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西東京市・北海道富良野の森林を舞台にした遺伝,育種,生態などに関する研究ノートの一部を紹介します

ゼミ発表の予定

2006-11-30 | 研究ノート
・なにやら忙しい.飛び込みの依頼仕事などもあり,講義も含めて,12月に2回,1月,2月に1回ずつ上京することになった.こんなことは今までなかったのだが・・・.不思議なことに,3つの論文執筆のためのデータが同時並行的に揃いつつある.そういえば,Revisionとかのタイミングも不思議と重なるものである.

・12月22日には,東大本部で演習林ゼミがあるのだが,まさに現在どっぷりつかり始めている”倒木上へのトドマツの種子散布プロセス”を発表することにする.こうすることで,必然的に,データ解析が進むだろうと,半ば期待しているのである.ゼミでの発表で,遺伝マーカー絡みは実は久しぶりだが,たまには本業(?)もよかろうということで・・・.

タネの重さにまつわるエトセトラ

2006-11-29 | 研究ノート
・最近,重要なメールを立て続けに2本も受領し損なうというハプニングがあった.そのうち一つは査読依頼のメールである.そういえば,以前にも査読依頼のメールがなぜか届いていなかったことがあった.まさか,無意識のうちに削除していたりして・・・.それは冗談としても,英文タイトルのメールは,大量のスパムメール処理と一緒に削除してしまったのかも・・・.これからは,もうちょっと慎重に処理しなければいかんな.

・昨日からのトドマツのJ-C仮説にまつわる考究の続き.Yさんとの電話打ち合わせに引き続き,北大のIさんとも電話とメールでディスカッションし,さらにいくつか重要なコメントや指摘を頂く.これらのディスカッションから,母樹特異的な死亡については,立ち枯れ病をターゲットとして論理展開を検討するという方針が(自分の中では)大体固まってきた.さらに裏を取っていく必要があるが,貴重な時間を割いてコメントを下さり,議論に付き合ってくださったお二人に感謝.

・ところで,Iさんからは一つ新鮮な指摘を頂いた.それは,種子の質が悪いものが母樹のごく近くに散布されるので,結果的に遠くから散布されたものが残るのではないか,というものである.ヤチダモの種子散布実験でも,種子の微妙な形の変異や重さ,面積が飛翔能力に大きな影響を及ぼしていることを考えれば,あながち,この指摘は的外れとは言えないかもしれない.

・やや想像をたくましくすれば,近親交配で得られた種子は質が悪くて,飛びも悪く,結果として母樹のすぐそばに散布される.これらは初期に淘汰されるので,結果的に実生の年齢が上がると散布距離が伸びる,という説明はどうだろうか.”いや,いくらなんでも出来すぎか・・・”など漠然と考えるうちに,自分自身でトドマツを人工交配した種子の形質を調べていたことに気がついた(忘れてた!).



・トドマツの充実率は,自殖すると他殖よりも明らかに低下する.それはいいとして,種子の100粒重を比べると,母樹によっては,若干,他殖種子よりも自殖種子の方が重くなっているものもある(少なくとも,自殖の方が軽くなるとは言えない).これが一般的だとすると,自殖なり近親交配による種子が重くて,あまり遠くに飛ばないということもあるのかもしれない.ただし,この100粒重は充実種子もシイナ種子もまとめて計測しているものなので,解釈には注意が必要である.興味深いことに,無受粉の場合には(袋がけして花粉をかけないもの.もちろん充実種子は1粒もできない),できた種子は(正確には種子の殻だけど)一番重かったりするのだ.

・だんだんと妄想の世界に入っている気もするが,苦労した交配実験がここで生きてくるとは思わなかった.こうした地味な仕事は,意外なところで論旨を後押ししたりする.とにかく,もうしばらく妄想の世界をさまようとするか・・・.

