GOODLUCK'S WORLD

<共感>を大切に、一人の男のスタンスをニュース・映画・本・音楽を通して綴っていきたい

「バッテリー」

2007年11月13日 | Weblog
 児童文学出身の人気作家あさのあつこの代表作である同名ベストセラーを映画化。 リトルリーグで剛速球投手だった主人公が、病弱の弟をかまう家族と共に田舎の中学校に 入学した1年間を、家族との葛藤・一緒にバッテリーを組む同級生との友情を通して成長していく姿を描きます。カーブやフォークなしのまさに直球一本で物語は展開します。主演はオーディションで見出された新人、林遣都。監督は大好きな映画「壬生義士伝」の滝田洋二郎。

映画を見ていて、伊集院静氏と長嶋茂雄元監督との話を思い出しました。

伊集院氏が長嶋茂雄さんに尋ねます。
「いま子供たちにスポーツを勧めるとしたら何がいいでしょうか」
「もちろん野球です」
「では野球をどうやって教えていきますか」
「それはキャッチボールです。キャッチボールの前に、まずボールを持たせてみるといい。手の中にあるボールの感触がいかにいいかというのは子供にはすぐにわかる」
キャッチボールの基本は相手の胸に投げることで、それは捕りやすいボールを投げるということです。キャッチボールは連続性が大切です。捕って終わるのではなくて、捕ってから相手に投げ返してまた受けるわけです。それからキャッチボールの非常に奇妙で面白いところは、暴投をしたほうがボールを拾いに行くのではなくて、受け手側が「いいよ、いいよ」と言って捕りに行くところです。そうしますと「ごめんナ」と言いながら、「この次はいいボールを投げてあげなくちゃ」と考えるようになる。長嶋さんはそれが「会話」だと言います。

           …………                       

 今、多くの子供達は会話をうまくできないでいるような気がしてなりません。自分の思いをうまく伝えられないのです。これは決して子供に限ったことではありません。この映画にも自分の思いをうまく伝えられない人々が登場します。きっと野球を通して会話を学んで欲しいと長嶋さんはおしゃっているのでしょう。


 この映画は原作者の<あさのあつこ>さんの故郷、岡山県の美作で撮られたそうですが、山々の緑・美しい川・木々に囲まれた神社の境内など都会では見られない豊かな自然を背景に物語は進んでいきます。田舎から都会に出ていった人の多くは「帰られるものなら、いずれは帰りたい」と思っているに違いありません。それは、幼い頃、地元の自然の中で仲間達と過ごした瞬間を記憶しているからでしょう。仲間と自然が一体になって思い出が輝いているからに違いありません。

 笑顔の少ない天才投手といつも満面の笑みで彼の速球を必死に捕ろうとしているキャッチャーが、野球と通して会話を積み重ねていく。周囲の人達とも野球を通してお互いの心根に触れていく。「バッテリー」はそんな映画です。

<グッドラック感動のお奨め映画度」:82点

(誰も死なないストーリーで2点プラス)


*映画を見ながら、伊集院静氏の直木賞小説『受け月』も同時に思い出しました。野球をモチーフに人々の心の葛藤と成長を描く、輝くような短編集です。機会があれば、読んでみて下さい。