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西東京市・北海道富良野の森林を舞台にした遺伝,育種,生態などに関する研究ノートの一部を紹介します

AIC比較

2007-02-08 | 研究ノート
・せっかく北大のKさんからlmer解釈を習ったので、忘れないうちに結果をまとめてしまわねば・・・。ということで、再び、トドマツ標高別相互植栽の解析に戻る。この試験地では、230,340,530,730,930,1100mの6標高に8標高から採種育苗したトドマツを2反復で植栽している。各種子産地では、5つの母樹から採種している。試験設計はシンプルなようでいて、母樹や反復の影響も捨てがたく、なかなか一筋縄ではいかなかったというわけだ。

・今回は、「母樹と反復の効果には興味がないが、かといって無視するわけにもいくまい」、ということで、母樹と反復をランダム効果、種子産地標高と種子産地と植栽地の標高差が固定効果として、生存/死亡や樹高を説明する一般化線形混合モデルを用いている。植栽地を全て込みにすると、樹高も生存も、種子産地と標高差の両方を考えたモデルがよい。ちなみに、生存については、種子産地が高いほど、標高差が小さいほど高いという関係にある。一方、樹高については、種子産地が低いほど、標高差が小さいほど高いという関係がある。種子産地が高いほど生存がよいというのは少し面白いが、これは高標高に植栽したときに、低標高産の個体がばたばたと死亡してしまうことに起因しているようだ。



・しかし、植栽地自体の環境が標高によって著しく変動するので、どのくらいまでがまとめられるかどうかというのが問題となっているわけである。生データを眺める限り、明らかに530m以下と930m以上はそれぞれ一まとめにできそうだ。問題は730mの扱いである。そこで、このモデルを530m以下を低標高、1)730m以上を高標高という2つに分割する場合、2)730m以下を低標高、930m以上を高標高と2つに分割する場合、3)530m以下を低標高、730mを中(?)標高、930m以上を高標高に分割する場合の3つを考えてみた(それ以上、細かく分けても現実的に意味がないだろうし・・・)。

・その結果、AICを比較すると、いずれも3)がもっとも当てはまりが良いことが分かった(パラメータ数は多くて複雑になるが、それでもよいモデルといえるようだ)。しかし、生存率と樹高では少し傾向が異なる。生存率では2つに分ける場合は730/930に比べて530/730で区分するのがよく、一方樹高では、530/730に比べて730/930で区分する方がよい。いずれも、これらの区分は3つの区分とそれほど大きな差がないといえる。

・このように考えると、600m以下、600-800m付近、800m以上というあたりにラインをいれて、それぞれに対応を考えるのがベストだといえそうだ。3つも分けるのは大変だから2つに区分したい、というような場合には、生存率を重視するならば600m付近、成長を重視するならば800m付近でラインを入れるということになるんだろうか・・・。。

・富良野の現場では、600m以上にトドマツを植栽することはまれで、800m以上はほとんどないといってよいので、植栽標高が600m以下の場合には一般的な低標高産を用いている限り問題はなく、600mを超えて少し標高が高いところに植栽したい、というような場合には、用いる種子の種子産地には留意した方がよい、ということになるのかもしれない。もう少し、細かいパラメータの値を検討していかないといけないが、まずは先に進めそうな予感がしている。

・ところで、これは書いておかねばなるまい。先日の札幌で立ち寄ったパン屋”パン吉”のハード系のフランスパンは絶品だ。ワインに合うと書いてあったトマトとバジルの調理パンも美味しかったが、何気ないダッチ風のフランスパンには驚かされる。皮は薄いがバラバラにならず、中はもっちり、ふわふわである。しまった、もっと買っておくのであった・・・。

魅惑のLaTex

2007-02-07 | 研究ノート
・まずは査読の締めくくりだ。昨日の帰りの電車で、ほぼコメントを書いていたので、改めて変な英語表現を修正したりする。査読シートのチェック欄を埋めたり、メールを書いたりして、ようやく送付。あーすっきりした、ということで、査読終了した論文はさっさと処分して、頭の中からも消去する。

