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日々の出来事 11月6日 上野倶楽部

2018-11-06 07:00:00 | A,日々の出来事_





 日々の出来事 11月6日 上野倶楽部





 今日は、日本初のアパートが完成した日です。(1910年11月6日)
この日本初のアパート“上野倶楽部”は、東京の上野公園に隣接し、洋風の外観を持つ5階建て70室の木造アパートでした。
このアパートの入居者は、独身者はおらず、公務員、会社員、教師が多く、ロシア人やフランス人も入居していたようです。
 この上野倶楽部には、詩人の西条八十が4階を仕事場にして入居しており、詩に曲をつけて歌われるようになった最初の童謡である“かなりや”は、このアパートで作られました。


     かなりや (作詞、西条八十 作曲、成田為三)

    唄を忘れたカナリヤは裏の山に捨てましょか
    いえいえそれはなりません

    唄を忘れたカナリヤは背戸の小藪に埋けましょか
    いえいえそれはなりません

    唄を忘れたカナリヤは柳の鞭でぶちましょか
    いえいえそれはなりません

    唄を忘れたカナリヤは象牙の船に 銀の櫂
    月夜の海に浮かべれば            
    忘れた唄を思い出す


 この歌は、一時期、教育上ふさわしくないという理由で、学校で歌うことが禁じられていました。
それは、一見残酷な言葉を使った歌詞から来るものでしょう。

 秋、西条八十はこのアパートから長女の嫩子を抱いて、上野公園へ散歩に出かけます。
秋の枯葉が舞う散歩道の途中、幼かった頃の思い出が、西条八十の頭に浮かんで来ます。
 クリスマス、西条八十は東京の九段にあった番町教会へ連れて行ってもらいます。
教会には、綺麗なクリスマスツリーが飾られ、、堂内の電燈が黄色く華やかに点灯しています。
 でも、この電燈の中で、天井の一番上の窪みにあった電燈が一つだけ消えていました。
西条八十は、この電燈が一つだけ仲間はずれになっているように思われます。
そして、この電燈を思い出しているうちに、賑やかに歌う多くのカナリヤの中に、一人ポツンと歌うことを忘れたカナリヤの寂しい姿が心に浮かび、それが同時に自分自身の境遇に重なります。
 自分は、学生時代から詩人を志していた。
でも、14才で父を亡くし、兄は借金を作って失踪、家族を養うため、株屋をやり、てんぷら屋をやり、出版屋もやりました。
それらはどれも、自分が思う職業ではありませんでした。
 自分は、心から詩人になりたかった。
しかし、生活がそれを許さなかった。
人には、意に沿わずうまく行かない時がある。
でも、怠けていたわけではない。
だから、静かにそっとして待っていてあげて欲しい。
 西条八十は自分自身を語ると同時に、子供たちを優しく見守って欲しいという心を込めた童謡を作りました。
これが、“唄を忘れたカナリヤ”です。

 流行している歌を取り入れるのはそれでいいとして、少なくとも小学校では、日本の心や情緒に重きを置いた歌がもっと歌われていいと思います。
それは、そういう歌が学校以外では、知り得る機会が無いからです。






