「高知ファンクラブ」 の連載記事集1

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鈴木朝夫のぷらっとウオーク・・・無重力下で脳ミソは何を考えるだろうか①

2012-01-20 | 鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」

無重力下で脳ミソは何を考えるだろうか①

                                      情報プラットフォーム、No.290、11月号、2011、掲載




 四半世紀前に考えたこと(BOUNDARY、8月号(1987)、p64~p66.、コンパス社に
掲載)を3回に分けてを再禄する。今も色褪せ ていない様々な提案を楽しんで頂
きたい。
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 居間のソファーに座って、珈琲を飲みながら、テレビを見る。テレビの上には
フランス人形が、テレビは台の上に、テレビ台は床に置いてある。床 の上の
テーブルの上には珈琲の下皿やスプーンや夕刊が置いてある。本箱の桟の上に
乗った棚には本が置いてある。本箱のガラス戸は引き戸になってい る。壁には
ゴッホの絵のコピーやカレンダーが掛けてある。部屋の天井には照明器具が吊っ
てある。もちろん手に持ったカップの中には液体の珈琲が 入っている。


 このような情景は無重力下で実現することは不可能である。置く、掛ける、吊
る、乗る等の物の存在状態を示すために日常よく使う動詞は無重力下 では意味
をなくしてしまう。宇宙船の中はヨットのキャビンの中と似ている。すべてのも
のを置くのではなく、固定しなければならない。

置物・掛軸は ない。朝起きて歯を磨くとき、歯磨きのチューブとその蓋はそのあたりに仮に置く。定期券、財布、手帳、ハンカチ、鍵など出勤まえにテーブルの上に 置いて忘れ物の点検をする。日常、当り前にやっていることが宇宙船のなかでは大問題となる。搭乗科学者が試料をカプセルから取り出し、装置に挿入 するような実験操作はそれとして、空になったカプセルを、そこら辺に置くというわけにはいかない。


 子供の頃、鉢の中の金魚を眺めながら、金魚に生まれなくて良かったと思っ
た。なぜならば自分の、また他人(他魚)のうんちの中を泳ぎ回ること になるか
らである。母にそう話したら「人間だって似たようなものよ。オナラはそれと同
じでしょ。それは平気なの。」と言われて返答に困ったことを 覚えている。

 宇宙飛行士の浮遊訓練のシミュレーションとして水中動作が利用されているよ
うに、無重力下では金魚と同じ状況になる。宇宙船内では実際にこの ようなひ
どい事にならないために、トイレやシャワーにさまざまな工夫がなされている。
カップの珈琲を宇宙船で飲むことはできない。固形物以外のす べての食料は
チューブ入りでなければならない。


 縄張りとは面の上に引かれた境界線に囲まれた範囲であり、平面的なイメージ
が強い。土地所有者には採掘権や地上権がその土地に付随して原則的 に認めら
れるが、地球の中心まで、宇宙の彼方までの権利はない。

牛や羊の放牧場は柵があるだけである。柵は動物が跳び越すことができない程度の高 さでよい。無重力下での囲い込みは線(2次元境界)ではなく、面(3次元境界)で行う必要がある。跳ぶ、飛ぶ、揚がる、乗り越える等のような、面 を離れた移動を記述する動詞はその本来の意味を失ってしまう。


 タイムトンネルが可能か否かはさておき、われわれは時間軸の行き来はできな
いが、ともかくも4次元の時空間に住んでいると信じている。本当に そうだろう
か。

結晶構造を立体感を持たせて紙の上に書くことは何とか出来るが、転位のま
わりの原子配列を画いて転位を理解しようとしても、労多く して役に立つとは
思えない。3元状態図(平面上に3つの組成を示す三角形、縦軸に温度を示す立体
表現の図)の講義ではもっぱら立体感を養ってもら うために時間が使われる。立
体感を持つことは大変むつかしい。(つづく)


ご感想、ご意見、耳寄りな情報をお聞かせ下さい。
 

鈴木朝夫(すずき ともお)
〒718-0054 
高知県香美市土佐山田町植718
0887-52-5154、携帯 090-3461-6571  
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鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」

鈴木朝夫の講演・出版の記録


鈴木朝夫のぷらっとウオーク・・・無重力下で脳ミソは何を考えるだろうか②

2012-01-20 | 鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」

無重力下で脳ミソは何を考えるだろうか②
                                   情報プラットフォーム、No.291、12月号、2011、掲載




 立体の構造物を平面の上に記述するのが製図であるが、図面を見てその実物を
理解するには訓練が必要である。複雑に立体交差したインターチェンジでは方向
感覚を失うことが多い。

地図上では目的地は右でも、分岐点では左に行かなければならないこともある。残念ながら脳ミソの方は重力の影響を受けて2 次元的な状態にあるようである。

 
 宇宙船内では上下の概念は存在しないが、それでも上下の方向は仮にこうして置くとはっきり分かるような造作や景色になっていないと安心感が得ら れないという。

観念的な天井と床は作っておく必要がある。室内に空気の流れを作り、方向の基準とすることも必要かも知れない。宇宙船のキャビン内 のベッドの配置にもこの点を配慮する必要があるだろう。

脳ミソの活動にとっては基準となる垂直線、あるいは水平線の設定は必要であり、そのように 慣らされているのであろう。いったん慣らされた固定観念を取り除くことは大変むつかしい。

2次元でも同じような例を示す。普通は直交座標が脳ミソ に固定されているらしい。
放射状と円弧状の道路のアムステルダムで、勘違いをして道に迷ったことがある。


 ベットに寝る、横になるの動詞は宇宙船内では意味がない。ベルトで固定しなければならないからである。英語の”go to bed”は宇宙船内でもそのまま使えるだろう。

ところで、四十八手がどのようなものかはよく知らないので正確に数えてないが、上下がなければ少なくとも二 十四手に縮退するはずである。いくつに縮退するか、新しい手はないかは宇宙空間に将来出て行くであろう人類にとって重要な問題である。

