害虫屋の雑記帳(ブログ人の保存版)

ブログ人のサービス停止に伴い、gooに過去記事を保管させてもらうことにした。

なついてくるハエ

2013-09-21 23:26:00 | 自然観察

ツメダニなんか決して落ちてこないと分かっていても、死んだ小猿を抱える母猿のごとく、採集してきた枯れ草のカタマリを未練たらたらイジっていると、体長5mmくらいのハエがふわっと草の中から現れた。

どの虫も明るい窓側へ飛んで逃げるのに、ソイツは暗い側に立つ私の腕に止まった。
繰り返し追い払っても、戻ってきて腕に止まる。
人間になつくとは、変わったハエである。
一瞬、人と虫のユウジョウ!とか考えた。
でも室内を飛び回られると他の部署から苦情がでるので、カワイソウだが毒ビン行きだ。

死んだ個体を同定してみると、インドサシバエ Stomoxys indicus Picard, 1908 だった。神戸市北区有野町にも、こんなハエがいるのか。
腐った枯れ草で発生するとは知らなかった。カラダがかたまってなかったので、乾くとヘロヘロな標本になった。
このハエが人を刺すのなら、貴重な体験を逃してしまったことになる。Stomoxys_indicus_01


Stomoxys_indicus_02_2

参考文献:原色ペストコントロール図説第Ⅲ集(1990)


コウチュウはどこへ飛んでいくのか?

2013-09-20 23:55:00 | 自然観察
簡易ツルグレンにはいらない虫も落ち続ける。
腐った枯れ草からこんなに多くの甲虫が落ちてくるとは思わなかった。
 
ただ、ほとんどは幼虫で、ハネカクシ、ミジンムシ、キスイムシ、ホソヒラタムシなどなど。
 
ひとつひとつの幼虫を記録しつつ全部を育ててみたら、さぞや興味深い資料ができることだろう。甲虫の幼虫の研究は、一部の分類群を除いて多くない。
 
ムクゲキノコムシの一種の成虫は、水盤に落ちて少しとろけた感じになっていたので、分解して後胸背板と後ろばねだけを取り出して標本にしてみた。
Ptiliidae_sp01_3
後ろばねには縁毛が発達していて、膜構造ではなくなっていることは有名だから知っていたけれど、透過光観察してみたのは初めてだった。
 
思ってもいない構造が随所にあり、ハエの縁毛みたいなのを想像していたが、見事に予想外な形態だった。
 
未熟な成虫では、さやばね越しに後ろバネが黒く透けてみえる。
 
キレイにたためているわけだ。どうやってたたんだのだろう?毛と毛が水分でくっついたり、からまったりしたらどうする気なのだろう?
Ptiliidae_sp

Ptiliidae_sp03_2
造形美。
Ptiliidae_sp02_2
Ptiliidae_sp04_2
翅の基部の可動部も、説明できないけれど面白い。羽ばたくときピンと伸びるような複雑な仕組みが隠れている。

微小昆虫ではこういった羽毛状の翅がよくみられるとはいうけれど、同じサイズで普通の膜状のハネを持っている昆虫だって少なくない。
あたかも、有用な構造を発達させる進化エンジンがあるようにさえみえるけれど、いったい実際のところどういうコトなんだろう?
 

甲虫は、おそろしく種分化が進んでいて、学者たちはあらん限りの知性でもって分類やらなんやらしているわけだけれど、本当に我々の科学の力でコイツらの勝手し放題な存在の仕方に、説明がつくのかどうか少し不安。ソーゾー説とかに走る気もないけど。

ヒメツメダニ属の最普通種

2013-09-17 00:32:10 | 自然観察

大阪や兵庫の野外で、もっとも普通にみつかるツメダニの一種を同定してみた。
野外にしかいないと思っていたけれど、食品工場内でも採集できたので真剣に調べる気になった。

Cheletomimus_gracilis_01

Cheletomimus (Hemicheyletia) gracilis Fain, Bochkov and Corpuz-Raros, 2002 と同定した。小型(0.35mm前後)で背中にワヤワヤした剛毛がある種。

この属に含まれる種は、みな似たような外観なので本当にややこしい。幸いにも住宅室内で多発生することはなく、害虫相談業務において同定が必要となったことは今までなかった。
日本産土壌動物(1999)では、Hemicheyletia にヒメツメダニ属の和名があてられている。
いまのところ、日本で記録されている ヒメツメダニ属 Cheletomimusは、以下の2種だけ。でも今後もっと種数が増えるはず。
ウロコツメダニ Cheletomimus (H.) bakeri (EHARA, 1962)
ハマベツメダニ Cheletomimus (H.) wellsi (BAKER, 1949)


wellsiとgracilis は、体型や胴背板の内側にワヤワヤ剛毛が並んでいる点などでよく似ている。wellsiは、第I脛節の剛毛が4本(うち2本が扇状毛)で、gracilis は5本(うち3本が扇状毛)という違いがある。さらに、C. gracilisには 肛門付近の毛(a3)が扇状であるという特徴がある。この仲間は若虫と成虫の体表毛の形状が違っていたり、オス成虫の形態は多型的だったりするので、基本的に分類にはメス成虫しか使えない。
Cheletomimus_gracilis_02