・午後から川渡のTくんが訪れてくれる。現在、卒論のエゾマツの繁殖に関する論文を執筆中とのことで、先に送ってもらっていた原稿をたたき台にして打ち合わせ。まず結果の見せ方について、あーでもない、こーでもないと議論。色々と指摘して散々迷わせた挙句、結果的には最初に彼が示していたものに近づいたようだ。しかし、この過程で繁殖に効いてくる個体サイズの基準とか、色々と重要なことも判明する。

・次は、本日のメインイベント(?)であるイントロの再構築。もう一度、論文の売りとなる結果がフィーチャーされるように、流れを考えていく。二人で議論しながら、びしびしとホワイトボードに書き付ける。ちょっと書いては二人で眺めて、股議論。気に入らなければ消す、これを繰り返してホワイトボードがいっぱいになると、デジカメで撮影して記録する、という例の(といっても、分かるのは数人という”例の”だけど・・・)方式である。

・2時間ほどやって何となく流れができてきた。まずは、こんなところでいいか、ということで、今度はこちらがMasterBayesの指導をお願いする。Tくんは既に花粉散布と種子散布を推定するコードを完成させていて、それはこちらのパソコンでも動作確認できているのだが、カツラでこれをやろうとするとなにやらエラーが出ていたので、チェックしてもらう。

・それほど多くの式があるわけではないのだが、ちょっとしたデータフォーマットの問題で引っかかっていたことが判明。また、Rの中でのデータフレームかがうまくいっていなかったりと、色々と問題があったようだ。とりあえず、MCMC計算の途中まで動くようになったのだが、遺伝子型の欠損値に引っかかるのか結局止まってしまう。

・これ以上試行錯誤するのは、時間がもったいないということで、Tくんにアフターケアをお願いして、再び、彼の論文考察へと戻る。同種個体密度が繁殖成功パラメータに及ぼす影響についてはだいぶ分かっていたつもりだが、スタンドスケールと局所スケールに分けると、自らのスケールの理解と論文ごとの整理がまだまだであることが分かる。既存研究で、誰が何をやったかをずらずらと並べて整理するとよさそうだ。

・花粉散布が森林の存在によって障壁を受けるかどうかについては、以前、花粉散布総説でも少し話題になったが、もう少し、既存の結果を調べる必要があるな。採種園の周囲に他の樹種を植えても無駄・・・という論文をどこかで見たんだが、どうにも思い出せない。とてつもなく、マイナーな雑誌で、しかもかなり古い論文だったことは間違いないのだが・・・。

・最後に、札幌でも話題になった、文書作成ソフト”LaTex”の実演を見せていただく。実は本屋で、このソフトの解説本があったので、何度か手にとっていた。最初が大変そうだが、仕上がりは本当に美しく、間違いなく、”物書き”には魅惑のソフトである。フリーだし・・・。もうこれは、導入するしかない!という気になってきた。早速、解説本を注文しよっと。

パン好きなるがゆえに

2007-02-06 | 研究ノート
・札幌出張。全国的な雪不足とのことだが、北海道でも例外ではないようだ。富良野はそうでもないが,雪が少ないのは滝川も同じようで,普段は雪に埋もれているはずのホームにまるで雪がない。ちなみに,写っているのは根室本線で富良野と滝川を結ぶ一両編成の電車。



・札幌に着くと,いきなり雨。まさかこの時期に降るとは思っていなかったので,傘の準備もしていなかった。10時半過ぎ,北大に到着。早速,今回のlmer結果についてプレゼンの仕方と解釈をご相談。Burcyzkのモデル論文のように,いくつかのモデル,AIC,パラメータなどを並べて表にすればよかろうということで,ようやく完成の形が見えてくる。

・植栽地標高を低標高と高標高に分けて解析した方がよいのか、まとめた方がよいのかについて迷っていたのだが、これまたやっぱりAICで比較すればよいことが今更ながら分かる(単純に足せばよかったのか・・・)。やっぱり直接お聞きすると,色々と細かいところが分かってとても助かった。

・Rによる作図についても,突然ご相談を持ちかける。倒木の作図については,エクセル上で強引に描く,という滅茶苦茶なことをやっていたのだが、いくらなんでも,このままでは投稿できないだろうということで,Rさんからの宿題になっていたのであった。倒木の測量では,変曲点ごとに幅を測定するということをしていたわけだが,これを元に倒木の図を描くのは案外と面倒である。

