Dr. Mori Without Borders / Mori-san Sans Frontieres

森 一仁が医学・国際政治経済金融・人文教養教育など関心問題を国際的・学際的に考える。

脳研究のライオン、時実先生 ~脳を見つめて~

2008-01-07 03:35:48 | 基礎生命医科学:基礎医学・生物科学
忘れかけていた事を思い出した。時実先生と言えば「脳研究のライオン」と呼ばれた大先生である。東大医学部をご卒業となり、同大脳研究施設のみならず、日本の脳研究、わけても生理学系統の黎明期を引っ張ってきた神経生理学徒の大先輩である。しかし私はこの「脳研究のライオン」の意味をいま一つ取り違えていたらしい。

愚かな私は「おはようからおやすみまで脳を見つめている」に違いないと思っていたのである。大々先輩も今頃お怒りに違いない。確かに先生は偉大な生理学者であるから脳機能について四六時中考えておられたに違いない。まだ大脳生理学と言う言葉が通用していた時代の事である。人間精神を説明する時に各半球ごとの意識の分離の問題や、進化の過程(系統発生)を考えながら魚類脳とか爬虫類脳とか、はたまたその先の類人猿脳とか、まだロマンが残っていた頃の神経生理学である。

かつて学問は労働では無く、聖職であった。学問が9時-5時の賃金労働になり、業績重視になったのはいつの頃からか。聖職であるならば学問には昼夜は無関係だった。となると、やっぱり神経生理学者、いや大脳生理学者たるものおはようからおやすみまで脳を見つめていたに違いない。もっとも、生物に多様性あり、地球広しと言えども自分の脳だけは観察出来ないのであるが。

点数や業績や統計データと無関係な頃の学問や、ものの見方・考え方はどこかに無いものかと考えあぐねていたら、症例検討会で臨床精神科医の先生が見事にそれを披露されていてわたしは脱帽した。あたかも植物を育てているかのような臨床技法にこの先生の奥の深さと懐の大きさを感じ取った。

記述科学のロマンを求めながらも、性急にクリアカットな結論を求める私はいったいどこへ辿り着けば良いのか。質的研究ならコンビネーションだが、社会科学は別として医療なら看護研究で多用される手法である。個別科学の領域として考えるならやはり看護学と密接な関係を保ち続ける精神医学の領域となってしまう。計らずも、実は精神医学・行動科学の系統に嵌っていたのであろうか?

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