害虫屋の雑記帳(ブログ人の保存版)

ブログ人のサービス停止に伴い、gooに過去記事を保管させてもらうことにした。

オサムシヤナカセ

2013-08-29 00:28:52 | 自然観察

うんと昔に対馬でオサ堀したとき、クワで潰してしまったカブリモドキのコトを思い出した。
その標本は、さやばねがとれて丸見えになった腹背板に、コウチュウダニがたくさんくっついているのが気色悪すぎて覚えていたのだ。なんとはなしに、コウチュウダニなんてものも少しは観察しておこうと思い、標本を探し出してプレパラート標本(図1)を作ってみた。
Canestriniidae_gen_sp_carabus_2

じっくりみると、なかなか興味深い形態のダニ(オサムシナカセの一種? Photia sp.?)。超極細のハサミだが、これで一体ナニを食べているのだろう?

オサムシ類は、個体数だけなら今までかなり採集しているけれど、実はあまりコウチュウダニをみかけたことがない。
おそらく、オサムシのコウチュウダニは体表でみつかりにくく、普通は癒着したさやばねと腹背板の間に潜んでいるため、採集者の目に触れにくいだけだと思う。
なにぶんオサムシともなると軽々しく虫ケラ扱いできず、いわば貴重な宝玉のごときものであらせられるため、標本の損傷が避けがたい寄生ダニ探しなんて、オサ好きにとっては信じがたい軽挙妄動といえよう。

なんていいつつ、カブリモドキ以外のオサムシへの寄生状態も見たくなってきたので、虎の子のオサムシ標本を10個体ほど調べてみた。結局、標本の触角を折るなどして、やっぱ壊してしまったあげく、妙高山産マイマイカブリから1個体だけコウチュウダニ(図2 マイマイカブリナカセの一種? Canestrinia sp.?)を得た。打率悪すぎ。変わり果てたオサムシたちをみつめて、少し泣きそうになった。
Canestriniidae_gen_sp_damaster_2

日本産野生生物目録 無脊椎動物編1(1993)には、日本産のコウチュウダニ科 Canestriniidae(コナダニ団 Astigmata)として以下の3種だけが載っている。
1.マイマイカブリナカセ Canestrinia pictura Samsinak,1971
2.クワガタナカセ Coleopterophagus berlesei Kishida,1925
3.カワリオサムシナカセ Photia polymorpha Samsinak,1971

コウチュウダニ科の種数は、世界で95属約300種が記録されていて、それらはオサムシ科、コガネムシ科、クワガタムシ科、クロツヤムシ科、オオキノコムシ科、ゴミムシダマシ科、ハムシ科、カミキリムシ科などでみつかっている。日本でも上記の3種の他に、相当な数の未記載種がいるようで、クワガタムシ類に付着している種群などが研究されつつある。オサムシにいる種も、宿主の種分化に対応した多様性がありそう。

さやばねの下(subelytral space)にも、未知の宇宙が広がっていると。


ヒトクシゲツメダニ

2013-08-16 21:21:00 | 自然観察
■種数が多いツメダニ科とはいえ、室内塵から検出されて、なおかつ「かゆみ」の原因になる種類となると、その数はかなり限られる。
かつての大阪で、最も多く検出されたのは、ミナミツメダニ Chelacaropsis moorei であったが、それも近頃はめっきり少なくなってきている気がする。
Acaropsellina_sollers01


Acaropsellina_sollers02

Acaropsellina_sollers03_5
先週、東大阪市内で相談があったケースでは、変わったツメダニがマンション和室の室内塵から多く検出された。
ヒトクシゲツメダニ Acaropsellina sollers (Kuzin), 1940 (=Acaropsis sollers)という種で、小麦粉をあつかう食品工場などではよくみられる。
一般の家庭で本種が多い状況は、これまで観察したことがなかった。
ヒトクシゲはミナミに近縁な種で、両種とも胴体背面にキザキザ付き棍棒状毛があり、体型などもかなり似ているが、メス成ダニは以下の点で区別できる。
・胴背板の輪郭は明瞭で前方と後方に2枚確認できる。(ミナミは前方に輪郭が不明瞭な1枚がある。)
・胴部側面の中央より前あたりにあるh剛毛が線状で長い。(ミナミのh剛毛は太くてケバ立つ)Humeral

Chelacaropsis_moorei_2


Cmoorei_peritreme_2

ツメダニ類が屋内で多発生することは、多くの場合、一時的である。肉食ダニなので、高密度な個体数を長期に安定して保つことは困難なわけである。畳や押し入れ内部を薬剤処理することと、寝具や室内の寝起きする範囲だけをこまめに掃除機がけすることで、たいてい治まる。
割と話題になるツメダニだが、実際に室内塵検査しても、問題になるほどの個体数が検出されることは稀である。
なんとなく体が痒いってパターンでは、原因がわからないけれど、少なくともダニは関与していないってことが多い。でも、やっぱダニ用殺虫剤をみんな買っていくのが現実だ。プラセボ効果は高いと考えられ、その値打ちは条件付きで認めざるをえない。
■お盆休みも今日で終わり。名作とされるが未読だった本を数冊図書館で借りてきて、ずっと家でゴロゴロしながら読んでいた。
「チップス先生さようなら」は、遺憾ながら随所にちりばめられた「洒落」の意味がぜんぜん分からない本であったが、控えめな反戦メッセージや、おだやかな人間関係の描写に心がほっこりした。
何気なく借りてきた本だったが、チップス先生の夭逝した妻の命日が、ウチの亡き母と同じ日というところで、ちょっと驚いた。
などということをスピリチュアル的事象が大好きなヨメに話してしまったら、しょーもない虫ケラばっかりに気を取られてないで、亡くなった人々も忘れるなよっちゅーコトやね、なんていわれてしまった。