・三角関数で2点から構成される直線に直交するベクトルを作り,四隅の点の座標を得た後,polygonなる関数としばらく格闘した(正確には,格闘していただいたのを見ていた)わけだが,最終的に“line”でかなりのqualityが描けるということが分かった。枝分かれしている倒木などはidを別にしてやる必要があるので,忘れないうちに完全な図を描けるようにしておかないといかんな・・・。

・クラーク会館の“きゃら亭”にて,いつものごとく昼食を頂いた後,Iくんの博士論文発表会にKさんと連れ立って出かけることになる。よく考えてみると,北大の農学部の方に正式に(?)入るのは初めてではなかろうか。近年に改装がなされたらしく,防火扉などは妙に新しい。発表会前のIくんに会うと,当方が来るのは事前に分かっていたようだが,まさかKさんまで引き連れてくるとは思っていなかったらしく(I君いわく,「もしそうなったらどうしよう・・・」と,この展開を恐れていたという事実が後で判明),このとき,緊張はピークに達した模様で,顔から湯気が出ていた。

・かなりのプレッシャーを受けていたはずだが,Iくんのプレゼンは,非常にゆっくりとしたペースでしゃべっていたので,とても分かりやすかった。難しい部分はかなり省略したようだけど,当方たちの倒木上のトドマツの種子散布&定着論文に使えそうな様々なヒントがあった。倒木の質を評価するのが難しいと思っていたが,彼の研究を参考にすれば,いくつかポイントを絞って測定することは不可能ではない気がしてきた。春にはちょっと検討してみるとしよう。

・日高のプロットは確かに“良い”プロットといえそうだ。しかし質問にもあったように,それでトドマツとエゾマツの更新の全てを代表したと考えるのは難しいところがある。実際,富良野とは,更新の状態がそれなりに違うように思えるところもあった。また,今回は平坦なプロットだったようだが,傾斜があると状況はまた大きく変わるので,あくまで限定的な一例だということはうまく表現した方がいいだろう(とはいえ,その一例をこれだけきちんと調べたのはえらい!)。また,森林管理や施業という観点からすると,結局,どうすればいいのかという側面については必ずしも明確になっていないと思われた。まあ,こうした応用的な方向性については,ぜひ富良野に講義に来てもらって,議論させてもらうとしよう。

・D論発表会が終わり,詰めかけた聴衆とともに会場から廊下にでた途端,「札幌に来たら,“パン吉”に行かなきゃだめじゃないですか!」と当ブログの読者で推定パン・フリーク(?)の方から突然の突っ込みを受け,大変焦る。「すみません,すみません」となぜか平謝りに・・・。パン好きを自称するからには,「こいつをほっとくわけにはいかん!」ということで,頂いた名刺の地図をたよりに早速お店を探す。おっと,東横インの路地を少し入ったところに,こじんまりとしたパン屋が・・・。こうしたたたずまいにも惹かれてしまうわけだけど,並んでいるパンはどれもこれも確かに美味しそうだ。



・売り子のお姉さんから撮影許可を頂く。ハード系が得意そうだと判断し,いくつか見繕って購入。さらに,食パンも買ってみるべきだろう,ということで,5枚切りにカットしてもらう(ちょっと厚めが美味しいよね・・・)。どうでもいいけど,パン屋の香りってどうしてこう人を幸せにさせるんだろうねえ。家族からのリクエストのガーリックパンはなかったので,いつものごとく,小走りにcafé Danmarkにも立ち寄る。なぜか,パン屋のハシゴをすることになる(いったい何しに来ているんだ!?)。こうして,この上もなく幸せになりつつ,帰途につくのであった。

ランダム効果って・・・

2007-02-05 | 研究ノート
・明日、北大のIくんのD論発表会があるということで、札幌に出張することになる。せっかくなので、ということでlmerの解釈とプレゼンの仕方についてKさんにご相談させていただくことになる。その前に少々動かしてみようということで、標高別相互移植試験のトドマツについて、全個体の生データを用いてlmerを利用したGLMM解析を行う。

