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アレック・ボールドウィンは正しかった?
昨年12月、俳優のアレック・ボールドウィンは飛行機の離陸時に携帯電話のゲームを続けようとしてアメリカン航空の従業員ともみ合いになり、降ろされてしまった。航空機の安全規則に盾突くのはほめられたことではないが、電子機器の危険を軽んじたことは正しかったかもしれない。
米連邦航空局(FAA)は先月31日、離着陸時に電子機器のスイッチを切るというルールについてパブリック・コメントを募集し始めた。この規制が導入されたのは1991年。パイロットや乗務員から電子機器が航空機のナビゲーション機器に干渉したとかコックピットと地上の交信を妨げたといった報告がいくつかあったことが導入のきっかけになった。
しかし、その後、米航空機大手ボーイングはこうした現象を再現することができず、連邦航空局は電子機器の電波が航空機の運航に影響する「かもしれない」としか言うことができないでいる。
この問題を実例に基づいて検証するため、われわれは、昨年航空機を利用した米国人成人492人にアンケートを採った。その結果、40%が直近の離着陸時に電子機器のスイッチを完全には切らなかったと回答し、7%以上はWi-Fi電波のスイッチも切っていなかったと答えた。また2%はアレック・ボールドウィン同様、使ってはいけないはずの時間に電話を使っていた。
こうした数字は何を意味するのだろうか。ざっくりと計算してみると、平均的な国内便で78人全員が完全に電話のスイッチを切っていた可能性はほぼゼロだったということだ。もしほんとうに電子機器が航空機の計器や通信機器に影響するなら米国内では毎日のように問題が起きているはずだ。
なぜ明確な根拠なしに規制が長く存続してきたのか。それは人間には原因追及に熱心すぎるという悪しき傾向があるからだ。2つの出来事が相次いで起き、1つがもう1つの原因となった可能性があると、われわれは実際にそうだったと思い込みやすい。
また、人間は電子機器が使われていないときに障害が起きたかどうかは考えない。さらに、障害が起きなかったときに、電子機器が使われていたかどうかも考えない。
恐怖の力は強い。そして危険を予防しようとすることは自然だ。当局は規制緩和を嫌がる。安全を重視する以上、それは正当だろう。携帯電話が原因で航空機がクラッシュするなどという恐ろしい事態を思い浮かべてみて欲しい。だからFAAは、こうした不便を予防の名目の下に強制してきたのだ。
いったん規制が導入されると、電子機器が原因となった事故が起きないことが規制の存在を正当化する。これは、街の中で大掛かりな「クマ・パトロー ル」を組織し、クマが出なかったことに意気揚々だったアニメの「ザ・シンプソンズ」の父親ホーマー・シンプソンの論理とほとんど変わらない。
ルールに違反すべきだというつもりはない。しかし、こうした規制は、恐怖ではなく根拠に基づいて導入されるべきだ。そして、ほとんどのフライトで スイッチが入ったままの電子機器があるとみられるにもかかわらず飛行機が墜落していないことが、規制に根拠のないことを示している。
(ダニエル・シモンズ氏はイリノイ大学の心理学教授、クリストファー・F・チャブリス氏はユニオン・カレッジの心理学教授。両氏は「The Invisible Gorilla, and Other Ways Our Intuitions Deceive Us」を共同で執筆した)
アレック・ボールドウィンは正しかった?
昨年12月、俳優のアレック・ボールドウィンは飛行機の離陸時に携帯電話のゲームを続けようとしてアメリカン航空の従業員ともみ合いになり、降ろされてしまった。航空機の安全規則に盾突くのはほめられたことではないが、電子機器の危険を軽んじたことは正しかったかもしれない。
米連邦航空局(FAA)は先月31日、離着陸時に電子機器のスイッチを切るというルールについてパブリック・コメントを募集し始めた。この規制が導入されたのは1991年。パイロットや乗務員から電子機器が航空機のナビゲーション機器に干渉したとかコックピットと地上の交信を妨げたといった報告がいくつかあったことが導入のきっかけになった。
しかし、その後、米航空機大手ボーイングはこうした現象を再現することができず、連邦航空局は電子機器の電波が航空機の運航に影響する「かもしれない」としか言うことができないでいる。
この問題を実例に基づいて検証するため、われわれは、昨年航空機を利用した米国人成人492人にアンケートを採った。その結果、40%が直近の離着陸時に電子機器のスイッチを完全には切らなかったと回答し、7%以上はWi-Fi電波のスイッチも切っていなかったと答えた。また2%はアレック・ボールドウィン同様、使ってはいけないはずの時間に電話を使っていた。
こうした数字は何を意味するのだろうか。ざっくりと計算してみると、平均的な国内便で78人全員が完全に電話のスイッチを切っていた可能性はほぼゼロだったということだ。もしほんとうに電子機器が航空機の計器や通信機器に影響するなら米国内では毎日のように問題が起きているはずだ。
なぜ明確な根拠なしに規制が長く存続してきたのか。それは人間には原因追及に熱心すぎるという悪しき傾向があるからだ。2つの出来事が相次いで起き、1つがもう1つの原因となった可能性があると、われわれは実際にそうだったと思い込みやすい。
また、人間は電子機器が使われていないときに障害が起きたかどうかは考えない。さらに、障害が起きなかったときに、電子機器が使われていたかどうかも考えない。
恐怖の力は強い。そして危険を予防しようとすることは自然だ。当局は規制緩和を嫌がる。安全を重視する以上、それは正当だろう。携帯電話が原因で航空機がクラッシュするなどという恐ろしい事態を思い浮かべてみて欲しい。だからFAAは、こうした不便を予防の名目の下に強制してきたのだ。
いったん規制が導入されると、電子機器が原因となった事故が起きないことが規制の存在を正当化する。これは、街の中で大掛かりな「クマ・パトロー ル」を組織し、クマが出なかったことに意気揚々だったアニメの「ザ・シンプソンズ」の父親ホーマー・シンプソンの論理とほとんど変わらない。
ルールに違反すべきだというつもりはない。しかし、こうした規制は、恐怖ではなく根拠に基づいて導入されるべきだ。そして、ほとんどのフライトで スイッチが入ったままの電子機器があるとみられるにもかかわらず飛行機が墜落していないことが、規制に根拠のないことを示している。
(ダニエル・シモンズ氏はイリノイ大学の心理学教授、クリストファー・F・チャブリス氏はユニオン・カレッジの心理学教授。両氏は「The Invisible Gorilla, and Other Ways Our Intuitions Deceive Us」を共同で執筆した)
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