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西東京市・北海道富良野の森林を舞台にした遺伝,育種,生態などに関する研究ノートの一部を紹介します

虎刈りヒノキ

2009-01-15 | Weblog
・Tさんとともに、ヒノキ採種園の断幹と枝の剪定。I先生にご指導していただいたとおり、2mの高さで断幹しつつ、枝を半分程度に切り詰める。最初はこんなに切り詰めて大丈夫か?とおそるおそる切っていたのだが、だんだん調子(?)が出てくる。



・作業途中に、「カラスがロープにひっかかっている」という情報が寄せられたので、いったん中断して現場確認に行く。ぐるぐると歩き回った結果、昆虫トラップの紐が羽と足に絡んで、宙吊りになったカラスを発見。なんとかトラップを引き下げて、カラスを紐から外すことができた。遠くで見るとやかましいカラスだが、近くで見ると案外かわいい顔をしている。

・採種園に戻って作業再開。小春日和の中、Tさんとは10mくらい離れて別の列で作業をしているので、黙々と作業。ひたすらにヒノキの枝を剪定していると無我の境地というか、なんというか美容師になったような気がしてくる(虎刈りになってたりして・・・)。帰りがけにふと苗畑方面を見ると、この日和に誘われたのかロウバイの仲間が花をつけている。当試験地では花の中心が赤(下の写真)と花の中心が黄色の2タイプがある。



・Kさんからの指摘を元に、地がき論文の大改造に取り掛かる。現在のバージョンを改めて読み返してみると、イントロの流れが確かによくないように思える。とりあえず、パラグラフを大きく移動させたり、全く新しいロジックを考えたり・・・。うんうんとうなりながらの作業。あまり人にお見せできるものはない。とりあえず、大改造版のイントロたたき台らしきものができた(ような気がする)。後はこれを精査しつつ、肉付けしていくという作業が必要である。

ワンちゃん大集合

2008-09-21 | Weblog
・西武球場までスーパードッグカーニバル2008を観に行くことになった。初めての体験だったのだが、エキストリーム(障害物タイムトライアル)あり、ドッグショーあり、ふれあいコーナーあり・・・でなかなか楽しめた。なんと言っても、普段は見ることのないような珍しい犬種(ボルゾイとか、ペキニーズとか、ピレネー犬とか・・・)がたくさん見ることができた。

・ふれあいコーナーでは、それぞれの家庭のワンちゃんたちが待っていて、かなり自由に触らせてもらった。みんな毛並みがいいし、全くほえない。それにしても、需要と供給というか、こういうことが半ボランティアでできてしまうところが”都会”ということなんだろうか。それにしても、やっぱりワンちゃんはかわいい。マンションさえよければ飼いたいところなんだけど・・・。

やどりぎ

2008-03-05 | Weblog
・実習下見ということで、麓郷のアンパンマンショップの近くの森林に行く。なるほど小径木がたくさんある上に安全で、冬芽の観察にはもってこいの場所である。シナノキ、シラカバ、ヤナギ、ヤチダモなどが主だが、よく見るとセン、カツラ、エゾマツ、トドマツもあり、それなりに多様な種構成である。



・この時期、ヤドリギが目につく。いまだにオレンジ色の実をつけているものもあるのだが、奇主である樹種はある程度決まっているようにも思える。ここではヤマナラシ、シラカバ寄生しているものが多く見られる。鳥の活動(止まりやすさ)によるのか、あるいは、発芽のしやすさ(樹皮の固さ?)などによるのか、興味があるところだ。

・気がつくと、内部勉強会でのプレゼンは翌日に迫っている。基本的には、演習林ゼミで発表した内容を焼きなおす予定なのだが、流れを整理したり、新たに樹高、樹冠面積のグラフを作り直したり、五十嵐ら(2005)の図を取り込んだり・・・。慌しく修正作業に追われる日々である。

モノトーン

2008-01-11 | Weblog
・今回の出張は長期間だったこともあり,荷物が実に多い。ということで,ホテルのある茅場町から浜松町に先に荷物を預けに行く。MSN路線によれば地下鉄2回とJRというのが一番よい行き方のようで,茅場町→日本橋→新橋→浜松町と乗り換える。幸い,そこまで混んでいなかったので何とか大きな荷物を抱えて移動できた。しかし,思ったよりも山手線が空いていて驚く。ちょっとした時間の差なのだろうか・・・。

