・分断化や個体密度の低下が繁殖成功や花粉流動に及ぼす影響などの研究をしている人にとても便利な文献があったので、ちょっと紹介してみるとしよう。既に花粉散布総説の執筆過程で行ったレビューの中から掘り出してきたのだが、総説(Koenig and Ashley 2003 Trends in Ecol and Evolution)で紹介されていたので、気になって調べてみたという論文である。なかなか秀逸なので、ぜひ原著を読んでみてください。
Knapp et al.(2001) Pollen-limited reproduction in blue oak: implications for wind pollination in fragmented populations. Oecologia 128: 48-55.
・樹種:ブナ科,Quercus douglasii (blue oak) , 風媒重力散布,他殖性
・主題:分断化された個体群で種子生産量はどのような生態パラメーターで規定されるか?
<材料と方法>
・カリフォルニア州,800×300mの範囲に存在するblue oak,100個体。個体位置は,GISで特定.開花フェノロジーは,3日おきに観察:
・独立変数:堅果生産量(目で見て判定できる→Koenig et al.(1994)Can.J.For.Res. 22:2105-2112)
・従属変数:1996年~1999年まで4年間継続調査した、①各個体の周囲半径60m以内の開花期に成熟していた個体数(雄花は花序の色で開花開始と終了を判定,雌花は開花から10日間を開花期間とする、②枝当たりの雌花数、③交配期の平均気温、④交配期の平均湿度
・重回帰分析で,各パラメーターの相関を検定
<結果>
・年によって結実量は大きく異なる。
・堅果生産量に,60m以内の開花個体数,枝当たり雌花数,気象条件は有意な相関あった。
・近隣範囲を30,40,50,60,70,80mと段階的に設定した結果,60m程度が最もよく説明できた。
考察
・花粉流動は,ごく限定されており,その結果は種子生産量に大きく影響する.
・気象条件は考慮されることが少ないが,風媒種では実は重要.
・個体密度の減少は,種子生産量と新規参入量の減少に大きく影響する.
寸評
・遺伝マーカーを使わなくても実は結構興味深い結果が得られることを明瞭に示した論文.局所個体密度の”局所”とは、実際どのくらいかというと、今回は60mがもっともうまく説明できた、というわけである。風媒種では分断化や個体密度の低下はあまり影響を受けないと信じられてきたが、ちゃんと調べるとそうでもないよ、というような文脈で引用するには非常に使いやすい。
・遺伝マーカーを利用する場合,生産された種子の種子親や花粉親が問題となるが,実は花粉流動の制限は種子生産量に大きく影響し,それは新規参入量に大きく影響する.したがって,保全を考える上で,マーカー以前に種子がどれだけ生産されるかというのは実は重要だが,あまり省みられることがない.前回のO'Connelのトウヒ論文とセットで使うとよいだろう。
・高木種の場合,花粉量,フェノロジー,雌花量,雄花量などをいかに正確に測るかが問題となるが,案外とその部分がきちんと議論されることが少ないように思う。そうした意味でも、本報告は有用だろう.
Knapp et al.(2001) Pollen-limited reproduction in blue oak: implications for wind pollination in fragmented populations. Oecologia 128: 48-55.
・樹種:ブナ科,Quercus douglasii (blue oak) , 風媒重力散布,他殖性
・主題:分断化された個体群で種子生産量はどのような生態パラメーターで規定されるか?
<材料と方法>
・カリフォルニア州,800×300mの範囲に存在するblue oak,100個体。個体位置は,GISで特定.開花フェノロジーは,3日おきに観察:
・独立変数:堅果生産量(目で見て判定できる→Koenig et al.(1994)Can.J.For.Res. 22:2105-2112)
・従属変数:1996年~1999年まで4年間継続調査した、①各個体の周囲半径60m以内の開花期に成熟していた個体数(雄花は花序の色で開花開始と終了を判定,雌花は開花から10日間を開花期間とする、②枝当たりの雌花数、③交配期の平均気温、④交配期の平均湿度
・重回帰分析で,各パラメーターの相関を検定
<結果>
・年によって結実量は大きく異なる。
・堅果生産量に,60m以内の開花個体数,枝当たり雌花数,気象条件は有意な相関あった。
・近隣範囲を30,40,50,60,70,80mと段階的に設定した結果,60m程度が最もよく説明できた。
考察
・花粉流動は,ごく限定されており,その結果は種子生産量に大きく影響する.
・気象条件は考慮されることが少ないが,風媒種では実は重要.
・個体密度の減少は,種子生産量と新規参入量の減少に大きく影響する.
寸評
・遺伝マーカーを使わなくても実は結構興味深い結果が得られることを明瞭に示した論文.局所個体密度の”局所”とは、実際どのくらいかというと、今回は60mがもっともうまく説明できた、というわけである。風媒種では分断化や個体密度の低下はあまり影響を受けないと信じられてきたが、ちゃんと調べるとそうでもないよ、というような文脈で引用するには非常に使いやすい。
・遺伝マーカーを利用する場合,生産された種子の種子親や花粉親が問題となるが,実は花粉流動の制限は種子生産量に大きく影響し,それは新規参入量に大きく影響する.したがって,保全を考える上で,マーカー以前に種子がどれだけ生産されるかというのは実は重要だが,あまり省みられることがない.前回のO'Connelのトウヒ論文とセットで使うとよいだろう。
・高木種の場合,花粉量,フェノロジー,雌花量,雄花量などをいかに正確に測るかが問題となるが,案外とその部分がきちんと議論されることが少ないように思う。そうした意味でも、本報告は有用だろう.