・Kさんのブログによれば、lmer人口が急増しているらしい。しかし、こうした新しいツールは、一体全体、自分が何をしているのか、ちゃんと分かってから使わないといけない。一番分かっていない当方が言うのも何だけど、統計パッケージの乱用とならないように自戒をしなければいかんな。

・さて、今回のトドマツ相互移植試験では、8標高各5母樹から得られた種子をそれぞれ6標高に2反復で植栽している。今回は生存、樹高、胸高直径などを測定しているわけだが、母樹や反復では測定できていないランダム効果があると考えた、というわけだ(と思う)。

・従属変数を生存/死亡の1/0データ、ランダム効果として母樹と反復、固定効果として、1)種子産地の標高、2)種子産地と植栽地の標高差、3)種子産地の標高、種子産地と植栽地の標高差の両方、の3パターンを考える。familyは二項分布、linkはlogitを選択。Kさんの教えに従い、method は "Laplace" を指定する。

・AICを比較すると、3)のモデルが最もよく説明できるようで、種子産地標高が高いほど、種子産地と植栽地の標高差が小さいほど生存率が高くなる、という傾向が見られる。一方、母樹と反復についてのランダム効果の結果も出ているのだが、これをどう表現すればいいのかよく分かっていない。とにかく、うまく計算されれば、AIC、ランダム効果、固定効果などがずらずらと結果が記載されることが分かった。

・樹高を従属変数として、似たような構造で解析をすると(familyやlinkは異なる)、やはり3)のモデルがもっとも良く、こちらは種子産地も標高差も小さい方が樹高が高いという結果となった。あれれっ、t値は出ているが、有意確率が表示されていないな。何でだろう・・・。

・全体としての傾向は見えてきたので、今度は植栽地を少し限定してみる。一般には530m以下に植栽するので、530以下(低標高)と730m以上(高標高)に分類すると、さてさて・・・。ううむ、低標高に植栽する場合、標高差よりも種子産地が生存には効果が大きく、標高差を含めないモデル(1)の方がむしろAICがよい。一方、高標高に植栽する場合は、標高差の方がむしろ重要で、種子産地と標高差の両方を加味したモデル(3)がもっとも当てはまりがよい。

・樹高についてみてみると、低標高に植栽する場合には種子産地は重要ではなく、標高差が重要(モデル2)が割とよい)。高標高に植栽する場合には種子産地も標高差も重要で、モデル3)がもっともよい。低標高に植栽する場合と高標高に植栽する場合では、効いてくるポイントが異なるようで、これはかなり面白い、と思うのだが、これで解釈が合っているのかどうかが一番問題だな。

父親参観日

2007-02-04 | その他あれこれ
・午前中、幼稚園の父親参観日。最初の1時間は自由時間ということで、郵便やさんごっこ、ブロックなどで遊ぶ。幼稚園児一人一人にさいふがあり、50円で郵便はがきを買うことができる(もちろん、紙のお金だけど)。



・郵便局は上のクラスのお友達が係をしてくれて、ポストにいれるとあっという間に届けてくれる。ハガキの裏に、子供と一緒に初めて「ティラノサウルス」の絵を描いたのだが、郵便局員さんからお褒めにあずかる。

・ブロック遊びでもやはり恐竜ティラノサウルスをつくる。親子合作。他の子供達から次々に仮面ライダー電王の話を聞かされた。今の流行は恐竜と電王なんだそうで・・・。番組が変わるときは、こちらもついていくのが大変である。



・ホールで体操やみんなで遊びをした後、お祈りをする。それが終わると、今度は部屋ごとにテーマが分かれて色んな遊びができるようになっていた。まずは水彩絵の具で謎の絵を書いた後、サーキットコーナーで一遊び。さらに、縫い取り遊びとか折り紙など、次から次へと遊びまくる。

