法律の周辺

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長期生活支援資金貸付制度(リバースモーゲージ制度)について

2005-06-09 10:16:54 | Weblog
 小泉総理が改革の本丸と位置づけている郵政民営化関連法案が,4月27日,閣議決定のうえ,国会へ提出された。さて,成立するのか,あるいは廃案,総選挙となるのか。
ところで,小泉総理が就任する前の第42回衆議院議員総選挙で自民党が公約として掲げていたもので,一足先に実現した制度がある。長期生活支援資金貸付制度(リバースモーゲージ制度)がそれだ。

 長期生活支援資金貸付制度は,高齢者世帯の自立支援を目的とし,将来にわたって持ち家に住み続けることを希望する高齢者に対し,当該持ち家等を担保として生活資金の貸し付けを行うという制度である。利用者が亡くなった場合は,当該持ち家等を処分して一括返済することになる。

 預貯金はないが持ち家はあるという高齢者(いわゆる,「キャッシュプアー・ハウスリッチ」)が,まとまった生活資金得るとした場合,その持ち家を売却して借家や賃貸アパート・マンションに住むという方法もある。しかし,当然のことながら,自宅で人生を全うしたいという人も多い。
くわえて,身寄りのない高齢者が,借家契約の際,保証人を見つけることは困難である。また,民間の借家では高齢者の入居を拒否する例も少なくない(cf 「高齢者の居住の安定確保に関する法律」)。
そこで,「自宅に住み続けながら,生活資金を得る方法はないか」ということで考えられたのがこの制度である。
通常のモーゲージ(抵当融資)は,住宅ローンであれば,建てた持ち家等を担保に融資を受け,毎月返済していき,完済によって担保が外される。将来に向かって(フォワード)借金を返していくので「フォワードモーゲージ」とも呼ばれる。
長期生活支援資金貸付制度のリバース(「逆」)たる所以は,借金の増加及び不動産の処分が,フォワードモーゲージと逆向きであるところによる。

 このリバースモーゲージ,昭和56年に武蔵野市の福祉公社が実施して以降,中野区,世田谷区などの複数の自治体が独自に実施してきたが,なかなか普及しなかった。武蔵野市の場合,導入して20年以上になるがまだ100例に満たないようだ。
主な理由は,次の3つにあるとされる。

ア 長寿リスク
イ 不動産価格下落リスク
ウ 金利上昇リスク

ウはともかく,寿命の伸びはアの面では制度普及にとってマイナス,バブル経済崩壊後の地価下落→担保物件の価格下落もイの面でマイナス,と制度普及にとっての好材料は現在も少ない。これに,昨今,自治体の財政難がくわわった形だ。
リスクは,融資をする側のみならず,受ける方も負うから,制度設計としても難しい。

 このような状況の中,低所得者層に絞った形だが,3年前,厚生労働省が生活福祉資金の一部として長期生活支援資金貸付制度を創設,各都道府県社会福祉協議会が貸付業務を開始した。
2004年4月1日現在,43の都道府県が開始済,2府県が同年7月以降開始予定,2県が未定で,この時点での貸付件数は136件ということのようだ。因みに,我が秋田県の貸付件数は3件だそうである。
貸付は,以下のいずれにも該当する世帯を対象としている。

a 借入申込者が単独で所有(同居の配偶者との共有を含む。)する不動産に居住していること。
b 不動産に賃借権,抵当権等が設定されていないこと。
c 配偶者又は親以外の同居人がいないこと。
d 世帯の構成員が原則として65歳以上であること。
e 借入世帯が市町村民税の非課税世帯又は均等割課税世帯程度の世帯であること。

償還の担保として,持ち家等への担保権設定は当然としても,推定相続人の1人を連帯保証人としてたてなければならない。この点が利用を難しくしているように思われる。
もっとも,直系血族等には扶養義務があるわけで,イの不動産価格下落リスクの一部を負担するのはやむを得ないという見方もあろう(民法第877条)。もちろん,連帯保証人になった場合は,仮に相続放棄をした場合であっても,自己固有の責任を負うことになる。制度の概要は,厚生労働省の以下のページを参照。http://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/seikatsu-fukushi-shikin2.html

 さて,秋田県における長期生活支援資金貸付制度の利用を考えてみたい。
先ず,住環境としてはともかく,不動産価格ということでは,高齢者世帯が全て「キャッシュプアー・ハウスリッチ」とは限らない。いや,老後の生活資金との関係では,その多くが「キャッシュプアー・ハウスプアー」と言ってもよいのかもしれない。
また,父祖伝来の土地を手放すことに対する抵抗感も以前として強い。「美田は子孫に残さず」という慣習は根付きにくい土地柄だ。
その意味では,長期生活支援資金,現実的にも,心情的にも,利用しにくい環境ではある。
しかし,少子高齢化の進展,公的年金の支給額の減額,支給開始年齢の高齢化などを考えれば,秋田県においても長期生活支援資金の潜在需要は小さいとは言えない。貸付対象者の拡大は法改正等とも関わるだけに簡単にはいかないが,先ずは,制度自体の周知をはかる必要があると思われる。その意味では,秋田県のHPにおける長期生活支援資金貸付制度に関する情報は寂しい限りだ。充実を期待したい。http://www.pref.akita.jp/soudan/048.html

参考 長期生活支援資金貸付制度についての問い合わせは,秋田県健康福祉部福祉政策課保護班(TEL 018-860-1316),秋田県社会福祉協議会(TEL 018-864-2711),各市町村社会福祉協議会。




コメント (1)
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