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西東京市・北海道富良野の森林を舞台にした遺伝,育種,生態などに関する研究ノートの一部を紹介します

冬支度

2006-09-30 | その他あれこれ
・富良野では8月後半にもなると、ストーブとスタッドレスタイヤのCMが始まり、今年ももう終わりかといった風情である。夏が終わると秋が来るんだが(当たり前!?)、その寿命は極端に短い。今年の紅葉は今ひとつだが、なまこ山も随分色づいてきた。街角のナナカマドの実も真っ赤である。我が家でも、先日、ついに初ストーブを点けた。



・冬支度ということで、新しいフリースを購入したりする。そろそろスノーシューズも新しいのが欲しいところだ。この時期からしっかり雪が降り積もるまで(特に11月から12月末まで)の富良野は天気も今ひとつで、やや陰気な表情になってしまう。これから、どんどんと陽が短くなるので、驚くほど早く夜がやってきてしまうのだ。1月になってしまうと、寒いもののピーカンに晴れたりして、「何だかよく分からないが、ノープロブレムだ!」という感じになるんだけど・・・。ここ富良野に来て、一番好きな季節は春になったが、その次は冬だったりするのである。

遺伝解析→フィールド

2006-09-29 | フィールドから
・再び、カツラの現地調査。実生プロットをめぐりつつ、各プロットの状態、周りのカツラ成木を確認していく。せっかくプロットめぐりをするので、今回は水分計、土壌硬度計でプロットごとの状態を定量的に評価しようということに。硬度計はバラツキが多いが、水分計は思ったよりもうまく値が出ているようだ。湿地がちだったところでは最大で70%もの値を示し、マウンドのような乾いたところでは20~30%といったところである。

・さて今回は、既に遺伝解析で種子親が推定できた上で、フィールドに行くという流れである。いつも慌しく調査することが多いので、このような機会は意外と少ない。各プロットでよく貢献している雌株を確認すると、それなりに近い株がよく貢献しているようだ。今回面白かったのは、単に幹の中心の距離よりは、やはり樹冠の広がりの範囲が大きく影響していることである。また、他の針葉樹の位置なども影響を与えていそうである。何はともあれ、遺伝解析はうまく行っているようで、明らかに挙動がおかしいというような雌株は認められない。

・今回の調査で一番興味深かったのは、必ずしも超巨大な株が貢献しているとは限らないことである。もちろん、30cm程度の個体はたいして貢献していないのだが、何本もの萌芽幹が並んでいるような巨大株よりは、50~60cm程度の壮齢株の方がよく貢献している。実際、実をつけている量も、どうもそのような個体の方が多そうだ。

・こうして考えると、BAを種子生産量の指標にするのは難しそうだ。だからこそ、遺伝マーカーを用いる意義が大きいわけなんだが。それしても、個体差というのは簡単に扱うことはできず、ランダム効果にした方がすっきりしそう、ということがよく分かる。うーむ、やはりベイズか・・・。

Hardesty et al. (2006) Ecology Letters 批評

2006-09-28 | 研究ノート
・午前中に論文紹介ゼミ.Hardesty et al. (2006) Genetic evidence of frequent long-distance recruitment in a vertebrate-dispersed tree. Ecology Letters 9: 516-527をSさんに紹介してもらう.ゼミとは言っても2人しかいないので,分からなかったところはうんうん唸りながら2人で読み進める.そんなわけで,やっとこさ,考察を終わると2人ともへろへろに.

・さて,この論文である.最近気になっているこの雑誌では珍しくジーンフロー直球勝負だ.イントロでは,種子の長距離散布の重要性と追跡の歴史,動物散布の特徴,遺伝マーカーの有用性などが書いてあり,カツラ論文でもそのまま使えそうなフレーズがたくさんある.うーむ,イントロはえらい!

・調査地は,著名なバロ・コロラド島BCIの50haプロット.動物散布型の高木,Simarouba amaraの種子と花粉の散布について,マイクロサテライトマーカーを使って実生782個体の親子判定を行った,というもの.特に,長距離散布(といっても100m以上を彼らはそう定義している)がどれだけあるか,といった点に焦点を当てている.Table1に使ったマーカーの情報が載っているが,First parentでは0.772,Second parentでも0.936という低い排除確率である(Second parentについては,著者らはこれでも高いと言っているようだけど).

・まず,母親の解析を単純排除で行い,複数候補が残った場合(これがほとんどだけど・・・)は,最も距離の近い個体を母親としている.「おいおい,何をいたしておるんだ?」と当方ならずとも突っ込みたくなるところだ.しかし,これが彼らの巧みなところで,最も近い個体を親にしているので長距離散布の頻度を推定する上で,過大評価することがない(コンサバティブな手法だ)という解釈に持っていっている.いったん,こうして無理やり解析した上で,実はこの方法ではまずいと自己否定しつつ,だからこそ,種子は想像以上に飛んでおり,長距離散布が頻繁に起こっているのだというロジック.狐につままれたような展開だが,マーカーの精度の割にうまい具合にまとめているとも見える.

