Gabbie's Cafe

 天使のカフェへようこそ

“熟成”を目指して

2007年06月23日 | Good Food Fine Wine

“おや、この人の名前、うちの母と一字違い…”
TVガイドを眺めながら、何気なしに予約録画した番組が、思わぬ感動を運んでくれた。

NHKの"プロフェッショナル・仕事の流儀"をご存知だろうか。各界のプロフェッショナルを招き、その生き様と仕事への姿勢にスポットを当てる45分間の番組だ。

その"プロフェッショナル"の今週の主役が、ソムリエ・佐藤陽一氏だった。

日本でのソムリエコンクールで頂点を極めた佐藤氏は、多くのソムリエたちが高級ホテルなどに属するのと違い、毎日自分の小さなレストランで、たった一人で給仕をしている。ホールの掃除も窓拭きも、テーブルセッティングも、彼ひとりでするのだという。自分でしなければ不安だからと、ワインを注ぐグラスを拭くのもすべて彼自身。
店のセラーにそろっているワイン600種のすべてを把握し、来店した客たちをきめこまかく観察し、どんなワインを所望しているかを感じ取っていく。
“お客様を楽しませる主役は、あくまでワイン”と、媚びたり過ぎたりするサービスをせず“脇役”に徹している。

そんな佐藤氏が、三年に一度開かれるソムリエコンクールに名乗りをあげた。'95年に田崎真也氏が優勝して以来、日本人が優勝したことのない世界大会。
プライベートでは二児の父である佐藤氏。休日にはよき父の任を担う。毎晩0時を過ぎる終業時間。忙しい中を縫ってワインの勉強、そして、いよいよその日がやって来る。。。


樽の中のワインが熟成していくように、自分の人生も熟成に向っていけたら…そう語る佐藤氏の座右の銘。
    "ゆっくり行く者は遠くへ行く(Qui va lentement va loin)"…フランスの諺だそうだ。
                     (↑しかし、実はイタリアだそうです!↑)  

ここのところ、どうも自分の心がざわざわしているのに、少し前から気づいていた。“ないもの”や“得られなかったもの”に心を奪われている自分に気づく。翌日に引きずるような夢を、毎晩のようにみる。
自分の人生が大きな力に守られ、導かれていると知っていながらも、今の自分に対する不満を拭うことができない。自分の人生が“自分が思ったように”進まなかったことに対する敗北感。そこから続く、漠然とした未来への不安。。。

けれども、“ゆっくり行く者は遠くへ行く”のならば、自分のこんな人生も何か意味があるのかもしれない。
生きることに不器用だと感じることがしばしばの自分のこんな人生も、あせらず、慌てず、“今”に感謝し、“あるもの”に感謝してゆっくり歩むとき、どんな遠くに、どんな“熟成”にたどり着けるのかは、まだ、未知数なのだから。

“どこにたどり着くのかは、死ぬ時までわからない。”
そう語って豪華なホテルのレストランから遠ざかり、今夜もたったひとりで客を迎えているのであろう佐藤氏。そのこれからを応援しつつ、自分もまたプロフェッショナルな意識を忘れずに行きたいと、思わされた夜だった。


      この番組は来週、再放送があります。ご興味を持たれた方は、ぜひどうぞ…

            プロフェショナル・仕事の流儀 ソムリエ・佐藤陽一

        2007年6月26日(火)午後4:05~午後4:50 (NHK総合/デジタル総合)
           2007年6月27日(水)午後5:15~午後6:00 (NHK BS2)