最新主演作『マックス・ローズ』(原題:Max Rose ダニエル・ノア監督)をひっさげて、ジェリー・ルイスがカンヌ映画祭のレッドカーペットに立ちました。タキシードに白のシャツ、蝶ネクタイをほどいた、昔からのトレードマークそのままの姿で・・・
ところで、23日(木)には合同記者会見がひらかれ、世界の主要メディアは、さっそくこれを報じました。その多くが---もっと言えば、アメリカの主要メディアの多くが---伝えた見出しは、9割がたが、これ:
《ジェリー・ルイスは言った「女芸人にガマンできない」!!》
・・・「映画野郎」コラムを読んでくださった方はごぞんじの通り、アメリカ人は、ジェリー・ルイスが大嫌いです。いや、アメリカ人というより、アメリカのメディアはジェリー・ルイスが大嫌い、と言う方が正しい。
その事実は、事実として知ってはいたのですが、今回の記者会見に対する、ほとんどバッシングともとれる各紙の報道ぶりを見て、いま、ものすごくショックを受けています。こんなにもひどいのか、と。
たとえば、ロサンゼルス・タイムスは「微妙な空気の記者会見」と報じ、あるメディアは「87才の子どもがやってきた」と揶揄する。
そして、この日の会見で、彼らにとってもっとも“おいしい”発言だったのが、先にふれた「女芸人キライ」発言だった。
実は、ジェリーのこの意見は、数年前にも一度報じられていました。その時も、世間から非難ごうごうだったのですが、今回、また同じ質問をされて、また同じ答えをし、また非難ごうごうになってるわけです。
この質問をしたのは、トロントのthestar.comの映画専門記者Peter Howell氏。Howellのレポート記事全文はこちらで読めます。
記事の該当箇所は以下:
女性は男性ほどおもしろくない、少なくともフィジカルな笑いに関してはそうだ、という数年前のあなたの意見は今も変わっていないか、と私が質問すると、変わっていないと答えた:「お気に入りの女芸人?ケイリー・グラントとバート・レイノルズだよ」と、彼はウインクして答えた。
I asked Lewis if he’d reconsidered controversial remarks he made years ago when he said he didn’t think women were as funny as men, at least not when it came to physical humour.
His views are still pretty much the same: “My favourite female comedians,” he said, winking, “are Cary Grant and Burt Reynolds.”
Howell氏が記事でふれているのはこれだけ。
これを他メディアがとりあげると、こういう扱いになる:
木曜日の会見で、メリッサ・マッカーシーやサラ・シルバーマンのようなすぐれた女芸人を見て考えは変わったかと尋ねられた87才のルイスは、女性がドタバタの笑いを演じることについてこう言った。「女性のドタバタは見るにたえない。好きになれない」「レディが、その才能を卑俗な笑いにおとしめるのを見ていられない。どうしてもダメなんだ」
Asked Thursday if he had changed his mind at all because of performers like Melissa McCarthy and Sarah Silverman, the 87-year-old Lewis said of women performing broad comedy: "I can't see women doing that. It bothers me."
"I cannot sit and watch a lady diminish her qualities to the lowest common denominator," he said. "I just can't do that."
これだけ読むと、あたかも、ジェリーが「女にコメディをやる資格などない」と言ってるような印象を受けます。
こういう刺激的な記事が配信されはじめると、世界中のメディアがとびつきます。インターネットで「cannes jerry lewis」と検索してみれば、いま世界のニュースのヘッドラインは、ほぼ全部がこれ。
新作映画のことも、この会見全体がどんなにおもしろかったかも、一切おかまいなし。観客のなかにフランスの偉大な道化師ピエール・エテがいて、ジェリーに心あたたまる献辞をささげたことなど、誰も報じない。
なら、実際にジェリーは、女芸人について何を言ったのか?