針葉樹のJanzen-Connel仮説

2006-11-28 | 研究ノート
・倒木上のトドマツ実生/稚樹の親子解析を進めるうちに,興味深い事実が浮かび上がってきた.実生/稚樹の年齢と種子散布距離の関係をみると,年齢が上がるほど種子散布距離が長くなる傾向があるようなのだ.こういう傾向をみると,すぐにJanzen-Connel仮説を思い浮かべてしまうのだが,なぜだか自分としては”しっくり”こない.こういうときには専門家の意見を聞くのが一番ということで,温帯林におけるJ-C仮説の検証をテーマに研究をされているYさんに,いくつかの質問をさせて頂いたところ,早速,貴重なコメントと重要な文献を教えていただいた(ありがとうございました!).

・J-C仮説は熱帯林の種多様性を説明するために提出された仮説なので,同種個体密度が高い針葉樹にはそもそも適せず,最近では,距離依存的,あるいは密度依存的な死亡については,最近,「J-C仮説」とは異なる用語が使われているらしい.また,Yさんからのコメントで改めて気がついたのだが,単にトドマツ成木の近くで実生の死亡率が高いということだけでは,年齢と散布距離の関係は説明できない.

・つまり,”近傍の母樹の近くでは,他人の子供に比べて,その母樹の子供は死亡しやすい”ことが成り立ち,年齢が上がるにつれて,近傍の母樹から散布された子供が淘汰されていかなくては,このような現象にはならないわけだ.したがって,「トドマツ成木の近傍でトドマツ実生を加害する昆虫が多い」となどでは,論理的に不十分だ.つまり,母樹特異的な菌類がいて,同じ家系(つまり子供)はより病気にかかりやすいなどという現象がない限りは,このような結果にはならないことになる(あるいは,距離依存的な死亡以外の要因を探す必要がある).

・Yさんからの指摘にもあったが,やはり死亡要因の特定が重要だと認識する.既に,ラベルはつけてあるので,来年は少し細かく調査を行って,死亡要因や病原菌の特定をする必要がありそうだ.また,移植実験をすれば,この仮説は検証できるわけである(Augspurgerの初期の仕事では,母樹の樹冠下よりも他個体の樹冠下の方が生存率が高いという現象が既に報告されている).母樹別実生は苗畑に準備しているので,これもうまくいけば不可能ではない.それにしても,岩魚沢のトドマツは,繁殖過程でも実生の定着でも,ほんとに面白い知見が転がっていそうだ.


実生年齢とワールドビューティー

2006-11-27 | フィールドから
・トドマツ倒木上実生の親子解析をしていく中で,年齢が10歳以上となって特定できていない稚樹が10数本あるのがどうにも気になるということで,再び,岩魚沢へ行く.フィールドが近いと,ちょっと足りないデータをすぐに取りにいけるという大きなメリットがある.日曜の暖かさで雪はまた解けたようだ.それにしても,こんなに根雪が遅い年も珍しい.

・悪あがきと知りつつ,やはり倒木上実生の写真撮影に挑む.が,どうしても,目で見るダイナミックさが伝わらない.やはり,”目”ってすごい情報量なんだねえと妙に感心してみたり・・・



・岩魚沢の林床はかなりクマイザサが厚く繁茂している.だからこそ,倒木上が重要な更新サイトになるわけであるが,これが斜面になると様相は一変する.倒木への依存度が変化すると,種子散布パターンも当然変わるのだろうが,それは今後の課題として,今回は”ササ型林床のセーフサイトである倒木上への有効種子散布”に限った議論をするべきだな,と改めて感じたりする.



・何はともあれ,これで実生/稚樹の年齢について,思う存分解析できることになったわけである.とりあえず,年齢のヒストグラムを描いてみる.エクセルだと,色々と設定があって面倒だが,Rのヒストグラムは本当に便利だ.いわゆる"逆J字型”の構造となっているようだが,もう少しじっくりと考えてみる必要があるな.



・帰り際に,東山樹木園を訪れ,ヨーロッパカンバなどのサンプリングを行う.このような意図をもって,まともに訪れるのは実は初めてである.1960年代に植栽したものなどは,かなり枯死している個体も多い.また,設定当初はしっかりしていたはずのプレートも,かなり落ちている.

・前後のプレートや植栽間隔,位置図などを見比べながら,サンプリング個体を決めたのだが,結構時間がかかった.カンバ類は,これからますます,天然更新個体と植栽個体の区別が難しくなりそうである.まずは,カンバ類のプレート付け替えが必要となりそう,だ.