トコジラミ・ウォーズ

2013-08-05 00:35:09 | 自然観察

●盛りを過ぎたおっさんのツライところは、筋肉疲労が回復しにくいことである。
トコジラミ駆除では、重い家具を動かしたり、畳を上げたり戻したりするので、真面目にやると翌日には全身が痛い。痛みを感じなくなるくらいに回復できるまではさらに数日かかる。

現場で採集してきた個体が、閉じ込めた容器内で卵を産んだ。
発生が進むと卵の中に赤い目が現れる。
Cimex_lectularius_egg02


憎たらしい害虫ではあるが、孵ってきた幼虫はカワイげがある。
私は血を分けてやるつもりなど毛頭無いが、知り合いには、自分の血をあげて飼っていたことがあるエライ人がいる。
Cimex_lectularius_larva

新鮮な卵殻は、吸湿すると著しい粘性を示す物質でおおわれている。
シラミ類・ハジラミ類の卵殻は、トコジラミの卵と一見似ているが、宿主の毛に付着している部分の膠着物は、すぐに水でふやけたりしない。
拡大すると微細な棘のような構造がみえる。棘は根元が広がっていて、キレイにはずれてしまう。
Cimex_lectularius_egg01

Cimex_lectularius_egg04_2

●害虫駆除業者だけがガンバッテも、トコジラミの蔓延を防ぐことは困難だが、できるだけのことはやらないといけないだろう。
ニューヨーク州の公式HPで優良な害虫駆除業者を選ぶヒントが示されていた。

【良い業者はこんな感じ】
・事前に調査してから、最終的な見積価格を示す。
・行動計画が書かれた調査報告書を出す。
・固定料金を基本とせず、調査結果に基づく価格設定をする。
・なにかの修繕がある場合は、その実施について必要なことを紹介する。
・問題が解決されるまで繰り返し訪問して、助言をおこなう。
・トコジラミが潜んでいるであろう場所を指摘して、その範囲を処理する。
・トコジラミの除去と殺虫のために、掃除機での吸引、清掃、スチーム処理などの物理的手段を用いる。
・子供やペットがいるかどうか聞いてから、それに対応した殺虫剤を使用して防除する。
・駆除作業員を常時訓練して、依頼者にも啓蒙資料を提供する。
・問題が解決されるまで、客と共に努力する。
・問題について隣室の住人にも知らせるように勧めて、トコジラミがいるかどうかを調べることも勧める。

・・・リッパな内容だが、大阪では適用しにくい部分も散見される。
悠長に報告書など書いてないで、早くクスリ撒きまくってくれというご要望もあるだろう。
「夜遊びしとるとモテてしょうがないので、ムシがつかんようにワシのカラダにもクスリ撒いといてくれ。ゲハハ」というのは、年配男性のお客さんの大半がおっしゃる定型句でもある。

●実用的かどうかは知らないが、スマホのアプリで、トコジラミ発生箇所をマップに表示するものがいくつかある。
今のところ日本で使えるものはないと思うが、この国でそんなアプリが重宝されるような事態は避けたいものだ。
Bedbug_apps


生態不明なナガハネトビダニ

2013-08-01 23:59:02 | 自然観察

大阪市内のビルが多い地域にも、樹木はあちこちに植えてある。それらの落ち葉はコンクリートで固められた地表にふりつもるしかないけれど、だれも気にしない隙間に溜まったものは、時とともに腐葉土になる。その腐葉土をつついてみると、ちゃんと分解者であるオカダンゴムシやオビヤスデの仲間、そして土壌性ダニ類がみつかる。
数日前に、コンクリートの上に溜まった腐葉土を5gほど持ち帰って、簡易ツルグレン装置においてみたら、ナガハネトビダニの一種 Speleorchestes sp. が10数個体落ちてきた。小型(0.2mm強)の赤いダニだ。このダニは、自宅近くの中学校で、広い運動場の真ん中近くの砂中から見つけたこともある。たくさんの人間が走り回り、角張った粗い砂がかき回されてるような場所なのに、柔らかいダニが暮らしていけるなんて信じがたいことに思えた。

Speleorchestes_01



以前は失気門類とよばれていたこの仲間は、カラダのつくりが類のない構造で、見れば見るほど何の仲間か分からなくなってくる。ケダニ類のような、ササラダニ類のような・・・。実際過去には、いろいろと高次分類が変遷していたようだ。
最新の分類では、ササラダニ目 Sarcoptiformes > ニセササラダニ亜目 Endeostigmata > ハネトビダニ科 Nanorchestidae とされる。

ナガハネトビダニは、カラダの割にずいぶん大きな産卵管をもっている。産卵管の先端に剛毛やら突起やらがある。

Speleorchestes_02


三ツ目だ。頭の真ん中に目があるような生き物は、なにかしら違和感を感じる。何を食べているのかよく分からないが、捕食者っぽい口器だ。日本ダニ類図鑑(1980)ではナガハネトビダニ Speleorchestes poduroide が載っているけれど、Hirst(1917)の原記載論文中の図とはいろいろ違ってみえて解釈が難しい。この属には、アリの巣で見つかる種もいるそうなので探してみたい。特異な姿に似合った変な生態かも。

Speleorchestes_03


ニセササラダニ亜目は乾燥地やら海岸やらに適応している種が多い。脱皮の際に繭を作ったりする生態を持つ種がいるのも変わってると思う。磯の岩にいる水に浮いてなおかつジャンプするハネトビダニはまん丸な体型だが、砂の中にいるヒモダニ科は細長い体型で、だれが見てもセンチュウにしかみえないようなスゴイ間隙生物だ。日本にも生息しているかも知れないので、こちらも自力採集の機会を狙っている。

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