うんと昔に対馬でオサ堀したとき、クワで潰してしまったカブリモドキのコトを思い出した。
その標本は、さやばねがとれて丸見えになった腹背板に、コウチュウダニがたくさんくっついているのが気色悪すぎて覚えていたのだ。なんとはなしに、コウチュウダニなんてものも少しは観察しておこうと思い、標本を探し出してプレパラート標本(図1)を作ってみた。
じっくりみると、なかなか興味深い形態のダニ(オサムシナカセの一種? Photia sp.?)。超極細のハサミだが、これで一体ナニを食べているのだろう?
オサムシ類は、個体数だけなら今までかなり採集しているけれど、実はあまりコウチュウダニをみかけたことがない。
おそらく、オサムシのコウチュウダニは体表でみつかりにくく、普通は癒着したさやばねと腹背板の間に潜んでいるため、採集者の目に触れにくいだけだと思う。
なにぶんオサムシともなると軽々しく虫ケラ扱いできず、いわば貴重な宝玉のごときものであらせられるため、標本の損傷が避けがたい寄生ダニ探しなんて、オサ好きにとっては信じがたい軽挙妄動といえよう。
なんていいつつ、カブリモドキ以外のオサムシへの寄生状態も見たくなってきたので、虎の子のオサムシ標本を10個体ほど調べてみた。結局、標本の触角を折るなどして、やっぱ壊してしまったあげく、妙高山産マイマイカブリから1個体だけコウチュウダニ(図2 マイマイカブリナカセの一種? Canestrinia sp.?)を得た。打率悪すぎ。変わり果てたオサムシたちをみつめて、少し泣きそうになった。
日本産野生生物目録 無脊椎動物編1(1993)には、日本産のコウチュウダニ科 Canestriniidae(コナダニ団 Astigmata)として以下の3種だけが載っている。
1.マイマイカブリナカセ Canestrinia pictura Samsinak,1971
2.クワガタナカセ Coleopterophagus berlesei Kishida,1925
3.カワリオサムシナカセ Photia polymorpha Samsinak,1971
コウチュウダニ科の種数は、世界で95属約300種が記録されていて、それらはオサムシ科、コガネムシ科、クワガタムシ科、クロツヤムシ科、オオキノコムシ科、ゴミムシダマシ科、ハムシ科、カミキリムシ科などでみつかっている。日本でも上記の3種の他に、相当な数の未記載種がいるようで、クワガタムシ類に付着している種群などが研究されつつある。オサムシにいる種も、宿主の種分化に対応した多様性がありそう。
さやばねの下(subelytral space)にも、未知の宇宙が広がっていると。