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西東京市・北海道富良野の森林を舞台にした遺伝,育種,生態などに関する研究ノートの一部を紹介します

新春座談会掲載

2007-01-31 | その他あれこれ
・林木の育種の最新号が届く。おっと載っていますね、新春座談会の記録が・・・。既に何人からの育種関係者からは面白い(!)などと感想を頂いたりしているのだが、改めて自分で眺めると、やっぱり「やっちまった」感がありますなあ。若気(?)の至りということでお許しください(って誰に謝っているんだか・・・)。

・当方が査読した原稿第二弾が送られてきた。第一弾は編集者から依頼があるのでともかくとして、第二弾は当然のことながら突然やってくる。厳しいコメントを書いたつもりだが、しっかりと反論され、なにやら怒られているような気になったりして・・・。英語力の問題もあるのかもしれんが、もう一度気を引き締めて読む必要があるねえ。

・勉強会では、GISの使い方についてのプレゼンテーション。ArcGISは非常に高い操作性を感じさせるソフトである。しかし、いつから本格導入するかについては、「急いては事を仕損じるのではないか」という意見もあり、議論が白熱。たしかに、ある程度習熟しないと細かい設定はできないし、習熟するための時間を作るのはそんなに簡単なことではないわけで・・・。以前、Nさんが言っていたように、導入には「気合」が必要なことは間違いないわけだが、それをいかに戦略的にできるかが問題ってわけですね。

Masterbayes始動?

2007-01-30 | 研究ノート
・イギリスのT氏から「Masterbayesとfull-probabilityモデル(Neighborhoodモデルなど)の長短について述べよ」という宿題をいただいた。そんな難しい問題は答えられそうにないのだが、せっかくなのでMasterbayesを紐解いてみるかと思い、北大のKさんのサイトの説明を見ながら、パッケージをダウンロードする。いわれるままにコマンドを打ち込むと61ページの解説が出てきたので、これを印刷してみる。

・MCMCの概念など、詳しいことが色々と書いてあるのだが、到底頭に入ってこないので、飛ばし飛ばし見ていく。2.3のCategorical estimationの項目になると、ようやく多少は理解ができそうだ。CERVUSとの対比で長短が書かれてあり、CERVUSではできなかった父母の同時推定、信頼度推定において全親候補の情報を使えること(CERVUSでは結局、第一位と第二位の尤度差から信頼度を推定している)などの違いが書かれている。また、遺伝データ単独で推定するCERVUSに比べて、距離やサイズなどの事前情報を加味して推定できるようだ。

・さらに、エラー率もCERVUSのように「えーい0.5%だ!」などと適当に決める必要がなく(普通はエラー率0でやるんだろうけど)、自動的に計算するオプションもあるらしい。ううむ、想像以上にこれは使えるような気がする。前回敗北した原著論文も再び手にとって眺めてみるとするか・・・。マニュアルはろくに読まず、書かれているコードを打ち込みながら、TINN-Rにコピーして保存していく。と、15ページの肝心のMCMC計算の途中で、突然、Rが止まってしまった。なんでじゃあ・・・!?

・広島のSさんの卒論がらみで久しぶりにRに長いこと触れる。今更ながら、ようやくデータフレームの取り扱いというか、必要な行だけにアクセスすることとか、グラフの書き方などが少しだけできるようになった。それにしても、この歩みののろさ、当世の学生からみたら信じられないスピードだろうな。

・さて、花粉散布を見ていく中で、ちょっとした発見があった。カツラでは沢沿いに3kmにも及ぶ長大なプロットを設定して、長距離の花粉散布を調べている。母樹は下流域から3個体、中流から10個体、下流から3個体としてそれぞれ24個ずつの種子を解析している。これまで、母樹のポジションはまとめて解析していたのだが、上流、中流、下流に分けて見ると、下流から上流になるにつれて、長距離散布の割合が明らかに多くなりそうである(サンプル数のばらつきが問題ではあるが・・・)。



・そういえば、開花調査をしていたときに、下流から咲き始めて、上流が咲くまでにはタイムラグがあり、おそらく3日から1週間程度差があったことに気がついた。ということは、下流の雌が開花しているときには下流の雄しか開花しておらず、中流では中流と下流、上流ではすべてが開花しているので、下流から上流という長距離の散布が起こりやすいのではないかと考えられる。