・10時から学生のD論発表会を聴講し,そのプレゼンが終わると同時に講義へ急ぐ。スライド・プロジェクターを持っていったのだが,教室には既に備え付けられており,コードをつなぐだけでよかった。持って行ったコードが短くて悪戦苦闘していると,気のいい学生がさっと長めのコードを調達してきてくれる。それにしても,便利な世の中になったものである。

・講義は10時40分から12時10分までの1時間半である。学生の出席人数は7名。珍しく遅れてくる学生もいない。講義内容は,今までとは構成を少し変えて,遺伝的多様性の重要性とその計算方法から始めてみる。こうした計算はやはり実データが一番分かりやすい。ということで,アカエゾマツの遺伝子型データを使って計算をしてもらって,3つのタイプの集団を比較する。小数点以下の細かい計算だが,そこは東大生だけあって,涼しい顔(?)でやってのけている。中にはなぜか電卓をもっている学生もいる(何で持っているんだ??)。また時代を反映してか,携帯を計算機にして計算している学生もある。

・しばらくテキストとスライドで講義をした後,今度は種子のサイズの多様性と散布能力について,実際のタネの飛び方を見せながら簡単なレポートを作成させてみる。この問題については,最終的な答えは言わずに宿題にする(というか,時間がなくなった・・・)。こうしたことをやっているとあっという間に時間が過ぎて,最後の林木育種の部分はかなりの駆け足になってしまった。

・今回の学生達は例年に比べて,とても熱心だったこともあるのだろうが,今までのこの講義の中では,最後まで一番ちゃんと聴いていてくれたのではなかろうか。やっぱり実物があるといいし,参加型じゃないと寝ちゃうよね。もっと工夫をして,さらに面白い仕掛けを考えていくべきであろう。

・2時半過ぎの飛行機に乗り込む。気がつくと既に飛行機は北海道の上にある。これまで華やかな世界にいたのが、急に色が白と黒の世界になっている。東京ではダウンジャケットをほとんど使わなかったのを考えるとこの差はでかい。

ビールの素

2007-07-11 | Weblog
・附属高校実習。今年度、早くも4度目の大麓山登山。1000m付近から林道をだらだらと登りながら、あれこれと説明したり・・。附属高校では広島、奈良、北海道の3コースが選べるらしく、修学旅行がないこの学校にとっては、今回の研修旅行はかなり重要なイベントらしい。ゆっくり登ったおかげで今回はあまり息を切らせずに登ることができた。

・山頂では高校生実習そっちのけで、前回取り忘れたアカエゾマツ3個体のサンプリング。こういうときにはGPSが役に立つ。下から眺めたときには雲の中であったが、途中、ちょっと霧が晴れて視界が開けた。富良野市側の眺望もなかなかである。



・バスに戻る途中で、ミヤマハンミョウを発見。早速、捕らえて昆虫採取用専用ガムボトルに入れる。最近、帰宅するたびに子供から”何捕まえた?”というプレッシャーがあるんで・・・。それにしても、実習本番中に一体何をやっているんだか・・・。

・前山保存林で散策した後、水無し沢から高校生の森へ行き記念撮影。途中、だいぶシラカバなどが曲がって道をふさぐような状態になっていた。今年はこういう木が多いように思える。

・ポンタ前から二の山方面を振り返ると、ビール麦が風になびいている。皆さんの元気の素がここですくすくと育ってますよ、ということで撮影。ビール麦は穂が長く、これが風に揺られているのを見るのはちょっと気持ちいいのである。



R35

2007-06-02 | Weblog
・早起き。6時半に学校集合した後、9台の車に分乗していざ岩見沢へ。それにしても、みんな速いのでついていくのが大変。おかげで開場予定時刻よりも到着してしまった。初のIチームとの対戦。背は大きいし練習での動きは鋭そう・・・、これは厳しいかと思いきや、意外にこちらが押している?。結局、終始リードを保ち、危なげなく快勝。ミニゲームでも試合に慣れていない子達の動きがかわいい。こちらも接戦ながら勝利。強くなったものである。