・最後に記念撮影してあっという間に終了。用意するのは大変だっただろうな、ありがとうございました。お陰でこちらは存分に楽しめました。

アフタースキーはカフェ

2007-02-03 | その他あれこれ
・今日は富良野スキー祭りである。ということで混雑を避けて新富良野プリンスホテルのスキー場へ行く。ファミリーゲレンデを軽くすべるつもりが、間違って高速クワットに乗ってしまう。フードつきなので寒くなくて快適なのは良かったのだが、想定していたよりも、かなり高いところまで連れていかれる。子供を股にはさんでの長距離スキーは、変なところに力が入っているせいか、腕がだるくなった。

・どうにかこうにか無事に降りてきて、気になっていたカフェ&天然酵母パンのSoto-cafeをたずねる。古いペンションか何かを改装したようで、中身は丸太小屋風である。なかなかの人気らしく、2時過ぎで既に天然酵母パンはだいぶ売り切れている。いずれもハード系だが、美味しそうである。

・思いがけず、スキーを存分に楽しんでしまったので、店内で飲み物をいただきながらゆっくりする。と、そこで”ネービル”なる富良野の情報誌(?)を発見(無料)。7年も住んでいて、そんな情報誌があったのをはじめて知った。ほほう、ここ以外にもカフェとスープカリーの店があったのか、とか、ショットバー”ワンダー”が居酒屋としてオープンしたとか、などという案外重要な情報を得る。こりゃまた、行ってみないといかんな。

Knapp et al. (2001) Oecologia 掘り起こしレビュー

2007-02-02 | 研究ノート
・分断化や個体密度の低下が繁殖成功や花粉流動に及ぼす影響などの研究をしている人にとても便利な文献があったので、ちょっと紹介してみるとしよう。既に花粉散布総説の執筆過程で行ったレビューの中から掘り出してきたのだが、総説(Koenig and Ashley 2003 Trends in Ecol and Evolution)で紹介されていたので、気になって調べてみたという論文である。なかなか秀逸なので、ぜひ原著を読んでみてください。

Knapp et al.(2001) Pollen-limited reproduction in blue oak: implications for wind pollination in fragmented populations. Oecologia 128: 48-55.
・樹種:ブナ科,Quercus douglasii (blue oak) , 風媒重力散布,他殖性
・主題:分断化された個体群で種子生産量はどのような生態パラメーターで規定されるか?

<材料と方法>
・カリフォルニア州,800×300mの範囲に存在するblue oak,100個体。個体位置は,GISで特定.開花フェノロジーは,3日おきに観察:
・独立変数:堅果生産量(目で見て判定できる→Koenig et al.(1994)Can.J.For.Res. 22:2105-2112)
・従属変数:1996年~1999年まで4年間継続調査した、①各個体の周囲半径60m以内の開花期に成熟していた個体数(雄花は花序の色で開花開始と終了を判定,雌花は開花から10日間を開花期間とする、②枝当たりの雌花数、③交配期の平均気温、④交配期の平均湿度
・重回帰分析で,各パラメーターの相関を検定

<結果>
・年によって結実量は大きく異なる。
・堅果生産量に,60m以内の開花個体数,枝当たり雌花数,気象条件は有意な相関あった。
・近隣範囲を30,40,50,60,70,80mと段階的に設定した結果,60m程度が最もよく説明できた。

考察
・花粉流動は,ごく限定されており,その結果は種子生産量に大きく影響する.
・気象条件は考慮されることが少ないが,風媒種では実は重要.
・個体密度の減少は,種子生産量と新規参入量の減少に大きく影響する.

寸評
・遺伝マーカーを使わなくても実は結構興味深い結果が得られることを明瞭に示した論文.局所個体密度の”局所”とは、実際どのくらいかというと、今回は60mがもっともうまく説明できた、というわけである。風媒種では分断化や個体密度の低下はあまり影響を受けないと信じられてきたが、ちゃんと調べるとそうでもないよ、というような文脈で引用するには非常に使いやすい。

・遺伝マーカーを利用する場合,生産された種子の種子親や花粉親が問題となるが,実は花粉流動の制限は種子生産量に大きく影響し,それは新規参入量に大きく影響する.したがって,保全を考える上で,マーカー以前に種子がどれだけ生産されるかというのは実は重要だが,あまり省みられることがない.前回のO'Connelのトウヒ論文とセットで使うとよいだろう。

・高木種の場合,花粉量,フェノロジー,雌花量,雄花量などをいかに正確に測るかが問題となるが,案外とその部分がきちんと議論されることが少ないように思う。そうした意味でも、本報告は有用だろう.

