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映画『沈黙-立ち上がる慰安婦』の上映に応援を

2018-10-17 10:00:00 | (相)のブログ
 10月16日に神奈川県茅ヶ崎市の市民文化会館で行われた映画『沈黙-立ち上がる慰安婦』の上映会に対して、後援した茅ヶ崎市や市教育委員会へ映画の上映中止を求めるクレームが殺到しているという。
 本作は、在日朝鮮人2世の朴壽南監督によるドキュメンタリー映画(2017年公開)。日本政府による謝罪と国家補償を求めてたたかってきた元日本軍「慰安婦」たちの姿を記録した作品だ。
 この作品を攻撃し、映画の上映を中止させようとする電話が市や市教育委員会に多く寄せられたのだが、主なクレーム元は、日本軍による性奴隷制被害を否定する歴史修正主義の極右団体だという。ネット上では、団体の関係者やそこにつながる右派人脈が市への「抗議」を呼びかけているようすが確認できる。上映前日の15日には自民党の市議団が上映に対する抗議の申し入れを行っている。
 SNSなどで確認する限り、昨日の上映会はとくに大きなトラブルもなく行われたようだが、今後も各地での映画上映に対する不当な攻撃が続くことが予想される。史実を直視せず、それを隠したり修正したりしようとする動きは内外の批判をまぬがれないだろう。私たちにできることは、映画の上映を企画したり後援したりしている団体がこれらの卑劣な圧力に負けないよう激励すること、そして一人でも多くの人々がこの作品を観ることだろう。
 未見の方々の参考に、本誌2017年11月号に執筆した映画評を再掲する(文中の年齢、肩書などは執筆当時のもの)。

 半世紀の沈黙を破る被害者の闘いの記録

 『沈黙-立ち上がる慰安婦』

 本作は、2014年、韓国・忠清北道で暮らす元日本軍「慰安婦」の李玉先さん(90)のもとを監督の朴壽南さん(82)が訪ねる場面から始まる。17歳で満州に連行された李さんは、半世紀の沈黙を破り、1994年5月、日本政府の公式の謝罪と国家補償を求めて「被害者の会」の仲間とともに来日。首相に直訴しようと、国会前に座り込んだ。李さんらはその後も、95年に発足した「女性のためのアジア平和国民基金」に反対し、再三にわたって来日する。在日朝鮮人2世の朴監督は、孤立無援の中で出発したハルモニたちのたたかいに寄り添い、彼女たちの恨(ハン)を映像として記録していく―。
 本作は、『もうひとつのヒロシマ-アリランのうた』(86年)をはじめとする一連の作品で日本の植民地支配による朝鮮人犠牲者に光を当て続けてきた朴監督が、30年近い歳月をかけて追ってきた日本軍「慰安婦」被害者たちの名誉と尊厳の回復を求めるたたかいをまとめたもの。80年代末~90年代初めの沖縄、95年前後の日本、そして2014年の韓国―作品の中で3つの時間軸と空間が重なり合う。
沖縄のパートでは、朝鮮女性として初めて日本軍「慰安婦」としての被害を明かした裵奉奇さんのインタビュー映像も映し出される。作中では、韓国で日本軍「慰安婦」被害者たちが相次いで名乗り出て問題がクローズアップされる90年代の政治、社会状況とハルモニたちのたたかいの背景が提示される。また、加害者側の元軍人や日本人市民、高校生とハルモニたちとの交流、そして支援団体との衝突や被害者の会内部での葛藤、苦悩も描かれる。
本作に登場した日本軍「慰安婦」被害者たちの多くはこの世を去った。2015年12月28日、日韓両政府は日本軍「慰安婦」問題の決着に合意したが、当事者不在の合意として批判を浴びている。
ハルモニたちの名誉と尊厳の回復とは何か、今を生きる私たちに何が問われているのか―。被害者の証言に耳を傾け、歴史を直視することからしか本当の解決は生まれない。彼女たちのたたかいの記録がそのことを伝えている。
(相)

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