・残念ながら、開花時期のデータはないが、これは結構リーズナブルな解釈といえそうだ。風向のデータと絡めれば、面白い結果となるのではないだろうか?それにしても、ちゃんと結果が出ているもんだ。色々と解析すると見えてくるものもあるもんだねえ。

日本人と木の文化

2007-01-29 | 研究ノート
・氷河期以降の森林の様子について、もう少し調べてみようと思い、図書館でいくつか本を借りる。その中で、鈴木三男さん著の「日本人と木の文化」という本に出会う。鈴木さんは東北大学理学研究科附属植物園で古植物学、特に木材化石を同定・解析し、森林植生がどのように変化したのか、その森林から昔の人々が木材をどうように利用してきたか、ということを明らかにしようとされている研究者である(というような内容が本に書いてあった。残念ながら、ちゃんとお会いしたことがない・・・)。

・この植物園は、実は、当方の卒業研究のフィールドであり、懐かしいモミ林の話なども出てくる。この本は、おとなしいタイトルから想像されるよりも、古植物学研究の難しさ・楽しさが伝わってきてくるエキサイティングな本だった。植物化石というと花粉ぐらいしか知らなかったのだが、大型の木材化石から分かること、分からないこと、などが初めて理解できた。また、”埋没林”という言葉は初めて聞いたのだが、非常に興味深い知見が詰まっているフィールドであることに驚かされた。


・さて、東北地方(富沢遺跡)の埋没林では、かつてはトウヒ属が優占し、カラマツ属、モミ属からなる亜寒帯性の針葉樹林があったらしい。ここのトウヒはトミザワトウヒと名づけられ、アカエゾマツによく似た球果の形態を示すようだ。かつてアカエゾマツが東北地方にも広く存在していたことは松田ほか(1989)でも記載されていたが、最近では、DNA解析からもその証拠が得られているらしく、青森県の埋没林では2500年間前の化石が認められたらしい(Kobayashi et al. 2000).このあたりの文献は、原著に当たってみる必要がありそうだ。

・この本を読み進めるうちに、最終氷期から日本の気候や植生がどのように変遷したか、また、縄文人の暮らしとどのように絡んできたか、ということがようやく分かってきた。ちなみに、、20000年前には現在よりも8度くらい低く、1万年前くらいから温暖化し、1万年前には現在よりも5度くらい低く、7000年前には現在とほぼ同じ、6000年前には現在よりも2度ほど高かったという推定値もあるようだ(ただし、数値は著者も参考程度としている)。

・青森県の八甲田の花粉分析では、トウヒ、カラマツ、モミを主体とした亜寒帯性針葉樹林、カバノキなどの低温帯性広葉樹の混交林から、北方性要素が交替し、ナラ類が増え、その後、ブナに替わり現在まで続くという流れがあるようだ。西日本や北海道では変遷の様子が異なるようだが、大体、これまで考えてきたストーリとは矛盾しないことが分かってきた。

・この本の後半には、縄文文化と木材の利用についての話がある。中でも三内丸山遺跡などのクリに関する研究の紹介はとても興味深かった。石斧で実際に伐採してどのくらい大変かを調べたり、その後、萌芽再生が実際に起こるか、またクリを栽培した可能性など、いくつも面白い話があった(こういう話は大好きだ)。さらに、最後には木の化石を実際に調べる研究面の技術的な話もあって、とてもワクワクした。実に面白い研究領域である。

ビストロという響き

2007-01-28 | その他あれこれ
・再び、西御料地へ応援に行く。本日は大型バスに乗って、みんなと一緒である。かなり冷え込んでいるようで、50m程度で鼻が真っ赤になる。第一試合は強豪N小との対戦。後半には追い上げたのだが、前半の失点が響き、やはり惜敗。



・第二試合までの時間があったので、近くのビストロに食事に行く。ビストロ”スマップ”でお馴染みだけど、”ビストロ”ってなんだか憧れてしまう響きだよねえ(実は正確な意味を知らなかったりするんだけど・・・)。ボサノバの流れる店内でランチをいただく。



・ポテトサラダのマヨネーズが強すぎたのはご愛嬌として、リーズナブルな割りになかなか美味しい。何より、ゆったりとした時間をすごせて、すっかりリフレッシュ。自家製のプリンというメニューに、つい注文してしまう(こういう言葉に弱い)。これまた、なかなかである。

・第二試合はT小との対戦。前半、少々苦戦したものの、後半は調子が上がり、ようやく初勝利。おめでとさん!