それでは、西條八十の詩をもう一つ。







トミノの地獄

西條八十




姉は血を吐く、妹(いもと)は火吐く、

可愛いトミノは宝玉(たま)を吐く。

ひとり地獄に落ちゆくトミノ、

地獄くらやみ花も無き。

鞭(むち)で叩くはトミノの姉か、

鞭の朱総(しゅぶさ)が気にかかる。

叩けや叩きやれ叩かずとても、

無間(むげん)地獄はひとつみち。

暗い地獄へ案内(あない)をたのむ、

金の羊に、鶯に。

皮の嚢(ふくろ)にやいくらほど入れよ、

無間地獄の旅支度。

春が来て候(そろ)林に谿(たに)に、

暗い地獄谷七曲り。

籠にや鶯、車にや羊、

可愛いトミノの眼にや涙。

啼けよ、鶯、林の雨に

妹恋しと声かぎり。

啼けば反響(こだま)が地獄にひびき、

狐牡丹の花がさく。

地獄七山七谿めぐる、

可愛いトミノのひとり旅。

地獄ござらばもて来てたもれ、

針の御山(おやま)の留針(とめばり)を。

赤い留針だてにはささぬ、

可愛いトミノのめじるしに。
















☆今日の壺々話







     小さな旅




 夏休みに自転車でどこまでいけるかと小旅行。
計画も、地図も、お金も、何も持たずに。
国道を、ただひたすら進んでいた。
 途中大きな下り坂があって、自転車はひとりでに進む。
ペダルを漕がなくても。
何もしなくても。
 ただ、ただ気持ちよかった。
自分は今、世界一早いんじゃないかと思った。
子供心に、凄く遠いところまできた事を知り、一同感動。
滝のような汗と青空の下の笑顔。

 しかし、帰り道が分からず途方に暮れる。
不安になる。
怖くなる。
いらいらする。
当然、けんかになっちゃった。
 泣いてね~よ、と全員赤い鼻して、目を腫らして強がってこぼした涙。
交番で道を聞いて帰った頃には、もう晩御飯の時間も過ぎてるわ、親には叱られるは、蚊には刺されてるわ、自転車は汚れるわ。
 でも、次の日には全員復活。
瞬時に楽しい思い出になってしまう。
絵日記の1ページになっていた。

 今、大人になって、あの大きな下り坂を電車の窓から見下ろす。
家から電車で、たかだか10個目くらい。
子供の頃感じたほど、大きくも長くもない下り坂。
 でも、あの時は、この坂は果てしなく長く大きかった。
永遠だと思えるほどに。

 今もあの坂を自転車で滑り落ちる子供達がいる。
楽しそうに嬌声を上げながら。
 彼らもいつの日にか思うのだろうか。
今、大人になってどれだけお金や時間を使って遊んでも、あの大きな坂を下っていた時の楽しさは、もう二度とは味わえないと。
もう二度と、友達と笑いながらあの坂を、自転車で下る事はないだろうと。
あんなにバカで、下らなくて、無鉄砲で、楽しかった事はもう二度とないだろうと。

















おっさん






 俺が昔住んでたアパートの隣の住人が頭のおかしい40過ぎのおっさんで、夜中にアパートの外廊下をうめき声あげながら歩き回ったり、早朝「アーーーーーーーーーーーー!!!!」とか部屋で叫んだり、とにかくそのおっさんは変だった。
しまいには、夜中俺の部屋の窓をいきなり開けて、目見開いてニヤ~っと笑みを浮かべながら「フリダシに戻るぅ~~。」とか叫びやがった。
 俺はめちゃくちゃびびったのと同時に何故かめちゃくちゃ腹立って、どうにかしてこのおっさんに仕返しがしたくて、俺も頭おかしいこと言ってビビらせてやろうと思った。
そして、俺は「ピーちゃんの星でラーメンむさぼりたいの~~~。」みたいなことを言ってやった。
 そしたら、おっさん急に冷めた顔になって「お前は冬型の気圧配置だから無理。」とか言って、スタスタどっかに消えた。
マジで腹立ったあれは、今思い出しても腹立つ。




















ボロイアパート





 学生時代、ボロイアパートに住んでいた。
子供が死ぬほど嫌いだったから、不動産屋に、

“ 子供の声が一切しない、墓場みたいな静かな場所!”

ということで探してもらったアパートで、予算も二千円オーバーだったのに、夜中に騒ぐ糞ガキがいる。
 夜泣きだけじゃなく、走り回ったりもしてるらしい。
それがどうも一階の端っこの部屋。
かなり高齢なおばさんの一人暮しで、どうも小さい子を産めるような年齢ではない。
孫にしては早いかな、くらい。
 何回か不動産屋に文句を言ったが改善されず、アパート住民も子供の声を聞いた人と聞かない人といるようで、なんか歯切れが悪い。
そのまま契約更新しないで他に引っ越しして、記憶の隅っこに放り込んであった。

 その後十年ほど経って、刑事さんが来た。
私の住んでいたアパートで、嬰児の遺体遺棄があったらしく、犯人は、そのおばさんだった。
産んでは殺し、産んでは殺しして、数体衣装ケースに入れてたんだと。
 同じアパートの住人が、子供の声がすると騒いだことで喧嘩になって警察が来てわかったらしい。
もちろん、部屋の中には生きてる子供はいない。
たぶん、私の心の導火線がもう少し短かったら、その発見者私だっただろうな、となんか恐くなった。


