上にリンクしたカンヌ映画祭公式サイトの動画で、37分25秒あたりから質問者の発言が始まります。ジェリーの答えは37分39秒あたりから。
完璧にとはいきませんが、今後のためにも、ジェリーの答えの部分をすべて、聞き取りだけで訳しておきます。誤りがあったら、ぜひともご指摘ください。
女性がコメディをやること自体はいいんだ。ただ、そのコメディの能力を、ひとつのコンテクストに狭めて演じようとするのはイヤだ。ステージで、自分のネタとして、こういうことや、こんなことをやって(*低俗な下ネタを表すジェスチャーをして見せる)、それをやることがドタバタコメディというものだ、みたいなパフォーマンスを女性がするのは、正視にたえない。生理的にダメなんだ。誰だって、生理的にうけつけない役者というのは、男女関係なくいるはずだ。それと同じことだよ。レディが、その才能を卑俗な笑いにおとしめるのを、私は見ていられない。どうしてもダメなんだ。
People doing comedy that are females is one thing. But when the female takes that ability and puts it into a single context…They are own on a stage doing this and that trying to capture the very basis of what broad comedy is. And I can't see women doing that. It bothers me. Just as I'm sure you see an actor or an actress that annoys you, and you have no idea why. But I cannot sit and watch a lady diminish her qualities to the lowest common denominator. I just can't do that.
・・・と、いうことです。
さっきの記事とくらべて、印象は変わったでしょうか?
わたしは、これを受けとる日本のメディアについても、ちょっとイヤな予感がしてる。こういう記事は、あっというまに日本に入ってきます。検証も何もされないままに。
ジェリー・ルイスがカンヌ入りした意味も、彼の最新作が公開される意義も、ジェリー・ルイスとは何者かということも、ひとつも、ひっっっとつも、伝えはしないのに!
さっき検索したら、さっそくこのニュースをツイッターでとりあげている業界人がいました。ジェリーを女性差別者かなにかのように“非難”するツイートをしている。
彼女は、ジェリー・ルイスが何者かを知ってるのか?『キング・オブ・コメディ』以外のジェリー・ルイスの映画を、1本でも観たことがあるのか?彼がさんざんアメリカでメディアにコケにされ続けてるということを、知ってるのか?
ジェリーが自身の監督作で、どんなふうに女性を描いてきたかを、すこしでも知っていれば、彼を性差別者などと呼ぶことはできないはずです。
彼は女性を、知性も理性もある、男性と対等な、一個の自立した人格として描きつづけました。
ジェリーのヒロインたちは、ヒーローの助けを待つだけのお人形ではない。これは、良妻賢母の観念がひろまった50年代以降のアメリカでは、きわめて異例だったと思う。
・・・とか何とかいうことは、いずれあらためて、作品をとりあげながら書く機会もあるでしょうが、ともかく。
ジェリーの考え方には、もちろん、さまざまな意見が出るでしょう。ただ、絶対にメディアを介してでなく、直接ジェリーの口から聞いた言葉をふまえて、考えてもらいたいのです。
わたし自身は、基本的に、ジェリーと同意見です。しかし、これが、女芸人が良いか悪いかといった単純な問いじゃないのは、ジェリーの発言をよく読めばすぐわかることです。低俗な下ネタを低俗に演じる芸人は、男だろうと女だろうと、正視にたえないのは同じでしょう・・・
今後、日本のエンタメニュースでも、この話題がとりあげられそうな予感がするので、先にまとめておきました。
名前もよく存じ上げなくて作品も見たこともないんですけど、おっしゃりたいことはよくわかった・・・つもりです^^;
ゴシップって、こんな風に短絡的に意図的に、歪められて伝えられるものなんですね。
女性を大切に思ってるからこその発言だと感じました。
キングオブコメディ見てみようと思います。
本当に仰る通り、マスコミは短絡的なものだなと改めて感じました。
わたしはどうしてもジェリーのファンなので、こうして必死で反論することもできますが(笑)
よく知らない人のことだったら、多分自分もゴシップをすぐ受け入れちゃってるんだろうな~と、
あらためて反省もしてしまいました。
>女性を大切に思ってるからこその発言だと感じました
そう言っていただけて、ほんとうにうれしいです!!
わたしもそう感じます。
今の風潮、特に欧米が、男女同権にものすごくやかましいので、
「女だから…」みたいな発言をちょっとでもすると噛み付かれるのでしょうかね。
「キング・オブ・コメディ」ぜひ!