・試合終了後、お弁当を会場で食べて、それぞれに帰還。途中、早起きと食後で眠くなりそうになったので、CDを最近購入した”R35”に変える。これは現35歳世代で流行った曲を集めたオムニバス盤である。夏の日の1993とか、Womanとか、懐かしすぎる!これらが流行っていたころには、とある民間会社で営業していたわけだが、同期と週に2,3度はカラオケに行っていたのを思い出す。熱唱すると、眠気もすっきり。

・帰ってくると、水生昆虫を取りにいくことになる。ホーマックにて網を購入し、空知川の川原へと行く。石をひっくり返すも、期待しているような水生昆虫は見当たらず・・・。しかし、青緑色と赤色に輝く2匹のゴミムシ(?)の仲間を見つけて、満足である。

羊が丘、上陸

2007-05-23 | Weblog
・一時期の薄ら寒かった日々が嘘のように,もはや初夏の装いである。札幌までの電車内で飯島くんのJFR最新原稿(Online Early)を読む。倒木の質(硬さ,光,コケの厚さ,先住個体のサイズなど)がトドマツとエゾマツの実生密度に及ぼす影響をGLMで解析した論文。この論文を引用すれば,トドマツ原稿のイントロ,考察の“倒木の効果”パートを補強できそう。

・さらに,この論文で引用されている先行研究の中にも,明らかに“外せない”と思われる文献がいくつか見受けられる。やはり,“トドマツの倒木更新”を生態学的に検討した先行研究は,もう一度おさらいしておく必要がある。また,トドマツの耐陰性についても,引用できそうな論文がありそうで,これらをうまく取り入れれば考察が深まりそうである。

・札幌駅前で飯島くんと待ち合わせ,羊が丘へ。行きがけに,パン吉に寄ってお昼ごはんと自宅へのお土産を調達。11時半ごろ到着し,北村さんに敷地内の試験林,自然林などを見せていただく。思ったよりも敷地が広く,驚いた。しかも,森の向こうには“大都会”が迫って居り,不思議な(素敵な?)ロケーションである。この付近は,山火事で焼けた後に成立した二次林で,ほとんど針葉樹が見られない。目に付くのは,ミズナラ,カンバ(シラカバとウダイカンバ),ドロノキなどである。ほとんど全てのミズナラが一本立ちになっていないのが,気にかかった。



・この付近の標高はそれほど高くないが,クマイザサとチシマザサが混じっている。言われてみると,ササの一斉枯死した跡があちこちで目に付く。チシマザサの方がパッチは明瞭なようである。北村さんの調査地では,一斉枯死した後に更新したササの実生を初めて見せていただく。なるほど,愛らしい姿である。が,その脇には,たくましく繁茂したツタウルシが・・・。これは厳しい調査地,だ。



・午後からゼミ。アカエゾマツの集団遺伝の結果と科研で行う計画を聞いていただく。本日の打ち合わせ前にコンセンサスを得るという目的もあったのだが,関係ない人にはちょっとマニアックな内容になってしまったのかも。ゼミ終了後,北村さん,飯島くんと3人で計画を立てる。最初は荒唐無稽な計画に思えたが,3に寄れば何とやらで,ターゲットとなる集団や個体,測定方法,測定項目などを決めるうちに,何とかなりそうな気がしてきた。6月末からのスタートということで,現地調査の具体的な日取りを決める。

・こうした正式(?)な研究チームの編成は初めてなので,なんだか新鮮である。それぞれの得意分野を生かしてコラボレーションができるように,少しずつ進めていくことにしよう。後はアカエゾマツの種子が今年の秋に取れるかが問題だが,まずは春先の花の状態をチェックすることから始めてみる。山に行くときには,双眼鏡を忘れずに持っていかなきゃ・・・だな。

芸は身を助く(?)

