GOODLUCK'S WORLD

<共感>を大切に、一人の男のスタンスをニュース・映画・本・音楽を通して綴っていきたい

「風のガーデン」(第8話)

2008年11月28日 | Weblog
「残された人生があと数ヶ月と宣言された人が
 その期間に何をするべきなのか?」

 これが「風のガーデン」の主題です。

その問いは、人生を80年としてみれば、
健常者が残された人生をどう臨むべきなのか?  
と同じ問いとも思える。

状況は全く違いますが、俯瞰的?に見れば期間だけの違いだからです。
50歳の人には30年、65歳の方には15年あるのです。
ただ、貞美には3ヶ月ほどしかないのですが……。

貞美は若い頃からの女好き。
不倫で妻を泣かせ、障害のある我が子を放棄し、
ついに妻を自殺にまで追いやってしまう。

そんな過去を悔いて、大天使ガブリエルの名を借りて
知能の発育が止まった息子岳の前で懺悔する。

「つまり… この世で生きている間にいいことをしたか、悪いことをしたか、
 お父さんは悪いことをいっぱいしてたんで……審査会で大分引っかかっているようです」
「父をよろしくお願いします!」

父は死んだと聞かされている岳は、
一度も見ない父の過ちを許してあげてと大天使ガブリエルに祈るようにお願いします。

その言葉を間近に聞く父。
その想いを思うと同じ息子を持つ父親として胸を締め付けられる。

娘ルイもまた、憎みきれない父への想いを隠しきれない。
岳には父ではなく大天使として接することを同意する。

素晴らしい大人の女性に成長したルイや純粋なままの岳に対面し、
貞美は本当に帰ってきて良かったと思ったことでしょう。

職を辞して二人のそばにいることを決心したのもそのためでした。

残されたわずかな期間で、人生の過ちを精算できるのでしょうか?
そんなことは決して誰もできないと知っている。

過去に戻ることも、逝ってしまった人に謝ることも、
子育てを放棄したことを後悔しても
今更取り戻せないことを……。

しかし、せめて、せめて残された時間を、
そのつぐないのために使いたい。
たとえ、それが周囲にわがままと云われても…。

貞美は子供たちとも、妻とも、父とも、地元の友人たちとも
今まで<いい別れ>などしたことがなかったのだ。

今自分自身が、人生と別れを告げなくてはならないと意識したときから
周囲の人たちの想いが直接肌を通して沁みてくるようになってきた


こんな受動的な想いは、かつて経験したことがなかった。

「これが共に生きることかもしれない」

「これが生きていくということだったんだ」

若い頃から感情のままに次々と女に手をだし、
使い捨てのように置き去りにしてきた。
妻や我が子さえ同じように……。

そして、職場という象牙の塔に逃げ込み、
医師として患者を助けることで 現実社会から逃避してきたのだ。

貞美は、ただのわがままな子供と同じだったのだと初めて気づいた。

純粋なままの息子岳や大人の女性になった娘ルイと接して
父としての不甲斐なさよりも
己の人間としての未熟さを痛感した貞美。

残された人生だけでも
もう一度生き直したい。

欲望や感情に押し流されてきた今までの人生から抜け出し、
人間として、父として、友人として
もっと誠実に接していきたいと貞美は考えたに違いない。



「残された人生があと数ヶ月と宣言された人が
 その期間に何をするべきなのか?」

貞美のこれからの行動は、
もしかして、私たち健常者たちに何かを示してくれるのではあるまいか?

貞美と私たちとは、残された期間の大小の違いしかないのだから。

大小の違いだけしかないのだから……。