楕円と円 By I.SATO

人生も自転車も下りが最高!
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『JR上野駅公園口』

2020年11月20日 | 日記

柳美里という作家の本を読んだことはないし、この度、アメリカの有名な文学賞を受賞するまで芥川賞作家であることも知らなかった。何故か分からないが、何十年ぶりかで賞を取った本を直ぐに読んでみたくなった。2014年の『JR上野駅公園口』という小説だ。

 

主人公は福島から出稼ぎで上京してきて路上生活者になった男。

時代は1964年東京オリンピックの前年なので中学3年の頃だ。上野駅は鉄道華やかなりし時代の東北、北海道の玄関口だった。

 

当時のことを振り返ると、中学校を卒業して集団就職で上京する仲間がクラスの3分の1はいた。彼らは夜汽車に揺られて上野駅に着き、そこからまた乗り継いで中京方面の紡績工場に向かう女子もいた。「金の卵」ともてはやされ経済成長の始まりを担った。

 

今、上野界隈には公園に美術館や芸術大学、コンサート会場があったりして、仕事や私用で上京の折によくぶらりと歩いた。

ある暑い昼下がり、『JR上野駅公園』から上野公園方向に歩いた時のこと、綺麗に掃除された陸橋の白い広い道で、路上生活者らしきじっと考え事をしている老人、分厚い本を読んでいる青年を見かけたことがあった。

 

また、ある夕方には、公園で炊き出しに並ぶ日雇い労働者の列の傍を通りかかったことがあった。岡林信康のフォークの一節が聞こえてくるようだった。

 

1964年東京オリンピックの時に、路上生活者は強制的に排除されたことを何かの映像で知っている。

 

そして、脳裏に焼き付いているのは学生時代に駅構内で若い女性が一見でヤクザと分かる男に連れ戻される映画のようなシーンだ。やっと辿り着いた故郷の入り口にまさに手が掛かったときのように感じたが、何も出来ない傍観者でしかなかった。

 

上野界隈は綺麗な街だけれど昔のJR上野駅はどことなくどんよりした重たい空気が漂っていた。後になって、故郷に帰りたくても帰れない人達の思いも沈んでいたのかと思うようになった。

 

「世の中には“中心と隅”がある。隅に追いやられるということを書きたかった」作者の言葉だ。

小説でどんな風に地方と都会、希望と失望の交差が描かれているのだろうか。

Amazonで検索してみたら、在庫切れで入荷の予定は立っていない。なおのこと早く読んでみたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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