ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

それでも生きる子供たちへ

2007年12月23日 | 映画レビュー
 子どもたちは悲惨な境遇にあるというだけではない。したたかに力強く生きる。

 ユネスコが後援団体の一つに入っている、「子ども達を救え!」キャンペーンのオムニバス映画。飢餓、貧困、犯罪にさらされている世界の子どもたちの窮状を描き、子どもを救おうというメッセージのはっきりした映画とはいえ、ここに描かれている子どもたちは単に可哀想な被害者ではない。中には大人顔負けの逞しさを見せる子ども達もいて、やっぱりわたしたちの希望は彼らにあるということを痛感させられる。

 8人の監督が描く作品は、それぞれの国の子ども達が置かれた困難な状況を切り取る。特に第1話の「タンザ」(アフリカの少年兵)と第2話「ブルー・ジプシー」(クロアチアの窃盗団家族)、「ビルーとジョアン」(ブラジルのスラム)、最後の「桑桑と子猫」(中国の児童労働)が印象に残った。

 「タンザ」を撮った監督の名前は初耳だが、まだ歳の端もいかない少年兵が無残に死んでいく様には言葉を失う。そして、少年兵は被害者であると同時に彼らが襲撃するの人間にとっては残虐な加害者でもあるのだ。タンザが命じられた任務は、「黄色い建物に爆弾を仕掛けること」。彼が錠を壊して入ったその建物は、学校だった。今はもう遠い世界のように感じられる学校での日々。タンザは黙って黒板の文字を読み、そこに書かれた質問にチョークで答を書く。そして彼が破壊しようとしている机や子ども達の描いた絵を標的に「バン!」と爆弾を破裂させる真似をする。やがてタンザの瞳から一粒の涙が流れ…

 ここに希望はあるのだろうか? 少年兵の明日にいったいどんな希望があるというのだろう。今日か明日死ぬか、生きていれば殺戮者になるかどちらかしかない。それでもそんなタンザに未来と希望を残したラストシーンにジーンときた。

 「ブルー・ジプシー」はいきなりのけたたましさに、「おお、これはやっぱりクストリッツァ!」となんだか嬉しくなるような困ってしまうようなバイタリティ溢れる窃盗団一家の物語。今日は少年院から無事卒所できる少年たちの歓送会。先生たちは準備に余念がない。「二度と戻ってくるなよ」と送り出された少年は…。ジプシー(ロマ)音楽に乗って愉快に楽しく泥棒稼業の一家にあって、哀れ少年の行く末は…。と、全然哀れじゃないところがすごい。クストリッツァ節全開の楽しい一作。

 「シティ・オブ・ゴッド」の共同監督カティア・ルンドが撮った「ビルーとジョアン」はやはりブラジルのスラムに住む兄妹の物語。廃品回収で生計を立てているのか小遣い稼ぎなのか、小学生と中学生ぐらいの兄と妹は大きなリヤカーを引いて街中を駆け巡る。二人の懸命な姿が心を打ち、ラストシーンのバラックと高層ビルとの対比に格差社会の厳しさを突きつけられる。

 そして最後のジョン・ウー監督作。とんでもない演出をするかもと心配したけど、無難なつくりだったのでほっ。というか、今までみたジョン・ウーの作品の中で一番よかったんじゃなかろうか? 子役の少女二人の愛らしさは反則技! あんなに可愛い子を二人も使うなんて、これはもう作品がどんな出来でも許してしまうじゃないの! しっかし中国は社会主義じゃなかったのかぁ?とますます疑惑が深まる作品だった。ほんとにこんなことが今でもあるのだろうか。まるで人買いのおじさんのような男がいて、子どもたちをこきつかって働かせるなんて、「オリバー・ツイスト」の世界じゃあるまいし。

 大金持ちでも幸せじゃない子どもだっているんだよ、というメッセージ。子どもたちの幸せのために大人は何ができる? 子どもなんて救わなくていい、という大人もいるでしょう。でもわたしは子どもはやっぱり希望だと思っています。


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ALL THE INVISIBLE CHILDREN
イタリア/フランス、2005年、上映時間 130分(PG-12)
監督: メディ・カレフ 「タンザ」、エミール・クストリッツァ 「ブルー・ジプシー」、スパイク・リー 「アメリカのイエスの子ら」、カティア・ルンド 「ビルーとジョアン」、ジョーダン・スコット;リドリー・スコット「ジョナサン」、ステファノ・ヴィネルッソ 「チロ」、ジョン・ウー 「桑桑(ソンソン)と小猫(シャオマオ)」

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