・家に帰ると,JALカードからカレンダーが送られてきていた.カレンダーのタイトルはというと,なんと「ワールド・ビューティー」である.そこはJALカードなのでセクシーショットはないのだが,ハワイ,イタリア,中国などなど世界各国の美女がそれぞれの衣装に身を包み,微笑んでいる.2007年はいいことありそう・・・だ.

雪遊びとチャンポン

2006-11-26 | その他あれこれ
・晴天無風.こんな日は外で遊べるめったにないチャンスである.ということで,近くの公園に子供を連れていく.薄く積もった雪がまぶしく,気持ちがいい.雪に閉ざされているときには何とも重たい気持ちになってしまうのだが,このように”パッカーン”と晴れると,”ノープロプレム”的な気持ちになるんだから.単純なものだ.

・それにしても,今日は山が近くに見える.十勝岳方面はこんな感じ.



・一方の芦別岳方面はこう.



・家からちょっと歩けば,どちらの山もどどーんと見えるのだから,山好きには”たまらない”ところなんでしょうなあ.

・本日の昼食はチャンポン.わが家にとってチャンポンはときおり無性に食べたくなる,”ソウルフード”なんである.残念ながら,このへんのスーパーには生麺が売っていないので,冷凍食品が4割引の時に購入しておいた”Goota”のチャンポンを頂いているわけで(まともに買うと結構高い).

・チャンポン麺はモツ鍋の最後の締めとしても活躍するのだが,これまた,ここでは,まともな”モツ”が手に入らなかったりするわけで,最近はずっと”塩ちゃんこ”と”ラーメン締め”の組み合わせが我が家の定番となっている.


物干し竿につらら

2006-11-25 | その他あれこれ
・物干し竿には見事な氷柱ができた.最初の冬には物干し竿を仕舞い忘れ,まあいいかと放置していたところ,春先の固くて重い雪が屋根から一挙に落下し,物干し竿が壊れるという事件があった.そんなわけで,今年も忘れないうちに物置に持って行くことにしよう.もはや洗濯物はずっと家の中であるが,ストーブが強力なので一晩で乾いてしまうのだ.



・今日は,ミニバスの強化練習が美瑛であり,子供たちを連れていく.総勢93名が旭川や美瑛から集まる合同練習である.この中から最終的には,15名に絞り込むんだとか・・・.ボールを持つ前に,さまざまなストレッチが延々と続く.子供たちもかなり緊張気味である.今日のコーチは厳しいが,ところどころでユーモアもあって,傍で見ている分にはなかなか楽しい.後半になってボールを扱う段になると,みんなだいぶ慣れてきたようだ.

・基本的なメニューは,おそらく普段の練習とほとんど変わらないと思うのだが,実践で使える動きを”なぜそのような練習をするのか”を分かりやすく説明してくれるのが有難い.どの練習もすぐに試合で使える動きばかりのようだ.子供たちにはきっといい経験になることだろう.とかなんとかいいつつ,最近は見ているばっかりで,まるで自分は体を動かしておらんな・・・.

アカエゾマツ隠れ個体群

2006-11-24 | フィールドから
・若手職員Oくんから,施業現場でアカエゾマツが40本くらい密生しているところがある,という情報をもらった.場所は西側の奥地である.西達布流域にはアカエゾマツが非常に少ないので,こんなところに個体群が隠れていたとは驚きである.地図で見る限り,経才鶴の個体群に比較的近い.それにしても,これだけ職員が毎日山に入っているにもかかわらず,まだまだ知られていない個体群がある,というのがすごい.

・彼らは今日も現場に行くというので,現地まで案内をお願いする.一昨日からの雪で,国道は久しぶりの凍結路,圧雪路となっている.なんだか緊張して,肩が凝ってしまった.現地は,湧き水,保存林,Uくんの91林班のウダイカンバプロットをさらに超え,どんどんと奥地に入る.標高の低いところでは,まるでアカエゾマツが見当たらないのだが,この先にひっそりと隠れているのだろうか.奥地では新雪が15-20cm程度になっており,非力なアウトランダーではなかなか苦しい.

