大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

☆奇妙な恐怖小説群
☆ghanayama童話
☆写真絵画鑑賞
☆日々の出来事
☆不条理日記

日々の恐怖 7月1日 悪戯好き

2014-07-01 18:29:40 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 7月1日 悪戯好き



 私は当時高校生で、かなり前の話です。
母が運転する車で、近場に犬を連れて買い物に出掛けました。
その帰り道、犬が鳴き始めたので、少し散歩させようと車を止めました。
 ふと横を見ると、いかにも村のお社といった雰囲気の神社がありました。
周りはごく普通の住宅街で、母はその辺りを犬を連れて歩いてくると言うので、私は神社を見てくることにしました。
 神社はこざっぱりとしていて、雰囲気も静かであたたかく、きれいに掃除もされていました。
社務所は無く、参拝客は私以外はいませんでした。
 二十段もないような石段を登ると、石段の一番上に小さな紙が落ちていました。
なんだろうと思って拾ってみると、そこには印刷で短い祝詞が書かれていました。
シンプルな短い祝詞で、覚えやすくて気に入ってしまい、私はその紙がとてもほしくなりました。
落ちていたものだしいいかな…とも思ったのですが、持って帰るのは盗みのような気がして、紙はしばらく眺めて祝詞を覚えた後に、賽銭箱の近くに置いておきました。


 お参りを済ませ、私は神社の建物が見たくなり、社殿の横に回りました。
拝殿と本殿の間は渡り廊下でつながれおり、その渡り廊下の横に行くと本殿がよく見えました。
人もおらずゆっくりと見ることが出来て、わあ、こんな風になってるのか、と私は喜んで眺めていました。
そして、ふと渡り廊下の向こう側を見た時、何故か、その渡り廊下を横切って向こう側に行かねばならない、というような気がしたのです。
 自分でも意味が解らなかったのですが、ともかくこの渡り廊下の手すりをよじ登って越えて、渡り廊下を横切らねばならない、なんとしてもそうしなければならない、という思いに駆られたのです。
 しかし、渡り廊下は神様の通り道のはず。
横切るなんてまずいんじゃないのか。
そんなことを考えながらも、私はいつの間にか手すりに手を掛けていました。
妙に頭がぼーっとし、周りの音が聞こえなくなりました。

“ ほら、ここには誰もいない、周りは杜だから外からも見えない。
この渡りの手すりをよじ登れば、真正面から本殿が見られる。
なかなか見られるものじゃない。
神様と同じ視点だぞ。”

と、何故か心の中で強く思いながら、私は手すりに足を掛けてよじ登り、渡り廊下に立っていました。
 すると、その時、母が神社の外から呼ぶ声がしたのです。
私ははっと我に帰りました。
見れば、神社の渡り廊下に突っ立っている自分。
外からは母が、姿の見えない私を心配して何度も呼んでいます。
私は急に怖くなりました。
母にちょっと待ってと返事をし、ちらりと本殿の方を見てから、私は入ったのとは反対側の手すりを乗り越え、渡り廊下を横切りました。
こうなったらいっそちゃんと横切ってやると、負けん気が起きたものですから。
 神社の裏側から出くると、母が入口で心配そうに待っていました。
犬は母とは対照的に、のんびりと座って待っていました。
気になって振り返ると、賽銭箱の側にきちんと置いたはずの祝詞の書かれた紙は、何故か最初の石段の所に戻っていました。


 なにがなんだかよくわからないまま、一ヶ月ほど後のことです。
再びその神社の前を通ると、ちょうどお祭りをやっていました。
この間のこともあったし少し気になって、私は神社に寄りました。
 たき火をしていたので、参拝の後にあたらせてもらっていたら、横にいたお爺さん達が話しかけて来たので、おしゃべりしていました。
お爺さんは地元に長く住んでいる人だというので、

「 叱られるかもしれないんですけど・・・。」

と前置きして謝ってから、お爺さんにこの間の渡り廊下のことを話したのです。
するとお爺さんは、

「 久しぶりにそういう話を聞いた。」

と言い出しました。
 なんでも、そこの神様は悪戯好きで、昔は時々人引っ張り込んでは、ご神木に登らせたり、神楽の舞台に上がらせたりしていたそうです。

「 あんた真面目そうだし、神様にからかわれたんだなあ・・。」

と、お爺さんは笑いました。
帰る前に、前に覚えた祝詞を唱え、お爺さん達からお餅を貰って帰りました。











童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 日々の恐怖 6月30日 兄... | トップ | 日々の恐怖 7月2日 ノック »
最新の画像もっと見る

B,日々の恐怖」カテゴリの最新記事