Richardson et al. (2001) Mol Ecol 斜め読み

2007-02-01 | 研究ノート
・MasterBayesの原著論文ではヒタキ科ウグイス亜科のSeychelles warblerの親子解析がexampleとなっているが,この鳥の繁殖システムが難解で,フェノタイプ情報の意味がよく分からない。原著論文ではCERVUSとMasterBayesとの比較がされており,まずはCERVUSで親子解析をした論文を読まないと先に進めない気がしてきた。ということで、こいつから紐解いてみるとしよう(ちなみに、今回の読解では、鳥の繁殖システムの知識とかが全くないために、とてつもない勘違いをしている可能性もあります。いつも以上にご注意を・・・)。

Richardson et al. (2001) Parantage assignment and extra-group paternity in a cooperative breeder: the Seychelles warbler (Acrocephalus sechellensis). Mol Ecol 10, 2263-2273.

・Seychelles warblerはインド洋西部に浮かぶセイシェル諸島に固有のヒタキ科ウグイス亜科(合っているのかどうか、自信がないけど・・・)の鳥らしい。29haのCousin島では、一時期絶滅の危機に瀕し、29羽まで減った(Crook 1960)。この島では、1999年からほぼ全個体がモニタリングされ、繁殖状況の調査も行われている。この島には、104の繁殖テリトリー,6ヶ月以上の258の個体が存在し,そのうち96%はリングで個体識別され,DNAサンプルも採取されている。

・この鳥は複雑な繁殖システムを持ち,テリトリー内では一雌一雄の上位のペアprimaryとそれ以外の下位の個体”helper”に分類される。また,PCRベースで性を判別できるシステムが確立されているため,各個体の性はかなり正確に識別できている。この鳥は,上位のprimar雌と下位のhelper雌の両方が共通の巣を持ち,共同してひなを育てることがあるとされているが,その詳細は分かっていなかった。

・この鳥は,1つの巣ではたいてい1シーズンに1羽のひなが孵化する(80%)が,まれに2羽,3羽のひなが孵化することもあるらしい。この研究では,1999年に孵化したすべてのひな59羽(48繁殖テリトリー)からDNAサンプルを採取し,14座のマイクロサテライトマーカーを利用して,CERVUSによる親子解析が行われている。最初に母親を推定し,特定された母親を既知親として父親を推定している。すべてが排除された場合には,外部グループと判定している。なお,論文の中ではCERVUSの詳しい検討がなされているが,今回はまるで興味がないので読んでいない。

・親子解析の結果,59羽中55羽について母親を推定でき,そのうちテリトリー外の雌が母親になることはなかった。テリトリー内では,85%がprimary,15%がhelperであった。つまり,テリトリー内で上位の雌がほとんどのひなの母親だが,15%はそれ以外が母親となっているという結果である。これはこの手の社会性動物の中ではjoint nestingという形式とhelper-at-the-nestという形式の混合型だと判断されるようだ。

・一方,父性解析では,62%がテリトリー内の雄が父親となっていたが,38%がテリトリー外の雄が父親となっていた。テリトリーの内外を問わず,Primaryが圧倒的多数を占め,helperが父親となっていたのはテリトリー内では1羽,テリトリー外では0羽だった。Fig3によれば必ずしも隣のテリトリーだけではなく,500m以上移動していることもあるようだ。

・この論文を通じて,ようやくこの鳥の繁殖システムがおぼろげながら分かってきたような気がする。そうか,だからMasterBayesのマニュアルに出てくるWarblerPのフェノタイプデータの中に,status(上位/下位),Terr(同じテリトリーかどうか)とかが出てくるわけだ。Statusとterrは明らかに繁殖成功に影響を及ぼす要因なので,それを事前確率に含めようとしているわけだ。statusは樹木でいえば開花量のスコアとかに相当するってことですか。それにしても、exampleに使用する生物はもっと簡単なやつにしてくれると助かるんだけど・・・。まあとにかく、理解できたということにして先に進むとしよう。