ジェリーは出演だけなんですけど、デ・ニーロがすごく良いし、
普通におもしろい映画ですよ。
ジェリーの監督作ならやっぱり『底抜け大学教授』が傑作でしょうか~
彼の古い映画のDVDがいまアマゾンですっごい割引されてますね。
わたしも一枚買いました。
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%81%AE%E5%BA%95%E6%8A%9C%E3%81%91%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E6%95%99%E6%8E%88-DVD-%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%82%A4%E3%82%B9/dp/B000GIXGKW/ref=sr_1_13?s=dvd&ie=UTF8&qid=1369531548&sr=1-13&keywords=%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%82%A4%E3%82%B9
見てみようと思っていただけたこと自体、もう本当にうれしいです^^
筋ジストロフィーのテレソンでのジェリーの行動もアメリカ人は知らないですかね。ノーベル平和賞にもノミネートされた偉大な人物ですよ。
87歳という高齢なジェリーが、映画にカムバックした素晴らしい出来事をアメリカメディアは全世界に対して発信し、誇りに思うべきです。
ファンとして、とりわけジェリーの知名度がゼロに近い日本のファンとして、
予防線をはっておく必要を感じたので、書いてみました。
冷静に書いたつもりでしたけど、やっぱりムカッ腹たってるのは隠しきれませんね(笑)
MDAテレソン、わたしはまだちゃんと見たことがないんです。
これまたアメリカではいろいろ言われてるらしいですが・・・
でも、ジェリーの降板が決まった時に、たくさんのファンが怒ってたのはうれしかったです。
MDA側がジェリーをクビにしたようなものでしたものね。
>アメリカメディアは全世界に対して発信し、誇りに思うべき
まったくその通りです。
アメリカ人にとっちゃジェリーは国宝ものですよね!
なぜもっと大事にしないのか、理解に苦しみます。
私の知っているジェリー・ルイスは毎年のMDAでのホストでした。毎年頑張っていて、毎年TVでは好感をもって放映されていたように感じていました。またジェリー・ルイスに関してもコメディアンのインタビューなどでは彼を崇拝する人の声などを聞いていたので、このエントリーを読んでびっくりしました。
最近の米国ではティナ・フェイを始めとして優れた女性コメディアンが出ているので、女性のことを悪く言えないPCがあると思います。でもそのプロトコールに沿って「え~~、最近は素晴らしい女性が増えて来ました」なんて言うのは、ジェリー・ルイス側から見るとコメディアンとして野暮でできないんでしょうね。
現状は全然知らず単なる憶測ですが、メディアには「やつはもう歳、終わり。」というナレティブがあって最初からそれをあてはめているような気もします。
Peter Howellの記事自体はそれほど悪くもなかったと思ったのですが、最近のインターネットメディアではソースを記さず、勝手な解釈で面白おかしく切り貼り引用をする傾向がドンドン高くなっていますよね。メディアが玉石混合になって混乱していると思います。
ところで、ファイアーさんコメントを書き込まれたのですね。返答がないのが残念です。
更新してなくて、ごめんなさいね。
>(MDA)毎年頑張っていて、毎年TVでは好感をもって放映されていたように感じていました
そうなんですか。それを聞いてうれしいです。
テレソンを見たことがないので、もしかしたらこの活動もバッシングの一因なのかと
勝手に想像してたので・・・
昨年、ジェリーがMCから降板した(させられた)のには、同情や反発の声が出てましたね。
>そのプロトコールに沿って「え~~、最近は素晴らしい女性が増えて来ました」
>なんて…コメディアンとして野暮
仰る通りでしょうね。
特にジェリーは、世間におもねって心にもないお世辞を言う人ではないと思います。
そういう姿勢がegoisticと映るのかもしれないけれど、
ただ正直なだけなんだと、わたしは思うんですよ。
又聞きでしかないのですけど、ジェリー批判は70年代から始まったそうです。
70年代のバッシングは本当にひどかったそうです。
そんな中でもフランス(ヨーロッパ)だけはジェリーを応援しつづけてますが、
またそのことをアメリカメディアはバカにするんですね。
Why the French Love Jerry Lewisという本まであります。
この本自体は真面目な映画論のようですが(未読です)。
http://www.amazon.com/Why-French-Love-Jerry-Lewis/dp/0804738939
女性コメディアンに話が戻すと、ジェリーは女性芸人全否定じゃないですよね、当たり前ですけど。
つい先日も、彼がキャロル・バーネットを絶賛する映像を見つけました。
http://www.youtube.com/watch?v=JtfOcO9vj0c
すばらしいインタビューです。
>メディアが玉石混合になって混乱している
ほんとにそうですね。
受け手側も、ツイッターやフェイスブックの影響なのか、
瞬発的に反応してしまうんで、デマでもなんでもすぐ拡散するんですね。
自分自身、十分注意しようとは思ってるんですけどね・・・
もっと、言うたれ、怒ったれ!!!
( `ー´)ノ
これが怒らずにおられるか、ってんだコラァ!!(笑)