・車が登らなくなったところで,彼らの車に乗り換えて現場到着.ほほう,想像以上に個体数が多いな.大体”30個体”という話の時には,しっかりと調査すると100個体くらい出てくるものなんだが,ここは100個体どころか,200-300個体くらいあってもおかしくない.標高は700m前後なのだが,大麓山頂上と同じように遺存的に分布していたのかもしれないなと思わせる規模である.



・アカエゾマツの集団遺伝については,既に15集団のマイクロサテライト遺伝子型を決定しているので,まずは現在のデータでまとめるつもりである.が,この個体群はぜひとも調べておくべきだろう.特に,大麓山山頂なみに多様性が高いのか,また神社山の隔離個体群や大麓山山麓の集団との遺伝的関係は非常に興味深いところである.ということで,落ち着いたら,スノーモービルで現地調査&サンプリングをすることに・・・.どんな結果になることだろうか.

・帰りがけに,今年春に設定した東山のカラマツ雑種F1の試験地に行く.この材料は,道立林業試験場が母樹をグイマツの中で一般組み合わせ能力の高い2クローンに絞りこみ,父親はニホンカラマツ精英樹の自然高配による単一母樹クローン採種園産のスーパーF1である.父親鑑定は東大のTくんが行ってくれていて,父親が次代のパフォーマンスに及ぼす影響が長期で調べられる設計となっている.

・さすが,スーパーだけあって,成長がよい.生存率もかなり高そうである.しかし,試験地の付近はエゾシカの足跡があり,少々心配である.今のところ,食害はないのだが,春先が問題かもしれない.しかし,うまく成林すれば,世界的にも貴重なデータ得られる(はず)である.


雪の仕事人

2006-11-23 | その他あれこれ
・朝起きると,既に雪国である.これから毎朝起きるたびに,窓越しに雪の積もった深さを見て,ほっとしたり,慌てて雪かきをするような日々が続くのである.もはや自転車は必要ない,ということで物置に仕舞いこみ,雪かき道具を玄関先にならべる.一見どうやって使うのかと思うかもしれないが,この中では左端の雪かき道具がもっとも頻繁に使っている.



・ホーマックに車の雪用ワイパーを新調しに行く.店の中は,雪関連のグッズを買い求める人でにぎわっている.そういえば,地元の人たちは雪かきの道具の使い方がすごく上手だ.当方が5回かかって運ぶところを,「どうやったらそんなに上手く積めるんだ」というくらい積み込んで1回で運んでしまう.やはり経験のなせる技だろうか・・・.

Gonzalez-Martinez et al. 2006 Mol Ecol批評

2006-11-22 | 研究ノート
・気になっていた査読をえいやと片付ける.いつもながら,査読結果を伝える英文が今ひとつ自信がないが,何度か読み直して,それでいいことにする.手元に査読原稿があると何とも重たいものだが,これでほっと一息(している場合じゃなかったりして・・・).

・昼休みに,Martinez et al. 2006 Mol Ecolをさらっと読んでみる.これは,Seedling neighborhood modelを使った最新論文として,川渡のTくんが紹介してくれていたものである.Tくんのレビューを参考にしながら読んだのだが,考察を中心にちょっと別の角度から(まだまだ読みが浅いんだが)批評してみよう.

・Gonzalez-Martinezは2002年にもTheor Appl Genetに同じフランス海岸松の種子散布に関する論文を出している.これはかなり意味不明の論文だったのだが,反省したのか,今回の論文はずいぶんと気合が入っている.Tくんの説明の方が詳しいが,調査サイトはスペイン中央部,対象樹種はフランス海岸松である.100m半径の円形プロット中の成木380個体が親候補で,その中心部に設定した30m半径の実生プロット中に分布した実生267本の親子解析をしようというもの.まさしく,以前,紹介したような調査プロットの設計で,モデルにおける近隣範囲の半径は50mに設定されている.