Cheletomimus_gracilis_03

C. gracilisのタイプ標本はハワイでタマネギ(日本産)から採集されたらしい。
記載文では、本種の分布に日本を含めていなかった。今のところ、ハワイ、フィリピン、ペルー、ブラジルで記録されている。
採集の仕方に問題があるのかもしれないが、私が野外で採集できるのはコレばっかりで、枯れたタケやササ、ヨシの立ち枯れ茎からみつかる。ずっと前に書いたブログ記事でハマベツメダニとしていたのも実は本種だった。

参考文献(ネットで無料閲覧可能):
Fain A, Bochkov AV, Corpuz-Rarus LA. 2002. A revision of the
Hemicheyletia generic group (Acari: Cheyletidae). Bull Inst
Roy Sci Nat. 72:27?66.


チャタテムシ的ノミバエ

2013-09-14 13:05:00 | 自然観察
Kawara

河原に刈り取った雑草が積んであった。その下の方から、湿った腐りかけの部分を抜き取り、会社に持ち帰って簡易ツルグレン装置にかけた。

神戸市北区有野町の枯れ草から分離されたのは、ダニやらミジンムシやらムクゲキノコムシばっかり。なかでもコナダニ団のヒポプスの多さは驚くばかりで、受け皿の落下物の大部分を占めていた。コンビニの小さな袋一つ分の枯れ草から、軽く数万個体は発生していたと思う。

集めた微小な生き物たちをシャーレに入れて観察していると、小さなチャタテムシみたいなのが、ダニの間でジッとしているところに目が止まった。

体長約0.8mm、カラダの表面にはケアリのような灰銀色がかったテカりがある。

みている間に急に動き出した。目で追うのがやっとの素早さで、間欠的に走り回るその動きは、食器にたかる類いのノミバエを思わせた。
立てばアリンコ、座ればチャタテ、歩く姿はノミバエさん、というハエの名前を調べてみた。

Chonocephalus_01a_2
ノミバエの一種 Chonocephalus sp. だった。頭部は扁平で、頭部前縁が触角基部より前方に出ていて、目は触角より小さい、胸部背面に大きめの剛毛を欠く、というあたりが本属の無翅メスの特徴とされる。

Chonocephalus_01_3
Chonocephalus_03
Chonocephalus_04
以前にも、食品工場の捕虫器に同属のペアが捕獲されているのをみたことがあるが、生きたのをみるのは初めて。

オスはメスをぶら下げて飛んでいるらしい。メスを腹部の上に乗せてたら面白いなと思って想像図を描いたこともがあるが、交尾姿勢から考えて少しムリがありそう。

枯れ草を採集したのはツメダニ科と、ミフシタマキノコムシモドキ狙いだったが失敗だったようだ。今度はもう少し乾き気味の枯れ草を探すか、ワラ束でトラップするかしてみたい。

参考文献:Bohart GE, JL Gressitt. (1951) Filth-inhabiting flies of Guam. Bulletin of the Bernice P. Bishop Museum 204: 1-152.

ノコギリヒラタアリガタバチ

2013-09-11 12:36:33 | 自然観察
臀部のななめ横あたりに小さな丘疹が二つ並んで生じたのは、先週の水曜日あたりだが、いまだに痛がゆい。二つ咬み口をつくるムシについて考えを巡らせてみたが、たいていの刺すムシが該当しそうだ。でも今回、私が被った虫刺されの原因は、アリガタバチで間違いないと思っている。なぜなら仕事場でコッソリと、ノコギリヒラタアリガタバチ Cephalonomia tarsalis (Ashmead, 1893) を飼育しているから。
本種は、ノコギリヒラタムシ幼虫の体表に卵を産み付ける。
Cephalonomia_tarsalis_adult


Cephalonomia_tarsalis_egg
南西諸島のカミキリ材由来の各種アリガタバチ類に刺されて来た経験から考えても、患部の状態や痛みが共通な感じがする。
同僚たちが、足とかをポリポリやってるのをみても、すばやく目をそらして知らん顔するしかない。逃げたのは少数なので、私とは絶対関係ない(と思いたい)。