漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

【麕至】の標準回答

2016-02-12 20:02:26 | 雑記
 さきほど帰宅すると、27-3 の標準回答が届いていました。昨日記事にした【麕至】の読みはというと・・・

 「くんし」 「きんし」 どちらでも可

というものでした。19-1 で出題された時と同じですので予想通りと言えば予想通りですが、意図してのことかどうかは不明ながら、19-1 では「きんし」「くんし」の順だったのが、今回は「くんし」「きんし」の順になっています。本来は「くんし」であるとの「辞典 第二版」の記載をベースとしつつ、「きんし」も許容する、との主旨なのかもしれませんね。

 取り急ぎご報告まで。

【麕至】

2016-02-12 01:10:15 | 雑記
 先日の 27-3 で、【麕至】 の音読みが出題されました。この問題の正解が「くんし」のみか、「くんし」「きんし」いずれでも可かということが syuusyuu さんのブログ で話題になっています。私なりに少し調べて「こういうことなのかな」との思いに至りましたので、整理して書いてみます。


 ことの発端は、「漢検 漢字辞典」第二版に 【麕】 は意味によって音を読み分ける旨の記載があり、また 【麕至】 が見出し語に採用(初版にはありません。第二版での新たな記載です。)されて読みは「くんし」のみとなっているということでした。しかしながらその一方で、この熟語は 19-1 で出題済の過去問であり、その時の標準解答では「きんし/くんし」どちらでも正解とされています。そこで、果たして今回この問題に 「きんし」 と解答したら正解とされるのかどうか、またそもそもどうしてこんなことになっているのかが話題になっているという訳です。(ついでですが、まったく同じことは 【麕集】 でも生じていまして、「辞典」第二版では見出し語でこそないものの、小さい活字で「麕集(クンシュウ)」 と記載されています。一方でこの 【麕集】 も 22-1 で出題されており、その際の標準解答は「きんしゅう/くんしゅう」 どちらでも可となっています。)

 まあ、本試験での正誤に関して今回どのような扱いがされるのかは、標準解答や正式結果が出ればわかることなのでそちらを待つとして、どうしてこのようなことが生じているのかを、「大漢和辞典」の記載から推測してみます。

 漢検では、正字である 【麕】 に加えて、 (以下では「鹿+禾」と記載) が異体字(許容字体)とされています。この2つの字を「大漢和辞典」で調べてみたところ、概要、以下のように記載されていました。


【麕】
 音 : キン
 【(鹿+禾)】 に同じ。
 【麕至】=キンシ

【(鹿+禾)】
 音 : キン、コン、クン、グン
 (「のろ」の意では「キン、コン、クン」、「むらがる」の意では「クン、グン」)
 【(鹿+禾)至】=グンシ

 ここから推測するに、【麕】の項に「【(鹿+禾)】 に同じ」との記載があることから、両者は意味の上では同義のものとして使われていたものの、【麕】 には「キン」との読みしかなく、従って同じ意味の熟語ではあっても、【麕至】は「キンシ」、【(鹿+禾)至】は「クンシ(グンシ)」と、異なる音で読まれていたのではないでしょうか。つまりこの2つの漢字は、正字-異体字の関係とは言っても、もともと音が異なっていたのではないかと思います。それが明確に「正字と異体字」、つまりどちらの漢字を用いても良い(=音訓は共通のものとせざるをえない)との扱いとされたがために、こうした問題が生じたのではないでしょうか。

 以上の推測がもし正しいとするなら、現代において 【麕至】 を「きんし/くんし」どちらで読むべきかは、一概にどちらであるべきとは言えず、両方の考え方が成り立つことになると思います。もともと読みが違っていたのなら、たとえ意味は同じでも違う漢字として扱い続けていればこんなことはおきなかったのかもしれません。しかしこれも長い長い間に人々が「同じ意味の違う漢字」ではなく「同じ漢字の違う書き方」として認識するようになったということだとすれば、あとから理屈や合理性で考えてはいけないのでしょう。



 以上、勝手な推測をつらつらと書きましたが、私の推測が正しいかどうかは別として、このようなことを調べたり考えたりしていると、時間がたつのを忘れます。なかなか楽しい休日を過ごせました。 ^^