2007-04-01 | Weblog
・4月1日、エイプリルフール。いつの間にか,新しい年度となってしまった。いきなり福岡から業務(?)開始。滝川から千歳までの特急内で,当機関のMくんの原稿と関連論文を読む。この原稿は,低標高域に設定された事業的なエゾマツ造林地における植栽木の生育状況と押し幅に更新した天然更新木の種組成とサイズを調査したというものである。至って記載的な報告だが,事業的なエゾマツ造林地のデータがそもそも少ない上に,本報告のように低標高に造林された例は皆無なので,実に“貴重”なのである。

・論文(的?)の文章を書きなれない人にとって,一番の難関は考察だろう。はじめに,調査地と方法,結果などと比べると,いかにも自由自在に書いていいわけだが,逆に大海にボートで漕ぎ出すようなもので,一体全体,どのように書き進めればいいか途方にくれてしまう。当方が察するところ,特に,既存の報告をどのように引用し,自分の研究と対比しながら,一定の結論を導きだすというところが難しいようだ。と,Mくんの原稿をと見ると,これが意外にも(?)なかなか頑張って考察しており,関連論文もしっかりと引用している。彼が書いた最初の論文に比べると,まるで別人である。

・やはり,書き続けることというのは人を成長させるのである。ううっ,お父さんは嬉しいよ・・・とか何とか感慨にふけりつつ,文章を冷静にチェック。ほめておいて落とすようだが,細かい文章表現はまだまだで,例によって赤ペンですごい状態になる。初めての人だとびっくりして落ち込むところかもしれないが,彼は慣れっこなので大丈夫なのである(と思う)。文章チェックは飛行機の中まで続き,久しぶりに十分な推敲ができた。こうして文章にまとめると,調査だけでは見えなかった部分が出てくるのが醍醐味だ。

・本調査と既存研究を合わせて考えると,エゾマツ造林は低標高でも十分可能で,むしろ1000m以上の高標高に苗畑で養成した苗木を植栽するときこそ注意が必要なようだ(山引き苗で生存率が高いのは,標高に対する適応が関係しているのであろう)。また,エゾマツカサアブラムシの被害は目立つけれども,長期的には大きな問題にならないということもはっきり言えそうである。本調査地では,天然更新したウダイカンバの下にエゾマツが生育するという二段林状態となっており,エゾマツ資源保続という観点でも,林業経営としての観点でも,興味深いデータとなっている。本原稿は森林立地に投稿予定なので,皆さんのお目に留まる日も近い(といいんですけど・・・)。

・真剣に修正作業するとさすがに疲れる。例によって,空の落語を拝聴。4月になるとプログラムも一新。本日は,江戸屋子猫の「ものまね」である。様々な鳥の鳴きまねから,最後は犬の犬種による鳴き方の違いまで。結構,思わず吹き出しそうになって困る。実はお笑いも好きなので,昨今のお笑い芸人ブームにけちをつけるつもりはないが,本物の“芸人”とはこういうものかと改めて感心。決して派手ではないが,ずっと聞いていると心がすっと気持ちよくなるというか,“得したね!”って気になるのである。単にものまねにとどまらず,一つの物語にしているところはさすが!3代にわたって「ものまね」でやってきただけのことはあるのであった。

Oline et al. 2000 Evolution 読解

2007-02-14 | Weblog
Foxtail pineの遺伝的分化に関する論文読解である。この種は、山岳地帯に隔離分布すること、蛇紋岩系土壌(英語ではSerpentine soilということが初めて分かった)に特異的に分布するマツで、アカエゾマツと分布形態が非常によく似ている。短い論文だが、重要な表現がちらほらと・・・。

Oline et al. (2001) Population and subspecific genetic differentiation in the foxtail pine (Pinus balfouriana). Evolution 54(3), 1813-1819.

<イントロ>
Foxtail pine(Pinus balfouriana)はカリフォルニア半島の固有種で,北部のKlamath山脈周辺(標高2000-3000m,混交林)と南部のシエラネバダ(2200-4000m,純林)に隔離分布する亜高山性の針葉樹。北部と南部の集団は,地理的に500km以上離れており,遺伝的交流はないと考えられる。これらは亜種レベルで区分され,北部はP.b. balfouriana,南部はP. b. austrinaに分類される。本研究では,アロザイムマーカーを用いて,これらの地域内集団の遺伝的多様性の程度や地域内集団間(亜種内)および地域間(亜種間)の遺伝的分化の程度を調査する。さらに,集団が成立している土壌のタイプが遺伝的多様性や分化に及ぼす影響を評価する。

