医療制度改革批判と社会保障と憲法

9条のみならず、25条も危機的な状況にあります。その現状批判を、硬い文章ですが、発信します。

介護保険と障害者支援と高齢者医療 2

2007年01月07日 | 社会保障

  介護保険と障害者支援と高齢者医療 2

 
入院は「包括払い」、外来は「定額制」  

  『後期高齢者医療制度の創設に当たり、後期高齢者の心身の特性等にふさわしい医療が提供できるような新たな診療報酬体系を構築することを目的として、後期高齢者医療の在り方について審議するため、社会保障審議会に専門の部会を設置する』として、2006年(平成18年)10月5日に、第1回部会が開催され、2007年(平成19年)3月までに、「基本的な考え方」を取りまとめるための、議論が続けられています。
  その議論の一部が、マスメディアなどでも紹介されています。それは、75歳以上の高齢者の診療報酬については、入院は「包括払い」とし、外来は「定額制」にする、という厚生労働省の方針が伝えられています。
  また、国保中央会は12月25日に提言を発表しました。それは、『高齢者全員が地域の診療所から主治医(かかりつけ医)を選び、初期診療は登録した主治医だけが担い、その主治医が受け取る診療報酬は、その診療所を登録した高齢者の人数に応じた定額払い方式とする』という内容になっています。
  いずれにしても、後期高齢者医療については、給付の制限や抑制が持ち込まれようとしています。年度末の3月が取りまとめの期限であることから、注視・看視を続けなければなりません。

  混合診療の解禁と私的健康保険

 
介護保険は、認定された「要介護度」によって、「介護サービス費」が決定され、障害者福祉は、認定された「障害程度区分」により「サービスの支給量」が決まることとなっています。その限度を超えたものは、全額自己負担となります。
  高齢者医療についても、給付額での制限、診療内容の制限、治療や手術や薬剤の制限など、さまざまな議論がなされています。その詳細は未決定ですが、給付制限が持ち込まれることは必至となっています。
  言い換えれば、きわめて給付水準の低い高齢者の健康保険が創設され、そこに全員が強制加入させられるということです。その限度を超えたものは、当然のこととして全額自己負担となります。
  そのことを見越しての、「混合診療の解禁」が医療制度破壊法のなかに盛り込まれているのです。その保険の限度を超えた「療養を給付」する、混合診療体制を支える私的健康保険の必然性・必要性が、俄然大きくなりました。
  このビジネスチャンスを生かすために、カタカナ医療保険会社は何年も前から、「入れます、入れます」の宣伝で、高齢者の囲い込みを進めてきたのです。
  この間の経過が示すように、この高齢者への制度改悪の攻撃が、若年層を含めた全体に波及するのは、まさに時間の問題です。

  介護保険料の年金天引き

  介護保険導入時の大きな柱のひとつが、保険料の「年金からの天引き」という徴収方法でした。
  国民皆年金制度のもと65歳以上の高齢者は、その年金額の多寡は別にして、制度的には全員が年金受給していることになっています。それは、月額1万5千円、年額18万円以上であれば、その年金支給時点で、介護保険料の「特別徴収」という名の天引きを強行したのです。仮に制度に不満などがあっても、保険料を納めないという、「抵抗する権利」まで奪ったのです。
  65歳以上の介護保険料の徴収は、大部分が年金天引きの特別徴収ですが、そうでない普通徴収もないわけではありません。
  それは、公租公課の対象とされない遺族年金や障害年金などの受給者であり、また、例外的な無年金者や、65歳到達時点の移行期や、何らかの理由で年金支給が差し止めされているときなど、納付書で収める普通徴収ということになります。

  遺族年金・障害年金からも天引き開始

  公租公課の対象としない、また、天引きなどが禁止されていた、遺族年金・障害年金からの天引きが、2006年(平成18年)10月から開始されています。
  このことによって、年金からの天引きができていないのは、老齢福祉年金と恩給のみの受給者となり、どちらも、明治生まれの長寿者などで、きわめて少数になると思われます。
  2008年(平成20年)4月スタートの、後期高齢者医療保険の保険料も、年金天引きと、当然のことのように決定されています。
  また、65歳以上の前期高齢者の国民健康保険料が、年金天引きされることも、さきの医療制度破壊法で、決定されています。
  これは、厚生労働省試案で示されていた、「前期高齢者医療制度を創設して保険料を年金天引き」が、先送りになったものの、65歳以上のすべての高齢者から、年金天引きでの保険料を徴収するという、厚生労働省の執念・執着の表れだといえます。


2 コメント

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危機感のない医療者たち (谷口硝子)
2007-01-09 03:03:49
トラックバック、ありがとうございました。
介護保険制度が、いかにひどい制度であるか、という問題意識を共有出来る人は極めて少数です。日本の医療をよくしていきたいという問題意識を持った医師中心のかなり規模の大きいメーリングリストに参加しているのですが、医療制度改悪に対する危機感が極めて希薄です。医療はそれだけで自己完結するものではなく、福祉との関連もあり、医療現場では患者だけでなく、医療者自身の問題であるにも関わらず、関心の低さに思わず、絶句・・・。
わたしは介護保険導入前に、業界紙のような媒体で、介護保険に関する取材をかなりしていました。当時は単なるレポート記事しか書けませんでしたが、今にして思えば、その時の「遺産」のおかげで
厚労省や経済財政諮問会議など、ホームーページで公開されている情報に対するリテラシーが身につきました。
障害者自立支援法の記事を書くために福祉現場の取材をしましたが、当事者はもちろんのこと、施設職員たちの苦悩は相当に深いですね。国民皆保険制度も障害者福祉も今日まで積み上げてきたおかげ(もちろん不備はあるけど…)で、つくられた日本の社会保障制度です。それが今まさに、崩壊しようとしている最中なのに、あまりに世間の人びと(マスコミも含め)の危機感のなさは、絶望的ですらあります。
憲法九条に対する危機感の低さと、相通じるものを感じる年末年始でした。絶望はしないけど、希望も持てない・・・・(ため息)。
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谷口硝子さん、コメントありがとうございます。 (harayosi-2)
2007-01-09 07:00:14
 谷口硝子さん、コメントありがとうございます。
 ご指摘のように、社会保障や憲法をめぐる状況、日本の現状は、まさに絶望的です。しかし、絶望するわけにはいきません。
 ささやかな努力であっても、問題提起の発信を続け、抵抗を続けていく以外にないと、自らを鼓舞して、展望をもてる状況を作り出すために、ぼちぼちとがんばる以外には、すべはないのではないでしょうか。
 そんな思いで、9・11を契機にこのブログを立ち上げたのです。
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