・と,ここで,Fig1にさりげなく描かれている年齢のヒストグラムに目を奪われる.どうやら成木は380本からコアを抜き,1本1本の年齢を調べたようだ.また,繁殖努力を評価するために,球果数をカウントしている.さらに,1週間ごとに28個のトラップに通って,全ての種子を回収した,とある.最近,こんなところが気になるんだが,地味な仕事がかっこいいと思える年齢になってきたということか・・・.

・いきなり考察である.今回の結果では,50mの近隣範囲で自殖がほぼゼロ,種子は43%,花粉は85%と高い移入率だったことに対して,他の針葉樹の既存研究と比べて妥当な値だとしている.ここで,針葉樹では接合前の自家不和合性システムがないが,厳しい近交弱勢によって,種子や稚樹のステージでは自殖率が無視できる程度に低下することが書かれている(便利な表現だ・・・).

・SNMモデル(35m),Inverseモデル(34-50m),ダイレクトな親子解析(50m)のそれぞれの種子散布距離の中央値についても,比較しつつ述べている.しかし,やはりここでも,種子の移入率は距離の話からは無視されているな.43%がプロット外から流入しているということになると,プロット内だけで決まった散布距離の中央値にどれだけ意味があるか,と思うんだが,特に有効な手立てを講じる気はないということか・・・.ヤチダモ論文では,種子散布距離の推定は破綻しているが,無理やりにでも推定しようという涙ぐましい努力の跡が垣間見えるんだが・・・.

・雌性繁殖成功度のばらつきの大きさについては,Scnabel et al.1998では,Gleditsia triacanthosで2個体が50%の実生の母親になっていたこと,Valbuona-Carabana et al. 2005では,ナラの仲間で,たった1個体が1/3の実生の親となっていたこと,などの既存の知見を引用し,その影響などを論じている.Aldrich et al. 1998がNatureに論文を出した頃にはほとんどなかった知見だが,こうした議論はずいぶん引用できるデータが多くなってきたと感じる今日この頃だ.

・繁殖努力と繁殖成功の関係については,球果数のカウントは1年間の調査であっても,(おそらく20年にわたる)実生定着の成功度に関連する指標として有効だとしている.マツ科では,雌花や球果生産量の年次相関が報告されており(つまり,よく花をつける個体はどの豊作年でもよく花をつける),フランス海岸松でも報告があるらしい.この部分は,トドマツ論文の中で,2005年しか調査していない雄花量スコアをどう扱うかといった部分で利用できそうな文脈である.

・驚いたことに(と彼らが言っているのだが),古い個体であれば,当然,子供を残すチャンスは多いと考えられるのだが,母親候補の年齢と繁殖成功度には関連がなかった.サイズと繁殖成功度の関係はいくつか報告があるが,年齢は今までに見たことがなく,新しい知見だろう.これまで当方が観察した限りでは,カツラとニレではサイズや樹齢と開花量には相関がまるでなさそうである.ともかく,この部分は,Sさんのカツラ種子散布論文でも参考になりそうだ.

・種子トラップから導き出された種子散布距離と遺伝マーカーで推定された散布距離を比較したパラグラフでは,散布後の選択について逃避仮説が成り立つのではないかという流れである.きちんとしたメカニズムの説明までは至っていないが,アレッポマツでは,逃避仮説を示唆するようなデータが種子トラップと実生定着の解析(Nathan et al. 2000),核SSRによる遺伝解析結果(Troupin et al. 2005:遺伝構造に関するものか?)であるらしい.本論文では,「それ以上深入りしたら,オーバーディスカッションだろう」と指摘したくなる寸前で,”Apart form J-C effects(逃避仮説から離れて)”,とするりとかわしている.うーむ,おぬし,なかなかできるな・・・.

・ところで,この論文では,当方も共著となっているSくんのカツラの”集団遺伝+樹冠下実生の親子解析”論文(Sato et al. 2006 Heredity)がしっかり引用されている.このように適当に(?)読んでいて,自分が著者になっている論文が引用されているケースは実は初めてだったのだが,やはりうれしいものである.ヤチダモ論文も,もう少し早く印刷になっていれば,きっと引用された(と思う)のだが,今後に期待するとしよう.