214号室




 その日は飲めない酒を飲んで酔っ払ってオンボロアパートの家に帰った。
明け方目が覚めて水を求めて台所に向かった所、部屋に設置してある家具の位置が微妙に違う。
 おかしいな…、と思いつつも水を飲んでトイレに向かった。
トイレの電気を点けたとき、俺は確証を得た。

「 俺の部屋じゃない!」

薄暗かった部屋に光が入り、視力がハッキリした事で部屋の異変の感覚は確証に変わった。

「 ここどこや!?」

思わず俺は声に出して叫んでしまった。
 すると、ここの住人であろう女性が起きてきてこう言った。

「 ここは214号室ですよ。
夜中に貴方がウチのドアが開かないと鍵でバンバン叩くので、仕方なく鍵を開けたところ貴方が入ってきて寝てしまったのですよ。」

 俺はそれを聞いてただ謝るしかなかった。
謝った後、すぐに俺は自分の部屋に戻った。

 後日、俺はきちんとした謝罪をしにメロンとドーナツを持って214号室に向かった。
俺の部屋は210号室で、214号室がどこにあるかは知らなかった。
正直、どう間違えてそこに行ったのかが理解できない。
自分自身に心底疑問が絶えなかった。
 3階建ての建物が2棟連なるアパートで、オンボロとはいえ部屋数はそこそこある。
部屋の号数で、建物と階層が判断できる。
214号室は、号数で判断すれば俺と同じ建物・同じ階層にある筈だった。
 ところが、213号室や215号室はあるのに214号室が見当たらない。
ついこの間行ったばっかりなのに…。
自分の記憶の無さに嫌気が差した。
 同じ階層を探しても見つからないので、他の階層を回ってみることにした。
1階にも3階にも、A棟の方を見て回っても4が付く号数が無い…。
俺は不安になって、大家さんに聞いてみることにした。
 俺は大家さんに事のあらましを説明し、謝罪する為に214号室の場所を尋ねた。
大家さんは俺の話を聞いて顔を顰めこう言った。

「 ウチは12年程前から縁起の悪い4の付く部屋は無くしたんですよ…。
ですから214号室は存在しません。」


















カリカリ


 

 同じサークルに入っていた先輩その友達A、Bは仲が良くて、よくAの1人暮らししているアパートで遊んでいました
大学2年になってAのアパートが改築する事になったんですが、A以外の住人は1ヶ月程の改築期間の間は自宅から通う事になり、Aは自宅から通える距離ではなかったので大家さんにその間、暮らせる場所を紹介してもらいました。
 Aは仕送りを誤魔化す為に(差額分を懐にいれようとして)、出来るだけ安い所を希望しました。
そして、紹介されたのが少し大学からは距離があり、後半年も経たない内に取り壊されるというオンボロアパートでした。
 先輩とBは引越しの手伝いがてら、そこに行くと木造○十年といった感じの上、潰れた工場のような建物に両隣を囲まれた暗い感じのアパートだったそうです。
そんなわけで、

「 幽霊でも出るんじゃね?」

とAを脅かしたりしたのです。
Aは幽霊の類は一切信じない男だったので懐にお金が入ったからか、明るく、

「 隣にも人が住んでるみたいだし、大丈夫大丈夫。」

と言いました。
 そんなこんなでAの引越しも終わり、Aと別れてアパートから出ようとした時、調度、Aの隣人らしきオッサンが帰ってきました。
細い路地を通って出なければならなかったので身をよじって擦れ違う時に先輩が、

「 すいません。」

と声をかけると、オッサンは、

「 いえいえ。」

と言ってすんなり擦れ違ったんですが、擦れ違った後、

「 あ、ちょっと・・・。」

と先輩達に声をかけてきました

「 若いんだから、仕方ないけど夜はもうちょっと静かにしてくれないかな?
昨日も夜中、カリカリうるさくてさ。
壁が薄いから・・・ははは。」

Aが引越してきたのは今日の朝だったので、先輩達は気味が悪くなりましたが、あれだけのオンボロアパートだからデッカイ鼠とかがいるっていう事にしておきました。
 翌日、翌々日とAはサークルに顔を出してたので、その事を忘れていたのですが、三日目から急にサークルに顔を出さなくなりました
どうしたのかと思い、先輩達が電話してみると、普通に電話口にAが出て、

「 最近寝不足でさ~。
隣のオッサンが夜中、ずっとカリカリうるせ~んだよ。」

というのです。
先輩は反射的に、

「 そのアパート出た方がいいんじゃないか?」

と言ったらしいでのすが、Aは笑い飛ばして、寝るからと電話を切ってしまいました。
先輩とBは心配しましたが、気味悪いあのアパートに行くのも嫌だったので行きませんでした。
 それから三日間経ってもAはサークルはもちろん学校にさえ来なかったので、流石にヤヴァイと思いAのアパートに行ってみる事にしました。
幸い、三日間とも携帯では連絡は取れていたのでその日の電話で、

「 今日、行くから。」

と言うと、Aは気軽に来いよと言ってくれました。

 先輩とBがアパートに着くと、雨戸は閉まっている上に玄関のドアが少し開いていたので、Bが、

「 いないのか~?」

と中に声をかけてみると、

「 お~、来たか、入ってこいよ。」

と、普通にAが応えました。
 2人が中に入ると、Aは布団に入っていました。
Aは目に大きなクマをつけながらも、

「 大丈夫、大丈夫。」

と笑顔で言っていたので、少し先輩は安心したそうです。
 結局、一週間ぶりに会ったせいもあって3人とも夜まで話し込んだんですが、深夜も良い時刻になって急にAが、

「 眠たい。」

と言い出しました。
先輩達は寝不足なのに話に付き合わせて悪いなと思いつつ、終電も終わり帰れなくなったのでいつも通りAに泊めて貰う事にしました。
 先輩が雑魚寝になると電気を消そうとしたBが馬鹿にしたように、

「 この部屋、どれも開けっぱなしでダラしね~な。」

と言いました。
 横になった先輩が部屋を見回すと確かに押入れやトイレの扉はもちろん、鍋の蓋や雨戸まで蓋や扉の類は全て少しずつ開いていたそうです。
それを見た先輩はいい知れぬ恐怖感を感じて、もう眠るどころではなくりました。
 それでも眼を無理矢理閉じて、しばらくすると、何処からかカリカリという何かを引っ掻くような音が聞こえてきました。
前に寝ているAは、うざったそうに、

「 また隣の奴だよ、うっせ~。」

と言っていましたが、先輩にはどう聞いても部屋中から聞こえていました。
後ろに寝ているBも、どうやら同じようで先輩に小声で、

「 この部屋やべ~よ。」

と言いました。
 その後、気にしないで寝ようということになったのですが、しばらくして、先輩は絶えきれなくなって、暗がりの中薄目を開けてみると、押入れやトイレの隙間から、何やら白っぽいモヤモヤしたものが見え、そこからどうもカリカリと音がしているようでした。
 先輩は目を凝らして、それが何か確認しようとしたその時、Bが後ろから急に先輩に目隠しをしてきたのです。
先輩はびっくりして、

「 な、な・・・・手をどけろよ。」

と言いました。
しかし、Bは、

「 ダメダ・・・。」

と。
それっきり何を言ってもBは応えず先輩は目隠しされたまま、恐怖の時間を延々と過ごしました。
 いつの間に眠ってしまったのか、先輩はチュンチュンという鳥の鳴き声に目を覚ましました。
前後にはAとBが何事もなかったようにスヤスヤと眠っています。
先輩は夢だったのかと思いましたが、昨日と同じように押入れやトイレの扉が開いている事に恐怖が甦り、AとBを残しアパートを飛び出してしまいました。
 そして、その日以来、AとBはサークルや大学にも顔を出さなくなり携帯はおろか自宅電での連絡もつかなくなったそうで、そのアパートが取り壊された今となっては、あのカリカリという音と白いモヤモヤがなんだったのか確認のしようもありません。



















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11月5日(月)のつぶやき

2018-11-06 02:54:06 | _HOMEページ_




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