日々の恐怖 3月27日 心霊現象(3)
すると、ぴたりとドアを開けようとする音が止み、それと同時に、その気配が玄関を入って戸一枚隔てた俺の寝室の前にまでやってくるのを感じた。
そのとき唯一動かせる目を扉のほうへやると、引き戸が5cmほど開いていることに気づいた。
正直オカルト大好きだった昔取った杵柄とかそんなものはなく、ただ、
“ 入ってくるなよ、入ってくるなよ・・・。”
と叶いもしない祈りをしながらひたすら怯えてた。
そうしていつの間にか引き戸から目を離せなくなっていた俺は、何か人型の黒い靄のようなものが扉を開けて入ってくるのをまともに見てしまった。
すーっと、部屋に入ってきたそれは俺の足元までやってきて、そこで立ち止まった。
顔なんてわからないので男か女かなんてものも全くわからなかったが、そいつが俺の足元に立ってこちらを見つめていることだけはわかった。
程なくしてその気配はベランダのガラス戸がある方へ向かい、そのまま外へ出て行ってしまった。
汗でびしょびしょになった身体を起こしながら、俺はキッチンと寝室を隔てる引き戸を確認してみた。
その引き戸は俺が最初に見たときと同じように、5cmぐらいの隙間が開いているだけだった。
“ 心霊特番とかでもよくあるけど、こういうちょっとした隙間から幽霊が入ってくるとか定番だよなぁ・・・。”
とか思いながらも、実害がなかったこともあってか、あっという間に余裕を取り戻してもう一度ベッドに潜り込んだ。
段々と、
“ さっきの出来事は夢かなんかだろうな・・・。”
と勝手に結論付けて眠りについた俺は、その後またすぐに目を覚ますことになった。
状況は先ほどと同じ、はっきりと何かの気配が階段を上って廊下を歩いてくるのがわかる。
そしてドアノブを乱暴に開けようとする音を聞くところまで同じ。
ここまでくると、正直夢であっても早く覚めてくれという気持ちでいっぱいだった。
一瞬頭をよぎったのは、今度も本当に実害がなく通り過ぎていくのか? ということだった。
こちらを見つめてくるだけで済むのか?
黒い靄の正体がはっきり見えたら?
そんな俺の思考はそっちのけで、謎の靄はやはり人型のまま寝室に入ってきた。
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