・全体として,労を惜しまずに”よくがんばった”と言いたくなるような論文である.よくよく考えると,結果自体はそれほど面白くないのだが,自分の知見の新しさと限界をよく認識しており,文章的にもそれを上手く表現していると思える.論文執筆の参考になりそうな論文でもある.ところで,この論文の中で引用されていた論文は知っているものが大半だったが,Hille Rils Lambers and Clark (2003) Can J For Resの論文は要チェック,のようだ.

録音テープ,おそるべし

2006-11-21 | 研究ノート
・来年の林学会や生態学会の登録や連絡など,バタバタと作業に追われる.今年は,生態学会ではシンポジウムで連続分布するトドマツの標高に対する適応反応について,森林学会では,多様性を配慮した森林管理のセッション(初参加)で,同じく標高別に設定した地がき試験地における樹木種の更新反応について,発表する予定となった.どちらも,過去の試験地を掘り起こす,「眠れる森の試験地」プロジェクトの一環(勝手に自分で言っているだけだが・・)である.考えてみると,どちらも遺伝マーカーとは無関係なところが何とも・・・.

・そういえば,先日の新春座談会で討論した内容をFさんがまとめてくれた原稿が届いていたのだった.締め切り間近ということで,自分の発言内容を慌ててチェックする.いやはや,録音テープというのは恐ろしいもので,不用意発言やら,挑発的発言やら,がしっかり掲載されている.このままではいくらなんでもまずいだろう,ということで,作為的にならないように気をつけながら,危険な発言を削除したり,説明不足な表現に必要部分を追加したり・・・.まさに,自業自得である.午前中にようやく修正作業は完了したが,これでも問題になりそうだ.しかし,もともと”不用意発言要員”として召集されたのであろうから,それも仕方なかろうと開きなおる.

・気分を変えて,倒木上トドマツの親子解析を進める.この研究では,葉緑体と核の両方のマーカーを使っているので,実生や稚樹の年齢にかかわらず親子解析ができるのが強みである.ついでに,小径木の親子判定もしてみると,大部分が候補木以外となっている.これには,二つの解釈が考えられる.一つは,実生から稚樹へとステージが進む段階で,近距離種子散布由来の実生に強い死亡率がかかり(逃避仮説的なもの),結果として5ha以外から散布されたものだけが残っているというもの.もう一つは,既に小径木の親は死亡し,世代が入れ替わっているというものだ.

・これらは二律背反ではないが,今のところ,2つ目の解釈の方がよりリーズナブルだと考えている(1つ目の解釈の妥当性は,小径木の遺伝構造を見れば想像がつきそうだ).Tさんによると,岩魚沢近辺では台風前は巨大なトドマツが多数あったが,1981年の台風でかなり消失したらしい.また,樹型から考えても,岩魚沢の成木個体群は割合と若いのではないか,とTさんは推測している.S氏とも,岩魚沢の森は,比較的最近(最近の定義が問題になるわけだが・・・)の攪乱後に成立したのではないか,という議論をしたことがある.

・ここで問題になるのは,トドマツの世代交代がどの程度で起こるか,ということである.こうした研究は遺伝関係の論文を調べてもなかなか出てこないが,個体群統計学の分野では,結構な蓄積があるようだ.北畠ら(2003,日林誌85:252-258)では,択伐施業によってトドマツ個体群の回転時間がどう変化するか,という文脈で回転時間に関する考察が行われている.ここでは,針広混交林の森林の回転時間として,125年(Kubota 2000)や222年(日浦ら1995)という推定値が引用されている.また,トドマツ優占群落では90-120年程度(浅井ら1986)であり,トドマツの寿命は150年~200年という報告(石川1993)もあるようだ.

・ここまで考えると,やはり小径木の年齢を知りたくなるな・・・.これも既存研究を調べれば,ある程度はサイズと年齢の関係に見当がつきそうだが,言うまでもなく,おかれた環境によって相当のばらつきがありそうだ.倒木上の稚樹では30cm程度になるのに既に15年を経過しているものも観察されていることを考えると,胸高直径10~15cm程度で50年生を超えるというのはざらにいそうだが,その先は想像の域を出ないな.しかし,うーむ,伐採木の円盤でも集めてみるか・・・.