日々の恐怖 10月31日 茶封筒(3)
それからも同じように引越して来る人はいたが、いずれもそう長くはおらず、あっという間にいなくなってしまった。
ご近所さんの間でも噂になり、爺さんが聞いたところによると、家の者が留守にしているはずの時間帯に、誰かいるような気配がする。
回覧板を回しに行くと音はすれども出てこない。
子供達が登下校時にその家をふと見ると、2階の窓から子供の人影が自分達を見ていたのだと言っている。
風もないのに干してあった洗濯物が全て地面に落ちていたり、表札がいつの間にかになくなってしまうことも度々あったようだ。
「 一番最後にあの家に入った人が出て行ったとき、たまたま近所の人が居合わせて話しを聞いてみたんだと。
するとなんて言ったと思う?」
それで、爺さんの話の要点は、
“ 最初は家具の位置が違っていたり、閉めたと思ったドアが開いていたり、気のせいかな?と思えるようなことだった。
それが段々ひどくなり、何もないのに食器が落ちて割れる。
急にガスコンロに火がつく。
夜中に誰かが言い争っているような声がする。
そしてついには、
「 出て行け、出て行け。」
とどこからともなく声が聞こえてきたり、いるはずのない人の気配がしたりと不気味なことが続き、ノイローゼになってしまった。”
とのことだった。
「 あの家の今の売値よ、600万だとよ。
安いだろ?
周りの1/4以下だ。
そこまで下げても誰もよってこない。
不動産屋も持て余してるんだよ。
でもしょうがねぇよなぁ。
あの家はSさんの家なんだ。
周りに追い詰められてよ、家まで追い出されたんだ。
どこにも行くあてのない可哀想なホトケさんが、成仏できずにあそこには住んでるんだよ。」
茶封筒にはどんなことが書かれているのかまでは分からないそうだが、半年に一度送ってくるらしい。
配達した翌日、再度ポストを覗いてみると、DMの類は何年も前から残っているのに、その封筒だけが無くなっていた。
ちなみに、今もまだその物件は空いている。
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