焼きたてのクロワッサン

2007-01-27 | その他あれこれ
・早起きして子供のバスケの応援に行く。会場は旭川の西御料地。旭川医大の近くである。6年生は卒業しているので、今度の大会は5年生中心の新生チームである。第一試合はC小との対戦。善戦むなしく、惜敗。相手のロングシュートがいいタイミングに決まったのが痛かった。が、動きはなかなかよかったぞ。これからに期待しよう。



・ここまで来たら、やはりフランス菓子”シェ・イリエ”に行かなくてはなるまい。シュークリーム、ショートケーキ、タルトなどをチョイス。しかし、たぶんあまり知られていないが、ここのクロワッサンは絶品である。たまたま焼きたてが登場したので、早速購入して、帰りの車の中で頂く。やはり、間違いない!。一度お試しあれ。


Robledo-Arnuncio et al. (2005) J. Biogeography読解

2007-01-26 | 研究ノート
・引き続き、アカエゾマツ論文を書くために論文読解に取り組んでいる。一見、葉緑体SSRなのであまり参考にならないかと思っていたが、実はたたき台になりそうな論文を発見。

Robledo-Arnuncio et al. (2005) Genetic structure of montane isolates of Pinus sylvestris in a Mediterranean refugia area. J. Biogeography 32, 595-605.
目的:
・氷河期完新世の垂直方向の移動と間氷期の長期的な断片化が地域スケールのヨーロッパアカマツ集団の遺伝組成にどのような影響を与えたかを明らかにする。

調査対象:
・イベリア中部~北西部,スペインのメセタ(高原台地)北部と周辺の山脈に分布するヨーロッパアカマツ集団。この地域では,植物遺体の化石などによって,約6万km2のこれらの範囲が,氷河期における本種のレフュージアだったことが示されている。氷期にはメセタ高原の広い範囲に分布したが,その後の温暖化に伴い周辺の山岳地帯の高標高域に隔離分布すると同時に低地帯の限られた環境に遺存し,現在のような分断化した分布パターンになったと考えられる。

方法:
・13集団,322個体を葉緑体SSR6座で遺伝解析。遺伝子多様度,SMMモデルに基づく遺伝距離(D2sh)などを算出。AMOVAを用いて,遺伝変異を階層的に分割し,山地ごと(7グループ)に地理的に分化しているかを検討。PCOや系統樹も用いて集団間の関係を推定。そのほか,突然変異率,有効集団サイズなどについて,MCMCを用いてベイズ推定(プログラムMICSAT)。

主な結果:
・集団内の平均遺伝子多様度は0.978と,他のイベリア半島に分布する温帯性マツ類よりも高い。AMOVAにより,変異の大部分は集団内個体間(97%)だが,集団間でも有意な分化(θct=0.031)が認められた。一方,山地系ごとの解析では,山地間では有意な分化が認められず,山地内集団間で有意な分化が認められた。この結果から,この地域のヨーロッパアカマツは,現在異なる山地に隔離分布しているが,同じ盆地に面した異なる斜面間では遺伝的に類似しており,同じ山地でもむしろ異なる斜面では分化が進んでいることを示す(異なる盆地間と同様)。MCMC計算の結果,突然変異率は10-3,有効集団サイズは約1万個体,最近の祖先集団から4000世代以上が経過していることが推定できた。

結論:
・ヨーロッパアカマツで観察された遺伝的な構造は古生物学的な情報から推定される分布変遷の歴史(ヨーロッパアカマツは,かつて大きな集団としてメセタ全体に分布していたが,現在では山脈をつなぐように隔離分布しているようになった)と一致していた。全体として,間氷期の分断化にもかかわらず,中立マーカーで見る限り,ヨーロッパアカマツは高い集団内多型性と低い集団間分化を維持していたといえる。