・父性解析は母樹が1つに絞り込まれた100個体を対象に行われた(実は,サンプル数がはっきりしないが・・・).ここで,父親と実生の距離を解析し,平均373mと遠距離であることを示している.さらに,半兄弟もしくは全兄弟の血縁関係にある実生個体間の距離を推定し,平均で100m以上離れていることを示している.しかし,結局33の実生しか父親を確定できておらず,たったこれだけのデータで結構なことを言っている.「決まらなかった実生たちの立場はどうなるんだ!?」と言いたいところで,大いに不満.これは,某Molecular Ecology誌ならばあっさりリジェクトになってしまうところでしょう.

・本論文の考察はかなり長い.まず,本研究で長距離散布の頻度が高かったことから,本種においてもJanzen-Connell仮説が支持されることや,現在の実生個体群の分布が種子の長距離散布と密度依存,距離依存的な死亡要因が複雑に組みさった結果であるなどと,Jordanoグループの種子散布研究の結果との比較をしながら行っている.また後半では,Jones et al. 2005 Am Nat,Aldrich and Hamrick 1998 Science, Sezen et al. 2005 Scienceなど著名なお馴染み論文の結果を抜粋した表を提示して,比較考察が行われている.全体的に,それほどたいしたことを述べていないのだが,結論をうまく引き出しており,言い回しなどは(おそらく)格調高いのであろう.

・しかし,全体的には,2006年にもなってこのレベルでEcology Lettersに掲載されたとは驚きである.全体的にMolecularの研究は少ない雑誌なので,方法論的なまずさに気がつかなかったのかもしれない.これなら当方の論文でも通るんではないかという気に一瞬なりますが,やはりそこは玉砕するんでしょうな.

・ところで,日本生態学会誌の最新号が届いた.和文誌には当方も共著になっている花粉散布研究における遺伝マーカーの役割に関する総説が掲載されている.この総説は,何度も空中分解しそうになりながら,足掛け3年でまとめあげたものである.ということなので(?),皆さん,この汗と涙の結晶をぜひ読んでください!


秋は足元から

2006-09-26 | フィールドから
・実習対応.東京から来た1-2年の学生たち35名ほどを迎え,大麓山山頂を目指す.と,800m付近でいきなりダケカンバの大木が道をふさいでいるというアクシデント.応援を待っていると,シマリスがぴょこぴょこ.初めて見たんだが,かわいらしい動き.こうして比較すると,エゾリスはずいぶん野性味溢れる動物だね.



・1100mから1時間ほどかけて,大麓山山頂へ.高山性のイチゴ,ツツジの仲間はすっかり紅葉し,足元は赤や黄色と鮮やかである.ここのところ,登山しようとするたびに雨とか雷とか,よく考えたらろくな天気がなかった.久しぶりに富良野岳,十勝岳,下ホロカメツトク山などを眺める(3年ぶり・・・?).



・その後,2箇所ほど下山途中に保存林を見学させる.天気がいいと山を歩いていても単純に気持ちがよく,細かい説明なんぞはどうでもいいような気持ちになる.個人的な趣味で,湿地帯に分布しているアカエゾマツの純林も無理やり見せる.足元のぬかるみに学生たちは少々苦戦していた.全体的に,今年の学生はやや大人しいようで・・・(夜になったら,分からんが・・・).

・ところで,昨日,UくんからForest Ecology and Managementに投稿していたウダイカンバ論文がついに受理されたとの嬉しい知らせがあった.ウダイカンバは,天然林ではギャップ更新依存で低密度に分布するが,山火事後のような大規模撹乱後には高密度林分が形成される.この論文では,成立過程の異なるウダイカンバ集団を対象に,成熟個体集団と埋土種子集団の遺伝的多様性や構造がどのように異なるかを調べた論文である.最初の調査から数えると足掛け○年,ようやくここまで来ましたか・・・.それにしても,“受理”って言葉,何度聞いてもいい響きである.

電車に揺られて

2006-09-25 | 研究ノート
・またもや札幌出張.ここのところ,1週間に1回のペースで札幌に来ているな.地下鉄を乗り継ぎ,西28丁目へ.昼食は駅付近のJamusicaという怪しげな店に引き寄せられる.夜はライブハウスになることもあるようで,ライブのちらしがあったり,店内にグランドピアノがあったり・・・.注文したドライカレーは量こそ少ないけれど,なかなか美味だ(ただし,コーヒーは薄い).ドライカレーを置いている店は少ないので,興味のある人は一度お試しあれ(・・・って,誰に勧めているのやら).

