど、材の端や表面近くのシロアリの食べ残し部分を調べてみると、チビナガヒラタムシの孔道が出てくることがある。チビナガヒラタムシは、ほんの少しでも適した腐朽部分があれば入り込んでいるのでなかなか気づきにくい。

チビナガヒラタムシの材をみているとホソアリガタバチSclerodermus harmandi (Buysson, 1903) のメスが1個体でてきた。朽ち木の中の甲虫ならなんでもかんでも寄生するので、チビナガヒラタムシも狙われていたのかも。
クロアリガタバチという和名は専門家が使用しなくなったけれど、私にはすり込まれているので現在でも使用してしまう。
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Sclerodermus_harmandi_03s
チビナガヒラタムシは、始新世以前から長い興亡の歴史を経て、地球の方々で分布の進退を繰り返している希有な単一種だと思うけれど、専門の寄生蜂もどこかに生き残っているかも知れない。

ウルトラQでゴメスとリトラがでてくるどうしようもない話を、何故か急に思い出した。


イエシロアリのヒゲダニ

2014-07-16 00:18:57 | 自然観察
イエシロアリの駆除現場から巣(あるいは分巣)の一部を持ち帰って、コンテナボックスなどに放り込んでおくと、ときおりコナダニ系のダニが湧いてくる。
以前は、野外性のコナダニ団など分かるはずもないし、標本をつくろうなんて気も起きなかったが、この頃は心境が変化して、次に見かけたら背を向けずに向かいあってみようと気に留めていた。
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10日ほど前に、イエシロアリの分巣のかけらを手に入れた。
巣のかけらには、わずかな働きアリと兵隊アリが残っているだけだったが、霧吹きで水をかけて保管しておくとヒゲダニが現れた。
成虫の体内にはグアニンの結晶が詰まっていて、真っ白にみえる。
この手の人間社会が求める実用性と何ら関わりを持たない微小生物の名前を調べようとすると、驚くほどの艱難辛苦にみまわれることは分かっているけれども、ちょっとは心当たりがあったので調べてみた。
心当たりというのは、かなり以前に入手していたW. J. Phillipsen and H. C. Coppelの2編の論文。日本から海を渡って米国に届けられたイエシロアリのコロニーから、コナダニ団を発見したという内容で、発育期間や繁殖様式などについても詳細に記録されている。
イエシロアリを送ったのは、和歌山県にある前田白蟻研究所(現在は社名を変更)という老舗のシロアリ駆除会社である。このような自然科学の地味な発展に、ひっそりと貢献している会社も世の中にはあることに、同業者である私としてはなにがしかの感慨を覚える。
記載された2種の学名は以下のもので、いずれも和歌山県がタイプ地ということになる。

イエシロアリコナダニ Acotyledon formosani Phillipsen et Coppel, 1977
*現在はAustralhypopus formosani (Phillipsen et Coppel, 1977)という扱いになっている。
イエシロアリヒゲダニ  Histiostoma formosana Phillipsen et Coppel,  1977
今回観察できたのはヒゲダニのほうなので、イエシロアリヒゲダニではないかと当たりをつけた。

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イエシロアリヒゲダニは、注目すべき区別点として次の形質が挙げられていた。 
メス成虫の特徴は、彫刻模様(私にはゴルフボールの表面形状が近いように感じられる)がついた前胴体部楯板があり、鋏角の歯は9個。
ヒポプス(第二若虫)は第I脚のg3剛毛が小さい。
さてはて・・・Histiostomaって、ものすごく種類が多いのに、こんな単純な区別点だけに頼っていいものかなと不安が押し寄せるが、体表の剛毛についても配列や本数が概ね一致することからイエシロアリヒゲダニと考えた。
コンテナ容器の底には、半分水に浸かったようなイエシロアリの兵アリや働きアリなどの死骸が転がっていて、その周辺にイエシロアリヒゲダニがワラワラと増えていた。

ヒゲダニは腐敗した水の皮膜みたいな環境が好きだ。
成虫の口器は、刺したり、咬んだりはできない軟弱なつくりで、液体中の微生物や有機物を濾過摂食 (filter feeding)している。体は小さいながら、食事方法はシロナガスクジラと同じというわけだ。
イエシロアリヒゲダニが、卵から成虫になって次に卵を産むまでに要するのは、たったの6.9日とのこと。
驚異的に短いが、アリやシロアリに便乗するダニ類は、短期間で発育を終えるものが多いらしい。いつまでも何の変化もなく、のほほんと便乗しているようにしか見えないヒゲダニのヒポプスだが、見ていないところでは意外に機を見るに敏なヤツだったりするのだろう。

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イエシロアリヒゲダニの第二若虫(ヒポプス)
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 イエシロアリヒゲダニの第二若虫(ヒポプス)

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吸盤群 ダルマの顔みたい。

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プアな光学的工夫で観察中のヒポプス。光学顕微鏡の光源を消して、ステージの横からLED懐中電灯(1w)を照射している状態。
暗視野で微小な剛毛を光らせて確認したいときに、この方法を試みるが役に立った例はそう多くない。
LED懐中電灯を持つ手がツってくるという大きな弊害にも目をつむれば、すてきな観察方法である。



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光学顕微鏡の横で、こんな感じで文献を読んでいた。
これは息子が大学生協で買った高価な電子辞書だが、電池が保たないという理由で放置されていたのでPDF閲覧用として私が接収した。SDカードも使えて、検鏡しつついろいろな文献の絵と見比べたりするのにチョット便利。
大学生協にそそのかされてムダに高機能な情報機器を購入してしまい、なおかつ私のようにガラケーしか持っていないというような方にはお薦めな文献活用法と言えやう。