団塊太郎の徒然草

つれづれなるままに日ぐらし

:「節電の夏」が映し出す日本経済の柔軟性、成長率引き上げのヒントに

2011-07-04 20:30:36 | 日記

今年は6月末から真夏を思わせる猛暑の日数が多く、ビールや清涼飲料、アイスクリームの販売増加が目立ってくると予想される。こうした例年の猛暑型の売れ筋商品だけでなく、節電タイプのエアコンや電気代の安い扇風機、江戸時代からある団扇(うちわ)、夜に窓を開けている時間が長くなり利用が増えている殺虫剤や蚊取り線香など、「節電の夏」の恩恵で販売量を伸ばしている商品も多い。社会の変化をビジネスチャンスと捉え、売り上げを伸ばしていく才覚。デフレ下で元気の出なかった日本では、久しくみかけなかった企業家精神がよみがえりつつある、と思うのは私だけだろうか。 

 第一生命経済研究所・主席エコノミストの熊野英生氏は、足元で起きている現象について「節電で製造業の生産水準が落ちないのであれば、節電によるコスト削減効果が企業収益のサポートになる。節電によるコスト削減がさらに進化していけば、日本企業の競争力強化に役立つことになる」と述べる。外的環境の変化をビジネスチャンスとして取り込む柔軟さが、日本企業の強みをさらに磨くことにつながるだろうと指摘している。  

 

[東京 4日 ロイター] 政府が1日から東京電力(9501.T: 株価, ニュース, レポート)と東北電力(9506.T: 株価, ニュース, レポート)管内で発動した電力使用制限令に対し、「節電の夏」にはマイナスが多いという報道が多いが、企業のコスト削減に直結し、日本経済全体にとっても柔軟性(フレキシビリティ)の向上に結び付く動きが垣間見える。 

 そこには宿痾(しゅくあ)ともいうべき日本の潜在成長率の低下に歯止めをかけるヒントが潜んでいるのではないだろうか。

 

 <15%節電でコスト削減>

 

 自動車や電機メーカーが同日から休日出勤態勢をスタートさせる一方、私鉄の一部は7月から急きょ、日曜日にも平日ダイヤを組んで休日出勤への対応を始めた。電力需給のひっ迫を受け、日本社会が全体で大がかりな取り組みを始める中、新聞・テレビなど各メディアでは「節電で大変」という部分が強調されている報道が多い。しかし、視点を少し変えると、もう一つの「節電効果」が見えてくる。

 

 企業は15%の節電を実行することで、電気代のコストが15%削減できる。この先、原子力発電の稼働率が下がり、短期的に火力発電の比重を高めて対応すると10%以上の電気料金値上げの可能性があるとの試算も一部で行われ、製造業の生産拠点の海外流出の大きな要因として意識されているが、もし、この夏の電気代が15%削減できるなら、その経済的なインパクトは無視できない規模に上ると言えるだろう。夏場に限定せず、通年で電気代のコストを15%削減しつつ、生産への影響が出ないシステムが完成すれば、日本の企業にとって国際競争力を中期的に高める要素として、世界中から注目されることになると予想する。

 

 <実質的に広がるサマータイム制>

 

 また、政府が何十年も前から検討しながら実施できないサマータイム制も実現しつつある。主要企業による自発的な導入で、実質的にサマータイム制が企業社会のかなりの範囲で実行に移される、という過去に例のない大きな社会的変化を生み出している。一部の私鉄は始発電車の時刻を繰り上げ、主要企業の中には午後4時で就業を打ち切り、社員を退社させているところもある。この変化を商機とみて、夕方のビジネスを強化する飲食店やカルチャーセンターなどの取り組みも出てきている。

 <迅速性で後手に回る日本企業> 

 

 日本の潜在成長率は、3月の東日本大震災後に1%を割り込んだのではないかと一部で試算されている。潜在成長率の低下を加速させている最大の要因は少子高齢化の進行というのが一般的な見方だが、もうひとつ重要な理由として忘れてならないのは、多くの日本企業がイノベーションへの意欲を失ってきた、という点だろう。大震災による劇的な環境変化が、眠っていた日本企業の才覚を呼び覚まし、変化を新しい商機に結びつけるバイタリティが復活する。それが潜在成長率低下の基調を反転させるきっかけになるのではないか。 

 

 もちろん、その実現は容易ではない。公式なデータがまとまる段階ではないようだが、被災地の仮設住宅の資材をめぐって、あるアジアの国の企業が大量に受注し、一部の国内勢がそのしわ寄せを受けているようだ。また、節電の決め手と言われているLED照明では、安価な製品は海外勢がシェアを急拡大させていると言われ、国内メーカーを困惑させているという。明暗を分けたのは、最終消費者のニーズを正確に把握し、いかに早く対応できるのか、という点だったと指摘したい。変化への緩慢な対応という日本病は、政府から企業へと伝染しているように見える。

 大震災の発生以来、日本企業の現場力ばかりが注目されてきたが、変化に対応するバイタリティも決して死滅していたわけではないことが明らかになりつつある。日本企業の柔軟性や潜在的な活力の強さが「節電対応力」の形で世界に注目されれば、日本の株式市場にも世界のマネーを呼び寄せる強い磁力がよみがえるかもしれない。 

 

*筆者はロイターのコラムニスト田巻 一彦 です。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。


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