寸評
・分布のパターンが今回のアカエゾマツと極めてよく似ている(しかも集団数やサンプリング個体数までも近い!)。完新世における温暖化によって,低地帯から山地帯まで連続分布していたものが山地帯に押し上げられると同時に,低地帯のごく限られた環境に隔離分布するようになったところなどはそっくりである。そのあたりの“くだり”の英語表現が秀逸で,お手本となる。

・今回の一連の分布変遷論文を通じて,ようやく専門用語に慣れてきた。まず,第四紀とは新生代の末期,180万年前から現在までを指し,その中で180万年前から1万年前までを更新世,1万年前から現在までを完新世というらしい。第四紀の間にも氷河期と間氷期が何10回も繰り返されたようである。7000年前くらいから温暖化したときの分布パターンの変遷が問題となるというわけだ。

・アカエゾマツの場合,ボトルネックと遺伝的バリアーにスポットを当てているのだが,こちらの場合は多様性が高く,分化度が低かったという結論になっている。当方の場合,ボトルネックが検出されていたり,標高によるARのクラインが認められていたり,遺伝的バリアーが検出されていることなどがもちろん違うわけだが,総じて集団間の遺伝的多様性が高く,分化度が低いという点では,同じ様な傾向とみることもできるわけで,ちょっと原点に立ち返ってみようという気になった。

・同じ盆地に面していれば距離は離れた異なる山系間で分化せず,同じ山地でも山陵によって分化が生じる(割合は低いけど),というのは当方の遺伝的バリアーの結果とも一致するのでうまく書けば引用できそうだ。Diversity and distributionとも体裁がほとんど一緒だし,いろんな面で参考になる論文である。

・デモグラフィックパラメータをベイズ推定し,事後確率を見せているあたりは今風といえそうであるが,この部分の理解はまだまだなので,もう少し勉強しないといかんな。

1万年前のできごと

2007-01-25 | 研究ノート
・アカエゾマツ論文の考察を進めるにあたり、やはり氷河期以降の分布変遷についてちゃんと考えないといけないな。ということで、もう一度、”五十嵐ほか(2005)北海道中央部・富良野盆地とその周辺山地における過去12000年間の植生変遷史.東京大学演習林報告114,115-132”をちゃんと読み返す。何度かざっと見ていたのだが、周辺知識が浅いせいか、どうにも頭に入ってこなかった論文である。

・この論文では、富良野市盆地と今回のアカエゾマツのサンプリング箇所の一つである前山の湿地帯の花粉分析から植生変遷を推定している。結果をノートに書き付けていくうちに、ようやく全貌がつかめてくる。

・8000年前までは、モミ、トウヒ、マツとカンバ、ナラ、クルミのような現在に近い針広混交林が低標高でも広がっていたようだ。ちなみに、もう少し前の11000年前では、標高650m程度の湿地ではグイマツもあったらしい。8000年から5000年前までは世界的に温暖化し、北海道全域でトウヒが減少し、ナラが拡大した。5000年前から4000年までは、さらに針葉樹が減少し、ハンノキが増加している。

・低標高域と山地の湿地帯での違いは、あまり明瞭には示されていないが、山地にはクルミが低地よりも遅れて侵入したとあり、トウヒの減少は時期的なずれがあったと見ることができそうだ。山地の湿地帯や高山帯では4000年前ごろから気候が冷涼になるにつれて、ナラが減少すると同時にトウヒやモミが増え、2000年前には高山帯ではトウヒは現在と同じくらいの集団サイズを拡大したとある。

・これらのデータを統合すると、標高が高いところでは温度が低かったために、アカエゾマツの急激な個体数減少は低地帯よりも時期が遅かったと考えてもよさそうだ。また、主な分布域は垂直方向で移動したと思われるが、グラフをよく見ると、低地や山地の湿地帯でトウヒが減少したときにも全く花粉がなくなってしまったわけではないようだ。

