法律の周辺

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限定的支店順位方式の適法性について

2006-09-16 19:32:43 | Weblog
 『判例時報』No.1934の判例評論に,北川弘治(弁護士・元最高裁判所判事)「許可抗告制度による法令解釈の統一」が掲載されている。
北川氏は,論稿の中で,許可抗告制度による法令解釈の統一事例として,実体法と手続法の問題につき,それぞれ3つの事例を取り上げておられる。具体的には,以下のとおり。

実体法の事例

1 動産の譲渡担保権に基づく物上代位権の行使の可否
2 抵当権に基づく転貸賃料債権に対する物上代位権の行使の可否
3 借地借家法第20条第1項後段の付随的裁判の範囲の如何

手続法の事例

1 金融機関の貸出稟議書等についての文書提出命令の可否
2 不動産競売における抵当権の不存在を理由とする執行抗告の可否
3 同一の被保全債権による再度の仮差押の可否

 民事執行法や民事保全法の制定以来,決定にも重要な内容を含むものが増えているが,旧民訴法では,高等裁判所の決定・命令に対しては,特別抗告を除き,抗告は認められていなかった。
現行民訴法の許可抗告制度(民訴法第337条)は,決定等の裁判につき法令解釈の統一を図る必要から創設されたものである。

 さて,北川氏の論稿は興味深く拝読したが,法令解釈の統一を期待されながら未だ解決を見ていないものに,預金債権の(仮)差押命令申立に係る限定的支店順位方式の適法性の問題がある(民執規則第133条第2項,民保規則第19条第2項第1号参照)。
今年に入ってからも,既に,東京高決H18.6.19が適法とする一方,高松高決18.4.11,東京高決H18.4.27は不適法とするなど,判断が分かれている。
許可抗告の申立がないというのは考えにくいのだが・・・。あるいは,論点として未だ成熟を見ていないため,結果,許可を得ない,ということだろうか。


民意訴訟法の関連条文

(許可抗告)
第三百三十七条  高等裁判所の決定及び命令(第三百三十条の抗告及び次項の申立てについての決定及び命令を除く。)に対しては,前条第一項の規定による場合のほか,その高等裁判所が次項の規定により許可したときに限り,最高裁判所に特に抗告をすることができる。ただし,その裁判が地方裁判所の裁判であるとした場合に抗告をすることができるものであるときに限る。
2  前項の高等裁判所は,同項の裁判について,最高裁判所の判例(これがない場合にあっては,大審院又は上告裁判所若しくは抗告裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある場合その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むと認められる場合には,申立てにより,決定で,抗告を許可しなければならない。
3  前項の申立てにおいては,前条第一項に規定する事由を理由とすることはできない。
4  第二項の規定による許可があった場合には,第一項の抗告があったものとみなす。
5  最高裁判所は,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるときは,原裁判を破棄することができる。
6  第三百十三条,第三百十五条及び前条第二項の規定は第二項の申立てについて,第三百十八条第三項の規定は第二項の規定による許可をする場合について,同条第四項後段及び前条第三項の規定は第二項の規定による許可があった場合について準用する。

民意執行法の関連条文

(債権執行の開始)
第百四十三条  金銭の支払又は船舶若しくは動産の引渡しを目的とする債権(動産執行の目的となる有価証券が発行されている債権を除く。以下この節において「債権」という。)に対する強制執行(第百六十七条の二第二項に規定する少額訴訟債権執行を除く。以下この節において「債権執行」という。)は,執行裁判所の差押命令により開始する。

(管轄)
第百九十六条  この章の規定による債務者の財産の開示に関する手続(以下「財産開示手続」という。)については,債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が,執行裁判所として管轄する。

(実施決定)
第百九十七条  執行裁判所は,次のいずれかに該当するときは,執行力のある債務名義の正本(債務名義が第二十二条第二号,第四号若しくは第五号に掲げるもの又は確定判決と同一の効力を有する支払督促であるものを除く。)を有する金銭債権の債権者の申立てにより,債務者について,財産開示手続を実施する旨の決定をしなければならない。ただし,当該執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができないときは,この限りでない。
一  強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より六月以上前に終了したものを除く。)において,申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかつたとき。
二  知れている財産に対する強制執行を実施しても,申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があつたとき。
2  執行裁判所は,次のいずれかに該当するときは,債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者の申立てにより,当該債務者について,財産開示手続を実施する旨の決定をしなければならない。
一  強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より六月以上前に終了したものを除く。)において,申立人が当該先取特権の被担保債権の完全な弁済を得ることができなかつたとき。
二  知れている財産に対する担保権の実行を実施しても,申立人が前号の被担保債権の完全な弁済を得られないことの疎明があつたとき。
3  前二項の規定にかかわらず,債務者(債務者に法定代理人がある場合にあつては当該法定代理人,債務者が法人である場合にあつてはその代表者。第一号において同じ。)が前二項の申立ての日前三年以内に財産開示期日(財産を開示すべき期日をいう。以下同じ。)においてその財産について陳述をしたものであるときは,財産開示手続を実施する旨の決定をすることができない。ただし,次に掲げる事由のいずれかがある場合は,この限りでない。
一  債務者が当該財産開示期日において一部の財産を開示しなかつたとき。
二  債務者が当該財産開示期日の後に新たに財産を取得したとき。
三  当該財産開示期日の後に債務者と使用者との雇用関係が終了したとき。
4  第一項又は第二項の決定がされたときは,当該決定(第二項の決定にあつては,当該決定及び同項の文書の写し)を債務者に送達しなければならない。
5  第一項又は第二項の申立てについての裁判に対しては,執行抗告をすることができる。
6  第一項又は第二項の決定は,確定しなければその効力を生じない。

民事執行規則の関連条文

(差押命令の申立書の記載事項)
第百三十三条 債権執行についての差押命令の申立書には,第二十一条各号に掲げる事項のほか,第三債務者の氏名又は名称及び住所を記載しなければならない。
2 前項の申立書に強制執行の目的とする財産を表示するときは,差し押さえるべき債権の種類及び額その他の債権を特定するに足りる事項並びに債権の一部を差し押さえる場合にあつては,その範囲を明らかにしなければならない。

民事保全法の関連条文

(仮差押命令の対象)
第二十一条  仮差押命令は,特定の物について発しなければならない。ただし,動産の仮差押命令は,目的物を特定しないで発することができる。

民事保全規則の関連条文

(申立ての趣旨の記載方法)
第十九条 仮差押命令の申立ての趣旨の記載は,仮に差し押さえるべき物を特定してしなければならない。ただし,仮に差し押さえるべき物が民事執行法第百二十二条第一項に規定する動産(以下「動産」という。)であるときは,その旨を記載すれば足りる。
2 次の各号に掲げる仮差押命令の申立書における仮に差し押さえるべき物の記載は,当該各号に定める事項を明らかにしてしなければならない。
一 債権に対する仮差押命令 債権の種類及び額その他の債権を特定するに足りる事項
二 民事執行規則第百四十六条第一項に規定する電話加入権(以下「電話加入権」という。)に対する仮差押命令 東日本電信電話株式会社又は西日本電信電話株式会社において電話に関する現業事務を取り扱う事務所で当該電話加入権に係る契約に関する事務を取り扱うもの,電話番号,電話加入権を有する者の氏名又は名称及び電話の設置場所

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