スポーツも いろいろ考えておくとよい。テニスや卓球のようなネットのある球技、サッカーやラグビーのようなゴールのある球技、相撲やボクシングのような格闘 技、どのような用具とルールにすればよいか、壁に向かって球を打つスカッシュは無重力下のスポーツの原型かも知れない。

立体玉突きは面白くないだ ろう。押しや引きやマッセは存在せず、すべてカーブやシュートに縮退し、またフリクションが少なく、なかなか減速しないと思われる。


 さて、アメリカやECやロシヤではすでにかなりの宇宙実験が行われ、それらの結果の報告も出されている。チャレンジャーの事故で遅れてはいる が、我が国でもFMPT(第1回材料製造実験)として計画が進行中である。これらの材料実験を眺めてみたとき、気体・液体が関与するものが大部分 であることに気がつく。


固体での状態変化が少ないことは当然予想されることであろう。しかし、固体の中でも粉体の挙動を見ようという提案はないよ うに思う。これら内外の提案の中で本当にユニークな無重力下での材料実験はあるだろうか。

誰でも考えつくことばかり、というのが率直な感想である ことは否定できない。なるほど、これは面白いと皆が賛成してくれそうな、そういう提案は考えても考えても出てこない。残念である。自棄になり逆立 ちして考えるとどうなるか、などと考える。


 ここで各種の提案を並べてみよう。当然のことながら無重力下では比重差を感
じないことを利用した提案が多い。

比重の小さい物質とそれの大きい 物質が均質に混合した複合材料の製造研究、重力偏析のない状態での2液相分離傾向を持つ液体の挙動の研究、比重差によって生ずる熱対流のないこと を利用した欠陥の少ない単結晶の製造研究や液体間の拡散現象の研究等である。無静圧であり、自重で潰れたり変形したりしないことを利用した提案も 多い。(つづく)

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鈴木朝夫(すずき ともお)
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鈴木朝夫のぷらっとウオーク・・・無重力下で脳ミソは何を考えるだろうか③

2012-01-20 | 鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」

無重力下で脳ミソは何を考えるだろうか③
                                       情報プラットフォーム、No.292、1月号、2012、掲載



  無重力下では浮遊することを利用して、液体からの真球の結晶を得ようとするもの、容器なしの無接触溶融により汚染のない結晶を得ようとするも の、液滴や気泡の動的挙動の研究等がある。

無重力下では熱対流がないために別のマランゴニ対流と呼ばれる現象が顕在化してくる。濃度差や温度差に よって液体の表面張力が異なることから界面や表面と内部に対流が生ずるのである。実験の成否は容器の材質に大きく依存する。


  素人にわかりやすい提案は、どちらかというとライフサイエンス実験の方に多いように思える。生物の持っている体内時計が宇宙ではどうなるか、 細胞の電気泳動法による分離、などがある。蜘蛛がどんな巣を張るかという子供の提案はすでに試みられている。

宇宙酔いなど生理的な現象に対して人 間はすぐに適応して平常に戻るが、骨も中のカルシウムは減少しつづけるという。寝たきり老人と同じ状況と思われる。将来の宇宙旅行にとって解決し ておかなければならない問題である。


  無重力下の実験を考えるとき注意すべきことを2、3述べておきたい。できればon-off操作程度で実験操作がやさしく簡単であること、簡単 な操作でも所期の目的の通りに成功に導くための装置・サンプルアセンブリーに工夫すること、万一の場合でも人体に危険を及ぼす可能性の少ない物質 を選ぶこと、装置・試料の総重量をできるだけ軽くすること、エネルギー消費が少ないことなどである。


  いずれにしても巨額の費用を賄えるほど優れたものが現在つくれるとは思えないのだから、すぐに役に立つ材料の製造を目標にして無重力下の実験 を考えることは得策ではない。無重力下で生ずるさまざまな現象を正確に把握し、物理的・化学的な考察を可能にするような基礎的な地道な提案を尊重 することが、回り道ではあるが近道ではないだろうか。


  結論は、残念ながら、重力下に置いた2次元的思考が中心の脳ミソではあまり良い考えは出てこないだろうということである。日常我々がなにげな く使っている動詞は縮退することを念頭に置くことも役に立つだろう。逆立ちして考えるのも発想の転換の一方法かも知れない。望ましいことは、脳ミ ソを無重力下に置いて考え直すことではないだろうか。


  また、ゆとりと遊びの心がユニークな発想の助けになると思われる。俳人や歌人をスペーシシャトルに乗せて日本文学の代表的表現形態である俳句 や和歌を詠んでもらうのはどうだろう。宇宙と地上でやり取りする連歌はどうだろう。


「地球は青かった」よりも素晴らしい表現がでてくることが期待 できる。このとき季題はどうなるだろうか。どんな動詞を使うだろうか。また、秋の夜長に決められた時間に人工の流れ星をスペースシャトルからつく り、日本中で鍵屋・玉屋と楽しむのはどうだろうと、酒のさかなとして会う人ごとに話している。

もちろん、スポンサーを捜すことはそれほど困難では ないだろう。大部分の人は面白いと言ってくれるが、「それは難しいだろう」と現実的になる人が多い中で、あるグラフィックデザイナーの反応が最高 であった。彼の答は「それは打ち上げ花火ではなくて、打ち下ろし花火ですね」であった。(完)

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 これらの発想は高知県宇宙利用推進研究会(てんくろうの会)に引き継がれている。皆さんの頭が柔らかくなったところで、今年はさらに楽しい初夢を創り出せないものか。

 

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