ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

インド料理を食べながら『停電の夜に』を読む

2005年12月13日 | 読書
 職場の近くにお気に入りのインド料理の店がある。ここのランチは780円でカレー2種類、ナン、ライス、キャベツサラダ、タンドリーチキンがついていて、ナンは食べ放題。安くておいしくてボリュームたっぷりなので超人気で、いつも行列ができている。

 このインド料理店で食事しながら本を読むのがわたしの楽しみの一つだ。とりわけ、インド系の人々が主人公の短編集『停電の夜に』を読むと雰囲気はまさにインディ。

 作者のジュンパ・ラヒリは1967年生まれのインド系アメリカ人女性で、ブックカバーについている写真を見るとどらえい美人である。

 全9編の短編の中ではやはり標題になっている冒頭の「停電の夜に」が一番印象深い。全9編それぞれが切なくてやるせない話がほとんど。作品の通奏低音はディアスポラの人々の悲しみや違和感だ。異文化のなかでの軋轢ばかりではない。男と女のどうしようもないすれ違いは読者の心を痛くする。

 停電の夜に真っ暗ななかで蝋燭に灯をともし、互いの秘密を語り合う夫婦の話を描いた「停電の夜に」も、胸が痛くなる一篇だ。ラヒリの人間洞察は鋭い。淡々とした描写のなかに、冷たい隙間風が吹く寒々とした風景まで見えてくるようだ。

 「神の恵みの家」、これは新婚夫婦の物語。アメリカに住むインド人夫婦は新婚早々から心のすれ違いを経験する。それは一方的に夫の側だけの違和感かもしれない。なにしろ新婦は天真爛漫な無神経女で、童顔の美しい顔は無邪気に夫の神経を逆撫でし続ける。
 新婚2ヶ月で早くも「この結婚は失敗だったかも」という薄暗い予感が夫の背中をよぎる。
 この新婦のわがままぶりや子どもっぽさや夫への気遣いのなさは、寒心に堪えない。なんだかなぁ~。こんな女、いるよな……
 こういうのを読むと、「早く自分の無神経さに気づいて反省しなさい」と言いたくなる(はい、ごめんなさい)。

 「ビビ・ハルダーの治療」は不思議な物語だ。インドの貧しく小汚い29歳の女、ビビのお話。この話といい、「本物の門番」といい、ドストエフスキーが描くペテルスブルグの貧しい人々をなぜか思い出してしまった。

 まだ若いジュンパ・ラヒリ、これからが楽しみだ。


《収録作品》

停電の夜に 7-40
ピルザダさんが食事に来たころ 41-72
病気の通訳 73-114
本物の門番 115-136
セクシー 137-180
セン夫人の家 181-220
神の恵みの家 221-254
ビビ・ハルダーの治療 255-278
三度目で最後の大陸


<書誌情報>

 停電の夜に / ジュンパ・ラヒリ [著] ; 小川高義訳. 新潮社, 2003 (新潮文庫)  

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