医療制度改革批判と社会保障と憲法

9条のみならず、25条も危機的な状況にあります。その現状批判を、硬い文章ですが、発信します。

社会保険庁廃止・解体法案

2007年01月27日 | マスメディア

  
  社会保険庁廃止・解体法案

 新聞各紙一斉の報道  

  1月18日付、各紙朝刊に 
社保庁 政管健保 医療費過払い非通知9914件
 このような見出しで、医療機関からの診療報酬請求が審査で減点され、その減点が「患者負担に置きなおして、1万円以上であった場合」通知をするように、通達されているにもかかわらず、怠っていたことを非難する記事でした。 
 各都道府県社会保険事務局の通知漏れが、3年間で9914件(レセプトを分母にすれば何億分の)あり、また、虚偽の通知件数を報告していた5社会保険事務局の関係者を、処分するとの内容でした。 
 実務的には難儀な事務処理(後で実務的な解説をします)で、できていないことを報告すれば、叱責されるし、できているように報告をあげれば、処分が待ち構えている。 
  お上(権力)とは、下々のものに、惨いことをするものです。

 「社会保険庁たたき」はどこまで続く  

 この類の報道は、もうすでに何度も目にしています。こうした権力側から発表される情報は、眉に唾して読むことが必要です。
 まして、権力側が情報を流し、マスメディアが繰り返し、集中的に報道する場合は、その背景や企図に思いをめぐらせることが重要です。
 この報道の背景なり企図について、いくつかのことが考えられますが、その最大のものが、「社会保険庁廃止・解体の攻撃」だといえます。 
 先の国会(第165国会)に、「社会保険庁廃止・解体法案」が提出されました。ここ数年にわたって、「社会保険庁たたき」が展開されていましたが、法案提出前後には、さらなる集中的な報道がなされていました。
 その上程されていた社会保険庁廃止・解体法案では、「ねんきん事業機構」など公務員型の新組織をつくり、職員を振り分けるというもので、それでは生温いという「社会保険庁たたき」によってつくりだされた「世論」に便乗して、政府自ら廃案にしてしまいました。
 しかし、医療制度改革関連法案のなかで、政管健保の運営主体を、国から切り離して全国健康保険協会という公法人に移し、そして都道府県支部ごとの運営とすることなどは、もうすでに先の国会で決定されています。 

 あらためて、「社会保険庁廃止・解体法案」が  

 そうした経過をふまえて、今国会(1月25日開会)に、年金事業も非公務員型の公的法人が担うとする改革案が、上程されることになっています。 
 その改革案によると、年金の財政責任・管理責任は国が負うこととし、年金の事業運営は、新たに設立される公的法人が担うことになっています。 
 つまり、年金特別会計などの管理は国(厚生労働省)が行い、運営業務は委託を受けた新法人が行うとされています。その運営業務は振り分けを行い、民間アウトソーシングを積極的にすすめるとしています。
 また、徴収率向上の方策としては、民間委託・アウトソーシングの検討をすすめ、悪質な滞納者については、国税庁に委託して強制徴収を行うとしています。 
 そして、年金新法人の人員については、職員の大幅な削減を目指し、リストラ、アウトソーシングをすすめ、新法人の発足にあたって職員は、いったん社会保険庁を退職し、第三者機関の厳正な審査を経て、再雇用されるということになっています。

 生首が飛ぶ、廃止・解体法案が上程される  

 
凄まじい内容の法案が今国会に上程されようとしているのです。マスメディアを動員して、「積立方式」である日本の年金制度を、「賦課方式」であるかのように喧伝し、その積立金150兆円を国が握りこみ、賦課方式での運営を新法人に強制することになると思われます。(積立金を取り崩せば、2025年問題など容易にクリアーされます。そのための積立金なんですから) 
 また、まさに「生首が飛ぶ」社会保険庁廃止・解体法案が上程されるのです。20年前の国鉄分割民営化でも、労働者に惨たらしい仕打ちや首切りがなされましたが、それよりももっと悲惨な状況になるのではないでしょうか。 
 国鉄・電電公社などの民営化、さらに郵政民営化、そして、社会保険庁の廃止・解体と、攻撃は止まるところを知りません。国・自治体を問わず公務職場でも同様の攻撃が全面展開です。
1980年代以降の歴史に学んで、反撃に転じたいものです。

 難儀な事務処理についての解説

 
蛇足ですが、「実務的には難儀な事務処理」についての解説です。
 マスメディアの報道の立場は、患者側の「医療費の過払い」としていますが、医療機関側から見れば「報酬減の損失」です。
 診療報酬の減点査定分は、診療行為がなかったというものではなく、患者に対して治療や薬剤の提供はなされたものの、保険請求上妥当かどうかが、診療報酬請求基準に基づき審査された結果です。その請求基準は、中医協(中央社会保険医療協議会)で議論され、決定されています。その基準が冊子になっていますが、ものすごいボリュームで、一昔前の電話帳という感じです。
 ともあれ、審査する側はそうした基準で審査をします。患者負担に置きなおして1万円ということは、3333点以上の減額査定がなされたということになります。このような大きな減点は滅多にないことです。保険請求上誤りがあったのならともかく、そうでなければ当然のこととして、医療機関は再審査請求をすることになります。
 レセプト(診療報酬請求明細書)は、医療機関、審査機関・支払機関、保険者との間を、月単位で移動してゆきます。再審査請求がなされ結果がでるまで、少なくとも半年はかかります。
 いわば争いごとですから、そう簡単には決着がつかない場合もあります。そうしたことを見極めた上での通知をすることになるのです。


減額通知は、新たなトラブルの種になります  

 
その減点が確定し、減額されたことを患者側に伝えたとしても、またしても難儀なことになります。
 それは、医療機関としては、患者に対して治療や薬剤の提供はしているのですから、減点された分の7割相当が未収になっていることから、むしろその分を、患者に支払ってもらいたいという「気分」(あくまで気分であって、そんな請求はしませんが)があります。そうしたなかで、保険者からの減額通知によって、患者側から医療費の返還請求がなされれば、次なる争いごとになることは必至です。
 調剤薬局を例にすれば、わかりやすいと思います。「医師の処方に基づいて薬剤を調剤し患者に提供した、それが何らかの理由で減点され、その代金(7割相当)が支払われなかった」、さらにその上に、「患者側から3割相当の負担医療費の返還」を求められれば、トラブルになることは明らかです。 
 調剤薬局は、医師の処方に基づいて薬を調剤し、その薬を患者に手渡しているのですから。


 権力とマスメディアの奏でる、下品・下劣の二重奏  

 そうしたことから、被保険者への医療費通知は実施していても、ことさらの「減額通知」は実施していない「保険者」も数多くあります。 
 こんなことを穿り出して、社会保険庁たたきに利用したり、医療機関への不信を煽ったりすることは、下品極まりないといえます。なぜなら、権力側(政府・厚生労働省)が、「強いものが弱いものをたたく」という図式で展開されているからです。
 それに乗掛かって マスメディアは「庶民の味方・正義の味方」のようなポーズをとりながら、世間に存在する「損得勘定」や「金銭感覚」を利用し、劣情を刺激するような煽動記事を書く、権力側からの情報を垂れ流すだけという、ほんとうに下劣極まりないな報道が、繰り広げられているのです。
 そんな二重奏で踊らされてはいけません。
                                                         2007.01.27harayosi-2

 


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