Dr. Mori Without Borders / Mori-san Sans Frontieres

森 一仁が医学・国際政治経済金融・人文教養教育など関心問題を国際的・学際的に考える。

筋緊張の生理学

2008-04-23 09:53:00 | 基礎生命医科学:基礎医学・生物科学
人間は肩が凝る。もっと詳しく言えば異文化間精神医学を援用して、日本人に肩こりが多いと言うべきなのかも知れない。肩こりや緊張性頭痛にあって、筋肉の強張りが中核症状となる。筋肉の強張りとは持続性の筋緊張であろう。では緊張とはなにか?

筋緊張はそもそも心理的緊張が起こす現象であって、精神的緊張の身体的表現型であろう。ここで肩こりの影響を受けやすい肩甲挙筋や僧帽筋といった筋肉は骨格筋であって平滑筋でないところからすると、これは自律神経系支配ではなくて一般の運動動作に用いられる運動神経支配の方が優位であろう。このことを考えると「錐体路系」と言ういわゆる「随意運動」の経路が活性化されているに違いない。

「精神的緊張」が骨格筋の持続的収縮を促すのであれば、これは「随意運動」であろうか?意識的に精神的緊張を起こし続ける人はおそらく常識的には少ないだろう。言い換えれば精神的緊張は至極無意識的なものであると思われる。よしんば精神的緊張を意識したとしても、それは意識的に制御可能なものではない。もしも制御可能であれば、いまごろ第三者から与えられる精神療法や抗不安薬は要らないはずである。自己制御が難しいからこそ第三者の援助を必要とするのである。こうしたものが随意運動であるとは到底言えないであろう。

ここまで見てきて精神的緊張は無意識の次元に属するものであると思う。無意識の次元の現象であれば自律神経系を介した恒常性機能に影響を及ぼす筈であろうが、錐体路系を介した随意運動の系統に影響を及ぼして骨格筋の持続的収縮を促すあたりが何とも不思議である。

筋緊張が随意運動の機構である骨格筋に影響を及ぼすのであれば、一般の骨格筋は随意運動の系の一部であるばかりではなく、不随意運動の系統でもある事になる。以前は「錐体外路系」と呼ばれたメカニズムが実は「大脳基底核ループ神経回路」として「錐体路」を補佐する仕組みとして理解されつつある事を考えると、逆に錐体路系は随意運動の系のみならず、無意識に属する精神的緊張を外部表出可能な構造としても理解されよう。

さらに考察すると、筋緊張の行動における生存価を比較行動学的に考えたくなるのは自明である。この場合はおそらく精神的緊張が自律神経系を介して血管収縮を促す事によって他の存在から攻撃を受けた場合の出血量を少なくするとかが考えられるが、それならば逃げ脚を考えて、下肢に血流配分をするとか出来なかったものか?

精神的緊張が筋緊張を通じて意識の次元も随意運動の系統をも邪魔するのはなかなか厄介である。

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