団塊太郎の徒然草

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サムスンとアップルの知財裁判から日本が学ぶ新興勢力を封じる知財戦略

2012-11-02 19:51:12 | 日記
サムスンとアップルの知財裁判から日本企業がもっとも感じ取らなければいけないことは何か。それは、サムスンなど新興勢力は権利行使されない(=権利者が何も言ってこない)知財は黙って使っても良いと思っていることである。知財は、企業間競争において自社の強みを独占するための直接的な武器になるが、知財を使うには戦略が必要だ。戦略が下手な場合、効果がないどころか、むしろマイナスになる。

 10年ほど前までは日本企業の特許出願部隊は、互いに競いあって日本を中心に出願をしておけばそれでよかった。日本国内の出願競争がそのまま世界での競争に直結していたことと、出願さえしておけば他の企業が使うときには気がついて連絡をしてくるというビジネスマナーが日米欧で確立していたためである。そのため出願件数を増やすことが知財戦略として通用した。

 しかし、力をつけた新興勢力は、事前に何もいってこないことが多い。それにもかかわらず、日本の権利者は大量の特許出願を繰り返しながらひたすら申し入れを待っている。これはお行儀が良すぎる。新興勢力は権利行使されない知財は黙って使ってもいいことを学んでいる。

 電機業界では日本の主要な各社がそれぞれ1万件前後の日本出願をしているが、これは各社の技術を互いに窮屈にさせ、回避のための研究開発費をどんどん増やす。ある日本企業は5000件の日本特許出願をする一方で、新興国には同じ内容の出願を300件しか出していない。日本のライバル企業は5000件に触れないようにするため研究開発費が膨大になり技術が窮屈になる一方で、新興国企業は自国では300件を回避し残りの4700件を技術情報として参考にして製品をつくり、その日本企業が出願をしていないアフリカに輸出して、市場を奪う。つくり話ではなく現実にそれがおきている。新興国企業は今まで出遅れた分、戦略的に行動するからである。

行使して意味を持つ知財

 サムスンとアップルの裁判をみても、サムスンはアップルに対して事前にライセンスの申し入れはしていない。裁判の結果を待つまでもなく真似をしているのは素人目にもあきらかであり、彼らは今アップルの権利行使により、他社の知財を使うときはビジネスマナーとして申し入れをすべしというレッスンをあらためて受けている。

60年ほど前は日本企業が新興勢力として欧米企業からレッスンを受けたが、それでも日本は戦時中でさえ零戦のプロペラのライセンス料を米国の企業に支払いながら戦ったという話があるぐらい、元々ビジネスマナーを重視する傾向が強い。それは良さであるが、今、新興勢力に同じことを期待して座して待つのは戦略ではない。今、日本企業の知財戦略の転換はどうあるべきか。

 例えば以下のシフトは意味がある。権利行使を知財活動の中心にすえる。それに役立つものだけを出願する。権利行使をうまく行うことによって日本企業の持つ膨大な知財が生きる。特に大学、公的研究機関、中小企業の海外の知財は黙って使っても、どうせ市場を見ていないから権利行使してこない、と見透かされている。もし黙って使おうとするのが彼らの戦略なら、こちらは権利行使をする戦略をとらなければいけない。大学のように海外で自分の権利のフォローができない場合には、代行するというビジネスチャンスも新たに生まれる。

 現在ストックとして多すぎる日本の中での知財を日本企業同士で相互に利用しやすくするため標準にからめる戦略も意味がある。知財による独占と標準による共用は戦略として同次元で考えなければいけないことは論を俟たない。


◆WEDGE2012年11月号より


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