日刊イオ

月刊イオがおくる日刊編集後記

今回は少々お堅い話を

2010-08-13 09:31:07 | (相)のブログ
 
 一昨日の夕方4時、デスク上の電話が鳴った。以前、日本外国特派員協会(東京・有楽町)での記者会見の際に名刺交換したシリア人記者からだった。「菅直人首相が10日、『韓国併合』100年に際した談話を発表したが、この談話に対する在日コリアンの声を取材している、短い時間でいいのでテレビカメラの前でしゃべってくれないか」とのこと。「中東でのオンエアに間に合わせたいので、今日中にお願いしたい」と彼。「えっ、今日?!」と私。(まあ、取材の申し込み方については、私も他人のことをとやかく言えないが)
 シリア人記者の彼は来日20余年。中東の放送局の特派員として活動し、数年前に中東向けのニュース配信会社を設立した。私の発言はイランなどで電波に乗るという。初めは断ろうと思っていたが、こんな機会はめったにないのでOKした。
 特派員協会内の一室。テレビカメラとマイクを向けられたのはもしかしたら人生で初めてかもしれない。だいたい以下のような内容でしゃべった。
 談話の内容は「併合条約」の不法性および不当性を認めていないので、本当の意味での植民地支配に対する反省、謝罪になっていない。略奪文化財の返還(それも、「返還する」ではなく、「渡す」と表現する傲慢ぶり)などでお茶を濁して、「未来志向的な関係」を強調するのは図々しすぎる。談話は朝鮮半島の南半分である韓国だけを相手にしたものであって、同じ被害者である朝鮮側については一言もない。反省のない謝罪は百害無益であり、それは朝鮮に対する敵視政策、在日朝鮮人に対する差別的な処遇や迫害などが物語っている。これでどうして「歴史に対して誠実に向き合い、歴史の事実を直視する勇気とそれを受け止める謙虚さを持ち」などと言えるのか。首相の談話はまったく評価できない。「未来志向」をうんぬんするなら、過去にしっかりと「落とし前」をつけるべきだ。
 発言の全部が使われることはないと知りつつも、結構話した。(取材を断ろうと思っていた人間とは思えないほど)
 インタビュー終了後も場所を変えてしばらく話は続いた。
 (私):あなたは今回の談話についてどう思う?
 (彼):朝鮮のことについて触れていないのはおかしい。
 (私)日本の民主党政権をどう見ている?
 (彼)今の民主党は自民党以上に米国従属的だ。
 などなど。朝鮮やイランの核問題、広島・長崎に対する原爆投下などの話題も出たが、印象深かったのは、彼が核の問題に関しては「オール・オア・ナッシング」で行くべきだと主張していたこと。すなわち、「すべての国が核を持つか、すべての国がそれを捨て去るか」だ。(もちろん彼は後者に重点を置いていたが)一部の国だけが核を持ってもよく、ほかの国はだめだという現在の核不拡散体制の持つ根本的な矛盾がなくならない限り、そしてこのような不公平性を維持しようとする米国など一部国家のダブルスタンダードを是正しない限り、究極的な核廃絶はない。イスラエルの脅威を受け続けている中東出身の記者の言葉だけに重みがあった。
 植民地過去清算問題の解決のために、米国を排除して北南朝鮮と日本による3者首脳会談を開くべきだという主張も。なるほど、とうなずく私。外国人記者と話すたびに思うのは、日本のメディアの報道に接するだけでは物事の本質は見えてこないということ。「日本のメディアにジャーナリズムはない」。彼はそう断言していた。
 アップした写真は、外国特派員協会が入っている有楽町の電気ビルです。(相)
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