・さて,出張時の電車内は書きかけ原稿をチェックする格好の時間である.途中で電話が入ることもないので,シュシュッと進む.どうやら,品種の産地探し論文は自分で修正できるところはほぼ完了したようである.忘れていたアブストラクトも作成する.自分でいったん作成したものをプリントアウトし,それに赤を入れたのだが,見事なぐらい真っ赤になっており、我ながらちょっと怖い気もしたり,と.

・さらに時間があるので,今度は論文読解に取り組んでみる.Sさんが紹介してくれたBohrer et al. (2005) J Ecol を斜め読み.この論文では,アレッポマツを題材に,風による長距離種子散布(LDD)がメタ個体群の動態や遺伝組成などに及ぼす影響について,なにやら小難しいモデルを用いて評価しているようである.推移行列が出て来たところで完全に思考停止状態となり,この論文ではイントロとDiscussion だけを読めばいいのだ!,と勝手に決めつける.イントロには,LDDを調べることの重要性があれこれ書いてあり,種子散布論文を書くには便利そうなフレーズがちらほらと・・・・.一度,きっちり読んでみよう.

・ところで,風による種子散布モデルは古くからよく整備されていて,Mechanistic modelとPhenomenological modelというのが主流らしい.この研究分野はNathanたちのグループが世界を牽引している.この論文の中にも,同じアレッポマツを対象として,弱風時と強風時の散布パターンの違いを評価している論文が引用されている(Nathan and Ne'eman 2004 Plant Ecoloy),どうやら、長距離散布の頻度が弱風時と強風時ではオーダーが異なることを示しているらしく,カツラ論文でも重要な論文となりそうである.

・帰りの電車では,岩魚沢の風向と風速のデータの解析に取り組む(もちろん,カフェ・ダンマルクのパンは入手済みなのである・・・).まずは,6月初めから7月終わりごろまでの単位時間当たり(1時間ごとに測定)の平均風向と平均風速を作図してみる.レーダーチャートを作成すると,想像通り(?),圧倒的に南風の頻度が多い.沢沿いの森林では,沢に沿った恒常風というのが存在するかもしれぬ.これが,風をめぐる種子と花粉の散布にどう効いているか,ここからが解析の妙となる訳なのだが,どうしたものやら,これまた複雑そうだ.

こわい給食

2006-09-24 | その他あれこれ
・ところ変われば品変わる.もちろん給食も変わる.ふとした話の折に,富良野には「なっぴい」なる,給食メニューがあるという話に・・・.子供の話によると,”もなか”が挟んでいるものは”あんこ”ではなく”納豆”だ,という代物らしい.当方,納豆はけっして嫌いではないが,これはちょっとすごいね.怖い・・・,怖いけれども,一度試してみたいような・・・.ところで,この「なっぴい」なるもの,富良野人には常識らしく,昔食べたことがあるという大人もたくさんいると聞く.もしかして.うまい・・・のか・・・!?

スズメ,かしましく

2006-09-23 | その他あれこれ
・近くの公園に行く.ハウチワカエデが実をつけており,子供と一緒に滑り台の上から飛ばしてみる.素晴らしいバランスでよく回る.種子も赤く色づいており,とてもきれいである.このハウチワカエデは近くにあるだけに,何となく注目しているが,繁殖の仕方など何かと気になる木である.



・公園に植栽されているニオイヒバの付近が,ピーチクパーチクとかしましい.近くに寄ってみると,どうもスズメの集団がいるようだ.富良野にはスズメが昔はいたけれど,最近はめっきり少なくなったらしい(ベテラン職員のOさん談)が,いるところにはいるものである.ニオイヒバには黄金色の小さな球果(?)が鈴なりになっているが,別に食事をしているわけではないようだ.夕暮れ時の井戸端会議といったところか・・・.





スズメバチおそるべし

2006-09-22 | フィールドから
・Sさん,Tさんと久しぶりに岩魚沢でカツラの調査.まずは,風向風速ロガーのデータを回収.今年からこのロガーを設置したが,風のデータをいかにつかうかが,また一つの難所になりそうである.コーナーシステムのものを使っているのだが,かなり微風でも反応しており,これまでのところ故障もない.バッテリーもまだ半分くらいのこっているようで,とりあえず一安心.


・実生プロットをめぐり,環境条件や周囲のカツラの分布状況など確認.パソコン上では平面になっているのだが,実際には地形の起伏があったり,間に大きな針葉樹が邪魔していたり,と意外な発見があったりする.全体的には,納得の雌が母親として推定されており,解析結果はなかなか正しかったりするんじゃないか・・・という感覚だ.