・今回の遺伝解析のデータでは、集団サイズの大きな山頂付近で有意なボトルネックが検出され、低地帯では2集団しか検出されていない。ボトルネックテストでは、比較的最近のものしか検出されない(Bacles et al. 2004 Mol Ecol)。こう考えると、低地帯では古すぎるためにボトルネックが検出されず、比較的新しい高山帯のボトルネックが検出されたということも考えられそうだ。このアイデアは、実は筑波のTくんが最初に言っていたことなんだが、高山帯に避難地があって低山帯に分布が拡大したと思い込んでいたので、どうも説明がしっくりこなかったというわけだ。

・ようやく、自分の中ではストーリーが固まったような気がするのだが、後はこれをどう英語で表現するかが問題だな。そして、花粉分析の他の論文をもう少し読む必要がありそうだ。

テーマソング

2007-01-24 | その他あれこれ
・スキマスイッチの夕風ブレンドはなかなかいい。アマゾンで購入し、今日から通勤途中で聴いているのだが、はずれの曲がなくて全体的にいい感じだ。なかでもボクノートはお気に入りである。本ブログのタイトルとも合っている気がして、なんとなくテーマソングのような気持ちでいる。

・アカエゾマツ論文はついに考察の英語化を始めている。Ar、He、ボトルネックを集団サイズと分布変遷を絡めた議論で方向づけしようと悪戦苦闘しているのだが、Tさんを相手に説明しているうちに、自分でもよく分かっていないことに気がつく。集団遺伝については理論も含めてまだまだ弱いところが多い。ということで、筑波のTくんから紹介してもらったものを中心に、bottleneckやgenetic barrierなどでさらに検索して、関連しそうな論文をまずは集めていく。

・最近の論文は10ページを超えるのはざらで、中には15ページなんてのもあったりする。ファイルサイズも1MBとか超えているのもあり、ダウンロードする手が一瞬止まる。こいつらを読むのかと思うと、ちょっと気が遠くなりますなあ。しかも、結局、引用しなかったりするんだよね。しかし、論文の山に埋もれながら、うんうんと論理構成と表現をひねり出すこの作業中は、つらいけれども必要かつ重要なプロセスであり、考えようによっては創造的で楽しい(?)作業ともいえる。

O'Connel et al. 2006 Can J Bot 読解

2007-01-23 | 研究ノート
・川渡のTくんのレビューに再び便乗させてもらって,関連論文のレビューをしてみる。彼らのグループはまったく同じシロトウヒの集団と材料を使って,遺伝マーカーを使わない生態学的な調査の結果をCan J Bot に掲載している。

O'Connel et al. 2006. Impacts of forest fragmentation on the reproductive success of white spruce (Picea glauca). Can J Bot 84: 956-965.

<イントロ>
・森林景観は山火事,昆虫被害,災害などの天然攪乱と農業,宅地化,伐採などの人為攪乱によって分断化されてきた。分断化が生態系に及ぼす影響評価は現在の中心的なトピックである。実際,Fahrig (2003) は,“生息地の分断化”という用語を使った1600以上の科学論文を見出している。植物集団では,生息地分断化は繁殖成功を低下させ,自殖や近親交配を通じて近交弱勢が増える可能性がある。
 
・熱帯林ではもともと個体密度が低い上に虫媒種が多いということで,分断化が樹木種の繁殖成功に与える影響が評価されている。一方,温帯では連続林が多く,風媒種が多いことから分断化の影響は小さいことが期待されるが(Knight et al. 2005),その実態はよく分かっていない(Koenig and Ashley 2003, Davis et al. 2004)。

・本研究では,種子充実率,種子の生存性,実生と稚樹の高さ成長などのデータを用いて,分断化がシロトウヒの繁殖成功に及ぼす影響を評価した。特に,種子の量と質,実生成長と生存率が集団サイズに関係するかどうかを調べた。また,もともと大きい連続する集団を特徴とするシロトウヒの最低集団サイズを推定することを目的とした。

<材料と方法>
・材料はHeredity論文とまったく同じカナダ,オンタリオ,Nipissing湖周辺のシロトウヒの23集団,104個体。母樹については,樹高とDBHなどの個体のサイズ,年齢が測定されており,Heredity論文にはなかったこれらの情報がTable1に掲載されている。

