UUUとは、業界の隠語で、「うるさい うるさい うるさい」の頭文字をとったもので、よくクレームを付けるお客様のことをさす。いろいろ注文を付けるが、言い換えれば、頻繁に利用してくれる常顧客ともいえる存在、いわゆるPRO-XXXでもある。
現役時代に大変インパクトのあるUUUとのおつきあいがあり、退職後も続いていたが、今年喪中のハガキが家族から届いた。92歳であったという。彼は、ある化学メーカーの機械部門のトップで、ビジネスクラスの出張で年6〜7回は日本とドイツを往復していたが、座席の件でよくトラブルを起こしていた。Next Seat Vacantサービスに関するトラブルであるが、ドイツでファーストクラスのチケットをビジネス料金+ α 程度で販売(海外では販促の割引チケットの販売も可能)することにしてからトラブルはほぼなくなった。
彼の会社には、インハウスの旅行会社があったが、彼の事業部だけは、別の旅行会社を使っていた。そのワンマンぶりは、サラリーマンの域を超えており、取引銀行も彼の事業部だけ別であった聞く。彼の部屋は、社長室よりも広いと言われ、出張規定も、役員以外はエコノミークラス利用であったが、彼だけは、例外的にビジネスクラスを利用していた。まさに、昔、映画やテレビドラマ(1963年)にもなった「図々しい奴」(原作 柴田錬三郎)を地でいったような人物で、社内では怖いものなしで、よく武勇伝を聞いていた。彼は、浮気をしないタイプだったので、スケジュールがうまく合わない時でも、無理して当社を利用してくれていた。東京から1泊でドイツに来ることもあり、往復とも同じ乗務員となったことも何度かあったようである。
ファーストクラス利用になってからは、自分が絡むトラブルはほとんどなくなり、一緒に食事をしたりするほど親しい関係になり、我が家に遊びに来たこともあった。あくまで、お客様とスタッフという関係であるが、フランクフルト郊外にある有名なイタリアンレストランに何回か招待を受けることもあった。
彼に絡んだトラブルで、緊急時の取扱要領が変更されるという出来事もあった。1996年に成田発フランクフルト行の飛行機が離陸滑走中にトラブルを起こし、成田で乗客がシューターを使って機外に緊急脱出するという事故があった。その時、シューターで機外に滑り降りた乗客の何人かが降りた時に尻もちをついて怪我をするという出来事が発生した。
というのも、当時、緊急脱出のデモ用ビデオでは、シューターの下で客室乗務員が待機していて、尻もちをつかないように補助していたのである。ところが、安全規程に従い、乗務員は最後に降りなければならないことになっているので、 現実には、シューターの下には誰もいないのである。その場にいた彼は、機内の安全ビデオの内容がおかしいとクレームを付け、これがきっかけで、緊急脱出規定が変更され、機内のデモビデオも変更(下での補助要員が客室乗務員から一般の乗客に変更)されたのである。それ以降、非常口付近に着席する乗客は、緊急時に真っ先にシューターを使って機外に出て、他の乗客がシューターを使って滑り降りる時に下で補助する任務を負うことになったのである。
彼とは、退職後もおつきあいを続け、年1回はいっしょに食事をして、彼の武勇伝を拝聴する機会を持っていた。ここ数年、背骨や腰を痛め、車椅子生活をしていたことは知っていたが、92歳とはいえ残念な訃報であった。柔道家でもあったので、いつも元気な様子で勇気付けられていたが、今となっては、懐かしい思い出となっている。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます