害虫屋の雑記帳(ブログ人の保存版)

ブログ人のサービス停止に伴い、gooに過去記事を保管させてもらうことにした。

ドラゾンビ様

2012-01-22 22:21:02 | 自然観察

仕事場には、簡易ツルグレン装置(段ボール製)が置いてあって、毎朝のようにみているのだけれど、昨年12月に豊岡市の河原から持ち帰ったオギを中心とした枯れ茎から、微小甲虫は、ネスイムシ科、アリモドキ科、ハネカクシ科などが少数落下していた。
ダニ類はかなりの個体数が落下してきているが、ちょっと意外に思ったのがコナダニ科のHistiogaster sp. が数十個体みられたことだ。オバネダニ属という和名がつけられている。
オスの成虫の胴部後端の突起物が、鳥の尾羽のようにみえることが和名の由来になっていると思われる。むしろエビの尻尾ちゃうん?などということは言ってはならない。樹皮下、枯れ木、キノコなどから見つかる樹上性の属とされているけれど、川辺の枯れ草からも採集できるということが分かった。

コナダニというと丸くてコロコロしてて突起構造が少ないイメージがあるけれど、とってつけたような大きな飾りは、なんとなく不自然なコラージュ写真でもみているかのようだ。
ホントに何なんだろうコレ?どこからみても唐突な形質という気がする。
まったく、いろんなところに、いろんなのがおるな。
メスの成虫のほうは、奇妙な飾りは無くて、普通な感じのコナダニである。
オスの腹端をみていると、劇場版ドラえもんにでてくるキャラを思い出した。
この属のヒポプス(移動若虫)は甲虫の体表に便乗するので、今年の春に河原で昆虫採集すれば、きっと何かの甲虫の体表で見つけることができるだろう。

Histiogaster02
Histiogaster01
Histiogaster03


平たい体族

2012-01-21 06:14:00 | 自然観察

昨日訪問した兵庫県南部の水産加工施設は、工場フル回転でとても活気があった。喜ばしいことである。

仕事を終えて、現場に近い山陽自動車道のサービスエリアで、休憩していると緑地のケヤキの立ち枯れに目がとまった。めくれそうな樹皮をところかまわず剥がしてよいという法はないが、枯死樹皮剥離禁止法も今のところまだ制定されていないはずなので、とても目立つ行為ではあったが樹皮をめくってみた。
ヒラタムシ上科のコウチュウなどは全くおらず、平たいムシ状か?って感じのチャタテムシが少数ノロノロと這い回っているにすぎなかった。そのチャタテムシを少しばかり会社に持ち帰って調べてみた。

コナチャタテの一種Embidopsocus sp. だった。写真の個体は体長約1.6mmである。
食品工場でみられる種より、ちょっと強壮な雰囲気だし、色黒な感じで別種と考える。Embidopsocus

この種も翅が生えてくることがあるのだろうか?
室内で見つかるEmbidopsocus属は世界に数種あり、広域分布種もいて「Insect and mite pests in food. Vol.2(1991)」では、E. oleaginus の分布に沖縄が含まれていた。けれど野外でみつかる種については何にも分からない。

ちょっと他の人のブログで気になる記事があった。同業者が関与する論文でヒゲブトハネカクシ類の同定がアヤシイというもの。人工的な環境っていうのは、時々思いがけない種が定着することがあるので、へーそんなこともあるんだと疑いもせず感心していた研究だった。私には同定の正誤について判断のしようがないけれど、新顔の「害虫」を紹介する論文でもあるので、詳細な標本図が文中に無かったことが読者の立場からは残念なところ。どこかに、標本とか残ってないのだろうか?
個人的には科までで分類を止めているハネカクシだけれど、建物内とかで発生しているっぽい種に関しては、名前や生活史をもう少し詳しく知りたいものである。


当ブログは無断引用可能です。無断無引用も可能です。

2012-01-19 13:10:40 | 日記・エッセイ・コラム

おそるおそる振り返ってみると、このブログの過去記事は、うははは面白いムシみーっけと調子こいて同定してみたものの、時間がたってから間違いを親切な人から指摘されたり、自分で気づいたりしながら訂正することがかなり多いなと思った。
自分の人生においても、これまでの全編にわたり、回復できない深刻なエラーが発生し続けて今日に至っているので、そんなことはあまり気にしないことにする。おそらくブログも人生も最終回は間違いで終わりそうな予感すらある。

10数年前だったと思うけど、テレビの討論番組で、今は亡き有名ジャーナリストが「インターネットは便所の落書き」と語っていたのを思い出したが、当ブログもそんな誹りにあまんじるしかないものの一つであろう。
だが、興味のおもむくままを綴る私的メモのようなブログというかたちは、とても気に入っている。インターネットみたいな既存の約束事に縛られない情報の有り様には、不快に思う人もいれば面白がる人もいるだろう。もちろん私は後者である。