・1994年夏に各個体の4方向から球果を採取した混合種子を用いた。23集団は,11の小集団(1-10個体/集団),6の中集団(10-100個体/集団),6の大集団(>100個体/集団)に分類。サンプルサイズのバランスをとるために,小集団では各集団1-8個体(平均3個体),中集団と大集団では集団につき6個体から種子採取を行った。

・繁殖成功のパラメータとしての測定項目は,1)球果あたり総種子数,2)球果あたり充実種子数,3)球果あたりシイナ種子数,4)球果ごとのシイナ率,5)充実種子の1000粒重,6)種子を除いた球果の乾燥重量,7)繁殖効率(reproductive efficiency):球果ごとの充実種子の総重量/球果重量の7つ。

・1995年1月に,実験計画法に基づく4反復のRandomized complete block designで100家系,各32粒(合計12800粒)を播種。39日後と120日後に種子発芽率,生存率を測定。120日後,4年後,10年後の樹高を測定。繁殖パラメータ間の相関、繁殖パラメータと母樹の形質の相関を検討。各測定項目が反復間,集団サイズクラス間,集団間で異なるかどうかについてnested ANOVA分析。

・最大の繁殖成功を維持するための最低限の集団サイズの基準を特定するために,各集団の球果あたりの充実種子数の平均値を従属変数,集団サイズを独立変数とする回帰分析(nonlinear split-line regression analysis)を行っている。式は,

 y = b0 + b1*N + b2*(N-T)*(N≧T)

 yは従属変数,b0:y切片,b1とb2は下限と上限の基準値に対する(?)slope,N:集団サイズ,T:集団サイズの基準値。実は,この部分がよく分からないのだが,要するに大集団並みの繁殖成功(充実種子数)を得るのに必要な最低集団サイズを特定するための解析となっているようである。

<主な結果>
繁殖パラメータ間の相関
・球果あたりの充実種子数,球果あたりのシイナ種子数,シイナ率,種子重,球果重,繁殖効率のそれぞれのパラメータ間の相関を調べた結果,多くのパラメータ間で相関があった。たとえば,球果あたりの充実種子数は球果重と繁殖効率と有意な正の相関があり,シイナ種子の割合と有意な負の相関があった(そりゃそうだ!)。また,繁殖パラメータは母樹の高さ,DBH,近接5個体の平均距離などとは無関係。

繁殖成功と集団サイズ
・繁殖パラメータは集団サイズクラス間で有意な違いがあった。球果あたりの総種子数は集団サイズが大きいほど多くなり,小集団のそれは中集団や大集団よりも有意に少なかった。また,大集団の球果あたりの充実種子数は,中集団や小集団よりも有意に多かった。種子重と球果重は集団サイズクラス間で有意差がなかったが,繁殖効率は大集団で中集団や小集団よりも有意に高かった。

最低集団サイズ
・23集団の集団サイズと球果あたりの平均充実種子数の関係について,回帰分析を行った結果,有意な関係が得られた。非直線回帰による基準値として(最低集団サイズ,T=180)の値を得た。

実生の生存と高さ成長
・発芽率と生存率はいずれも平均90%以上と高く,集団サイズクラス間で有意差はなく,集団間のみで有意差が認められた。
・実生の高さについてはどのステージでも集団サイズクラス間や集団間での有意差はなく,家系間で有意差が認められた。

<考察>
・風媒種は生息地分断化に対して感受性が高くないという予想を裏切り,集団の分断化の強い影響を検出した。球果あたりの総種子数と充実種子数は集団サイズと有意な関係があり,小集団と中集団の球果あたりの充実種子数は大集団のそれよりも38%と30%それぞれ減少した。本研究では,花粉不足がシロトウヒの孤立小集団の繁殖成功の制限要因になっていることが示唆された。

・小集団と中集団では大集団に比べて,シイナ種子の割合がそれぞれ14%と22%増加した。この結果は,小集団や中集団では自家花粉や近親の花粉をより多く受け取っていることを示唆する。