<マテメソ>
調査地として,先行研究(Mastrogiuseppe and Mastrogiuseppe 1980)で用いた北部5集団,南部5集団を選んだ。これら5つの北部集団は全て蛇紋岩系土壌だったので,北部ではさらに非蛇紋岩系土壌の6集団を追加した。近縁個体の採取を避けるために,個体間距離を20m以上保ちながら,集団当たり20-30個体サンプリングした。北部集団は2900-3150m,南部は2050-2450mの標高である。アロザイム11座で遺伝解析し,多型遺伝子座でF統計量を計算した。

<主な結果と考察>
・11座中3座で多型が検出された。南部集団では集団間のマルチローカスFstが0.075であったのに対し,北部集団は0.242であり,有意に分化していた。南部は2700-3400mの標高に連続した大きな集団が存在するが,北部では2000m以上の山頂付近に隔離分布しており,“mountain island effect”によって浮動と選択が強く働いた結果だろう。

・Pinus longaevaでは,Great Basinの”Mainland”と山岳地帯の“Island”の比較が行われているが,山岳地帯ではGstが0.169だったのに対し,大陸では0.065と低かった、という本研究と同様の結果が得られている(Hamrick et al. 1994)。メキシコのPinus ayacahuiteでもGST=0.212という高い遺伝的分化が認められており(Ledig 1998),Mountain island effectは,元来,分化度が低い針葉樹でも,遺伝的構造を生じさせる一因となりうることが示唆された。

・Mountain island effectは最初,遺伝的浮動によって引き起こされると考えられる。今回サンプリングした集団のサイズは,300-600個体で構成される比較的大きなものだが,過去のボトルネックと遺伝子淘汰は,氷河期以降の気候変動において発生したものと考えられる。針葉樹は気候変動への応答反応として,その垂直方向の分布域を上下させてきたことが知られている(Wells 1983; Thompson 1988)。

・Foxtail pineの北部集団の場合,現在の分布域は山頂付近や尾根にあるが,これらはもっと高い標高のレフュージアからの移住によって生じていることが推測されている。現在よりも気温の高かった温暖な時代から冷涼な気候になるときに,Foxtail pineの集団は標高の低いところへと移住して生き延びたが,各地で集団サイズの極端な減少や絶滅が発生し,山頂付近に押し込められるようにして,現在の分布域を形成したのではないかと推察される。

・Foxtail pineは北部のKlamath山脈付近では蛇紋岩系土壌と非蛇紋岩系土壌の両方に分布する。北部のFoxtail pineの集団は蛇紋岩系土壌にのみ大きな純林を形成し,他の土壌では山頂付近に隔離分布する。山頂は強い日射,乾燥させる強風など,湿潤な他の環境に比べて極めて厳しい。Foxtail pineはこうした厳しい環境下のみで,他の針葉樹に打ち勝ち,生存することができると考えられる。

・蛇紋岩系土壌の集団間と非蛇紋岩系土壌の集団間で遺伝的分化度の比較を行ったが,明瞭な傾向は認められなかった。遺伝子座ごとにみると,Gpi座では遺伝子頻度に有意差がなかったが,Mdh1座とFest1座では有意差が認められた。蛇紋岩系土壌は,植物種の進化を促進することが知られている。Kruckeberg (1982)は北カリフォルニアで蛇紋岩系土壌において,152種と64亜種が固有となっていることを指摘している。これらの固有性は,土壌中に含まれる重金属によって引き起こされると考えられている。

・蛇紋岩系土壌は針葉樹の適応進化にも影響を及ぼすことが示唆されている。Jenkinson (1966)は,20年間の産地試験を通じて,蛇紋岩産のポンデローサマツの成長が花崗岩産のものよりも蓄積で50%も優れていることを示した。Kruckeberg (1967)は,同様に,成長率の有意な違いをコントルタマツで見出している。Furnier and Adams (1986)は,ジェフリーマツの遺伝解析において,土壌タイプに関連する遺伝的分化の証拠を示している。