当ブログの記事のテキストや写真には、著作権なんてものは全くない。もし、どなたかが発表しようとしていることと干渉しているような記事が偶然在ったとしても、全く無視していただいてかまやしない。もちろん、無視しないこともご自由で、無断で引用していただいても差し支えない。
研究者の先取権などの権利には、敬意と心からの配慮をもって接しているつもりであるが、私がインターネットに魅力を感じるところは、匿名だったりすると先取権などがどーでもよくなっているところとか、情報の際限なき共有性などである。信憑性という問題もあるけれど、そこはインターネットとはまた別の話だろうと思う。

とはいえ、「さやばね」というちゃんとした甲虫専門誌に、先日、偉い人からブログ名を紹介していただいたりしたのだが、利用しづらいデータを記録にとどめておられるあたりに、誠に申し訳ない気がしてならなかった。


丸い虫は難しい

2012-01-08 23:02:36 | 自然観察

丸っこい虫といえば、テントウムシとかミジンムシなどの科を連想する。
ゴミムシダマシとかハムシなどの多様性に富む大所帯の科でも、丸い種はちらほらとみられる。
背面からみて楕円や円形の体型は、外部環境に接する表面積が小さく、捕食者からの防御姿勢をとることも容易などの利点があるため、多くの分類群で出現する形質と思われる。
と聞いた風なことをのたまっているが、そんなことなら全てのムシが丸くなってもよさそうなのに、実際にはゼンゼンそんなことはない。むしろ珍しい種さえいると思う。

円形タイプの種は目立つ特徴が少なくて、どれもこれも一見しただけでは科の区別すらつきにくいので、分類するときはかなり厄介である。どれもこれもみんな同じように見えてくる。

昨年末に豊岡市の食品工場から回収してきた小型粘着版に、体長約1mmの小さなコウチュウが1個体だけ捕獲されていた。Eidoreus_sp01


カクホソカタムシの一種 Cerylonidae gen. sp.と思われる。(てる氏にコメントを頂き、調べ直してみるとテントウダマシ科のEidoreusの一種だった。こんな形のふ節でテンダマって無いわとマジで思う。日本からはツヤチビテントウダマシ E. japonicusという種が記載されているらしい)ふ節の数は、前脚から後脚にかけて4-4-4だった。
低倍率の観察だとキスイムシ科のようにもに見えるけれど、触角の付着点がキスイムシ科のように頭部前縁真ん中よりではなく、触角球桿が2節だ。キスイムシ科は3節が多数派であるが2節の種もわずかにみられる。
カクホソカタムシ科では1節の種が多数派であるが、2節の種もいる。
丸いムシと無縁な感じの科名であるが、貯穀から見つかる種のなかに、いくつか丸い体型の種が知られている。それらは、貯穀害虫の専門書でも取り扱いが小さいグループで、私は生きた個体にお目にかかったことがない。
今回みつかった種は、貯穀と関連があるのかどうかは不明で、野外から迷い込んできた種なのかも知れない。

コウチュウにまん丸な種が、それほど多くないのはいまだ進化のさなかであって、遠い未来の地球は丸い種ばかりになるかもしれない。
ちょっと正月太りで、自分の体型がなんだか丸くなったような気がしてヤバイと思っていたが、生き物が行き着く最終形態だとすると致し方無しである。Eidoreus_sp02

Eidoreus_sp03

Eidoreus_sp04





*テントウダマシ(Eidoreusを含む)の形態についての詳細な研究をダウンロードして読むことができた。なんつーか、テンダマってもんへの考え方が思いっきり変わった。
Tomaszewska, K.W., 2000. Morphology, phylogeny and classification of adult Endomychidae (Coleoptera: Cucujoidea). Annales Zoologici 50 (4): 449-558.
http://www.miiz.waw.pl/pliki/pracownicy/tomaszewska/TomaszewskaphylogenyofEndo2000.pdf


初ぼうず

2012-01-05 23:59:00 | インポート

昆虫採集はいろいろとヒキョーな手を駆使しがちであるが、冬の虫採りは相手の寝込みを襲うという点で、悪逆無道というほかあるまい。
自分が恒温動物なのをイイコトに、変温動物にやりたい放題というのは本当にひどいやり口である。
自分が殺した虫たちに地獄で相まみえたときは、何をされても文句は言えない。
というわけで悔い改めた私は、本日は1個体も殺傷をしなかった。
自宅近所の公園にでかけたものの、樹皮下にいる微小甲虫のなかに狙っているグループが見つからなかったからということも、僅かに影響していることは認めざるを得ない。

公園で出会った虫は、アカコブコブゾウムシとかヒメシャクの仲間(←ヤガの仲間の間違い)とか。Kobuzo

Syakuga_2
しかし、用のないときはやたらと目にするのに、採集しようと思って出かけるとまったく会えないということがよくあるが、これはいったいどういうことなのだろう?
このところ、昆虫採集のスキルが急速に低下しているような気がしてならないものの、あえて殺生をあまりしない善行のヒトになってきているのだと思いたい。

*Acleris氏より、さっそく指摘有り。写真の小さなガはAraeopteron属の一種でヒメシャクではないとのこと。こんなに小さい(開長10mmくらい)のにヤガ科とはオドロキ。(1/6付記)