・小集団でのシイナ率の増大は種子の発達における高い近交弱勢を示すが,発芽率,実生の生存,樹高成長は集団サイズクラス間で有意な違いがなかった。これは,自殖や近親交配によって生じた種子が胚発達の初期のステージで取り除かれることによる。遺伝マーカーを単独で用いた場合,交配した時点での近親交配の程度は過小評価されることになる(Mosseler et al. 2000; Rajora et al. 2002)。

・今回の研究では,大集団(500個体以上)と同等の繁殖成功を保つために必要な集団サイズとして180という値が得られた。回帰分析の結果から,10個体から100個体に増えると球果あたりの充実種子数が36%増加するが,10個体から180個体に増えると68%も増加すると推定される。このような基準値は保全上も有効。

<寸評>
・アカエゾマツと同じPiceaで,しかもランドスケープレベルの仕事ということで,引用できそうな論文。おそらく,考察のImplications for conservationのパラグラフで引用できるであろう。Tくんが紹介してくれたHeredity論文と比較しながら読むと,結果がよく見えてくる。他殖性の強い樹種が優占する温帯林や北方林における森林の孤立分断化の評価では,生態学的なアプローチと遺伝学的なアプローチの両方が必要ということを明瞭に示しているといえるだろう。

・得られた結果自体は,納得できるというか,おそらくそういうことになっているだろうと思いつつ,これだけ集団サイズの異なる材料をきちんとセッティングしているところが評価できる。ただし,結果の見せ方として,順位相関やANOVAの表ばかりが多くて,肝心の生データをイメージできるような図表が少ないのが個人的には不満(唯一,Fig2がイメージできるけど)。保全的には,個体群サイズの180という基準値を出したところが新しいが,解析はこれであってるんだろうか,統計解析は古典的でデザインはしっかりしている感じだけど,特にこの回帰分析は正しいのかどうか,疑問が残る。

和文と英文

2007-01-22 | 研究ノート
・職場復帰。今頃になって、D論のテーマであるマツ材線虫病に対して抵抗性の高いクロマツの採種園における交配実態に関する論文別刷が欲しいというリクエストがあり、関連論文を見繕って送付。こういうリクエストはやっぱりうれしいものである。さらに、茨城県の博物館からは、当方も資料を提供した”タネ展”の写真集が届く。微々たる力であるが、社会貢献をしているような気になり、これまた楽しい。

・10時半ごろから、ようやくアカエゾマツ論文に着手。打ち合わせた熱気を忘れぬうちに、頭から英語にしていく。最近は、いったん和文で論文体裁までしてから英語化することが多い。当方の場合、たいてい共著者が離れたところにいるので、いきなり英語でやりとりすると方向性が定まらなくなってしまうことがあるから、というのが当初の理由である。

・実際問題として、いったん和文で論文体裁を整えるのは無駄のように思えるときもある。英語化する中で、和文で書いていた文章が消滅してしまうことも多いわけですが、こうして文章を書いたり消したりする過程は当方にとってはそれなりに大事で、こうした作業を通じて少しずつ考えがまとまっていくものである。

・”これ論”では、最初から英語で論文を書くことが推奨されている。この考えには基本的に賛成である。ただし、これまでの当方の経験から言って、最初から英語だけで考えていると、いつの間にか自由な発想ができなくなっているという”落とし穴”にはまる学生は案外と多い。ってなわけで、詰まったときには一度何を言いたいのか、和文でまとめてみるのもいいものです。

・どうにか、イントロだけは英語になったところで、力尽きた。結局、和文バージョンの1パラグラフは消滅し、4パラグラフの短めの構成に変わる。しかし、これはなかなか、幸先がいいスタートかもしれぬ。なにしろ、投稿予定先のDiversity and distributionは5000文字までという結構厳しい字数制限があるからで・・・。最初は5000文字というと、「そんなに書けないよ」と思っているんだけど、いざ書き始めて、あれこれと欲張っていくうちに8000文字でさえも厳しくなっていったりすることもあったりして・・・。「コンパクトな論文を書く」というのが、今回のマイテーマなのである。

・ところで、富良野にはついに新しいカフェができたらしい。天然酵母のパンも販売しているらしく、これは楽しみである。早速、試してみなくては・・・。