<まとめ>
・Foxtail pineは北部の亜種集団において,針葉樹の生活史から推定されるよりも,はるかに高い遺伝的分化を示した。針葉樹は,高い遺伝子分散能力,長命性,高い他殖率など,遺伝的分化を妨げ,遺伝的に均質化する傾向にあるが,Mountain island effectはこうした生活史特性を上回るほど分化を促す影響を与える。これは,Pinus longaeva (Hamrick et al. 1994) やP. ayachahuite(Ledig 1998)でも認められたのと同様である。さらにFoxtail pineは,ポンデロサマツ(Jenknson 1966; Ledig 1998)やコントルタマツ(Furnier and Adams 1986)と同様に,蛇紋岩に適応している可能性が示唆された。仮に,Mdh1やFset1遺伝子座において自然選択が働いているとすれば,その自然選択の証拠は,北部集団における遺伝的浮動,ボトルネック,それに伴うアレル消失による強い集団間分化によって,あいまいになっている可能性がある。

<寸評>
・方法と結果はいたってシンプルなのだが、なかなか味わい深い。”Mountain island effect”という言葉は非常に便利なので、アカエゾマツのバリアーの考察でも使う予定。多型的なアロザイム遺伝子座はわずかに3座なのだが、それなりにすごいことをやっている気にさせるのは文章がうまいからか・・・。蛇紋岩に対する適応の部分は、イマイチな結果の割には、力がこもったDiscussionになっている。おそらく著者の思い入れは相当に強いのであろう。土壌による遺伝的分化や適応に関する表現が満載なので、アカエゾマツでも使えそうである。マイクロサテライトよりもアロザイムの方が、適応的な進化に近づけるのではないか、ということを改めて考えさせられる。

Invited reviewとタネ展

2006-09-01 | Weblog
・共同研究者Rさんから,GGGという雑誌からInvited reviewの依頼を受けたという話を聞く.「すごいですねえ」などと言っているうちに,いつしか「一緒に書かないか?」と,Invited reviewにInviteされるという妙なことになる.「えっ!?」といいつつ,「GGGとはどんな雑誌だ?Reviewとはどんな内容だ?」などと言っている間に話はどんどん盛り上がり,「やるか,やっちゃうか!」という超ポジティブな方向へ急展開.9月末がアブスト締め切りということで,大急ぎで内容を確定させよう・・・ということで一件落着(してないけど・・・).

・茨城県の自然博物館のOさんから,「タネ展」という種子散布に関する展示をするので研究紹介をさせて欲しいという依頼を受ける.以前,講演したヤチダモの種子散布実験とオニグルミ核果の持ち去り実験の話に関心を持っていただいたとのこと.北海道の研究成果が茨城県で公開されるという不思議な状況だが,こちらとしてもありがたいお話なので,プレゼン資料,ヤチダモとオニグルミの種子などをお送りする.

・ヤチダモの種子散布実験は,鉄塔から種子を散布して,飛翔時間と飛翔距離範囲を調べたという,小学生でもできるような超シンプルな実験である.実際には,鉄塔の上から「いくよー,ハイ」などと声をかけて種子を放ち,地上に待ち構えている5名の観察者が「そっちだー,落ちるぞー」,などといいながら落下箇所に直ちに旗を立てるというような,非常に楽しい,牧歌的実験であった.

・この実験でちょっとだけ工夫をしたのは,散布実験に使用する1つ1つの種子をデジタルカメラで予め撮影しておき,共同研究者のIさんが開発したSHAPEという画像解析ソフトを使って種子のかたちを定量的に調べておいた,というところである.この結果,両端が尖った種子は飛翔能力が高いという,種子のかたちの微細な種内変異が飛翔能力に影響することを世界で初めて示した論文となった.

・オニグルミの持ち去り実験は,技術員のMさんとの共同研究である.これまたシンプルな実験で,クルミにペンキや蛍光糸でマーキングしておいて,エゾリスやアカネズミに持っていかせて,その後の貯食場所や捕食場所を特定したものである.改めて,2次散布が普遍的に起こっていること,ササ地ではアカネズミが巣穴にとんでもない量のオニグルミを溜め込んで捕食していること,などが分かってとても面白かった.掘り出された大量のクルミは,なぜか研究室内に保存(?)されていたのだが,なかなか出番がないままに待機させられていた.ということで,待機クルミは全てが茨城送りとなり,(たぶん)活躍の場を得たのであった.