・4つ目の実生プロットでの調査中,気がつくとなんとスズメバチが周りにわんわんといる・・・.なんと,すぐそばの倒木の下に巣があったらしい.あわてて逃げたが,Sさんが1匹に背中を刺されるというハプニング.すぐに休憩バスに戻って,毒吸引器で吸い出す.この吸引器はなかなか強力で,当職場でも結構役に立っているようで,野外調査をする人にとっては必需品といえるかもしれない.

・幸い,大事には至らなかったが,やはりスズメバチは怖い.フィールド調査をする皆さんもくれぐれも気をつけて・・・.

体育会系ソフトCERVUS

2006-09-20 | 研究ノート
・広島大4年生のSさんをゲストに迎えて,学生が所内にいるという久しぶりの健全な状態(?)になる.ここ富良野では,色んな樹木のジーンフロー研究を集中的に展開している岩魚沢という世界的に有名な(いやもとい,有名にしたいと当方が勝手に思っている・・・)研究サイトがあるのだが,Sさんはこの岩魚沢でカツラのジーンフロー研究を行ってくれている.主な調査やサンプリングを既に終了しており,今回の滞在期間中にはデータ解析,論文執筆準備,フィールド調査の残務処理がメインである.

・カツラの研究はSさんの先輩にあたる,これまたSさんが修士課程で行っていたものを引き継いだという格好になっている.マイクロサテライトの場合,人が違うと読み方が違ったりして,まずはその整合性をチェックするのに一苦労,ということが多い.今回も,エクセルのIF式などを駆使して,おかしな座やアレルをつぶしていく.一通り整理したところで,まずはCERVUSというシカの親子解析用に作成されたソフトを使って,実生や種子の親子解析に挑んでみる.

・このCERVUSというヤツ,非常に優れたソフトなんだが,途中の過程がブラックボックスになっていて(というよりも,常人には理解できずにブラックボックス化してしまっていて・・・),答えがでてくるのはいいのだが,「ほんまかいな!?」という不安がつきまとう.また,「IDがダブっているぞ」なぞと警告が発せられて解析が止まったりするのだが,ここであきらめずに全く同じINPUTファイルをいったん開いて上書き保存するだけで今度は進んだりする,という妙に体育会系なソフトなのである.

・あれこれと試した結果.ついに答えらしきものが出る.何度やっても,この瞬間は楽しく,二人して妙なテンションになってしまう.手にしたと思った答えが実は幻だったりすることが結構あるわけなんだが,とっかかりとしては上首尾であろう・・・.明日はいよいよ種子散布と花粉散布の実態に迫っていくか!ということで,本日はこれにて閉店.

ブログ生活,1ヶ月

2006-09-19 | 研究ノート
・申請書作成,研究会の下準備,展覧会の資料送付など,モタモタしている間に午前中は終わってしまう.その間をぬうように,焼松峠論文の考察パートを改訂する.結局,バックホウによる地はぎ(A層やAo層を残す)処理で,1)ササの回復前に実生定着ができたか?,2)埋土種子を利用できたか,3)地形の改変(斜面部と平坦部を作った)は効果があったか,という3点に絞って議論すると,だいぶスッキリしたようだが,全体的な仕上がり具合は通して眺めてみないと何ともいえんが・・・.

・地はぎ処理区の林縁と中央の環境と実生定着については,de Dios et al. (2005) For Ecol ManageとYoshida et al.(2005) Can J For Resを引用することに・・・.どちらも北海道大学の吉田さんたちの雨竜研究林における成果であるが,de Dios et al. (2005)では,林縁からの距離が離れるにつれて実生発生密度が低下すること,林縁と中央では光の強さが有意に異なり,それが実生定着に影響を与えていることを示している.Yoshida et al. (2005)では,地はぎ地における実生発生量と環境条件の関係を詳細に調べ,環境要因の中では光の強さが極めて重要で,トドマツ,カンバ類,キハダ,ヤナギ類などの多くの樹種の実生発生に負の効果をもたらすことを示している.

・これらの研究で興味深いのは,いわゆる先駆樹種の実生定着でも,単に明るければよいというものではない,ということだ.地はぎ地では環境が想像以上に厳しく,林縁の効果というのは今回の結果でも現れている.とにかく,方法と結果の記載がきちっとしているので,どちらも非常に引用しやすい論文である.初回の投稿時にこれらを見落としていたのは,やっぱり痛かったか・・・(いくら和文誌とはいえ・・・).

・ところで,本ブログを始めて,なんと1ヶ月が経過しました.3日坊主で終わるかと心配していましたが,どうにかこうにか続いています.拙い文章に付き合ってくださった皆様どうもありがとうございました.今後もこんな内容と雰囲気で,あまり気負わずにぼちぼち続けていきたいと思っています.関心を持っていただいた方に,お暇なときにでも,気楽に見ていただければ幸いです.