「二千七百の夏と冬 (上) (下)」 荻原浩 双葉社 2014.6.22
ダム建設工事の作業中に、縄文人男性と弥生人女性の人骨が発見された。
二体はしっかりと手を重ね、互いに顔を向けあった姿だった。
三千年近く前、この男女に一体どんなドラマがあったのか。
新聞記者の佐藤香揶は次第にこの謎にのめりこんでいく。
紀元前七世紀、東日本ーーピナイ(谷の村)に住むウルクは15歳。
野に獣を追い、木の実を集め、天の神に感謝を捧げる日々を送っている。
近頃ピナイは、海渡りたちがもたらした神の実"コーミー"の噂でもちきりだ。
だがそれは「災いをもたらす」と囁かれてもいた。
そんなある日、ウルクはカヒィという名の不思議な少女と出会う。
禁断の地に入り、ムラの掟を破ったウルクは村を追い出され、
やがて行き着いたのはカヒィの住むフジミクニだった。
クニではタァでコーミー(米)が栽培され、イー(猪)が飼われていた。
危険を冒さず、苦労もせずに肉を手に入れる方法を考え出したのだから、のんびり暮らせばいいのに、ここの人間は誰もがいつも忙しそうに仕事をしている。
ウルクには、このクニの人間は面倒事が好きで、自分たちで勝手にそれを増やしているふうに見える。一人が何かをし出すと、なんとなくみんながそれに従うところは、囲いの中のイーとさして変わらない。
よくぞ考えたと思う言葉がたくさんあった!
ピナイの言葉に添えられたルビが面白い。
生肉と焼き肝ーーぜいたく
鳥の巣に卵ーーたぶん
神の決めた日和ーーこんにちは
巣に卵戻スーーすまない
鼻曲がり(シャケ)の卵の数ーーかぞえきれないほど
ピナイとフジミクニの言葉も異なる。
イー ーー シシ
カァー ーー シシカ
ヌペ ーー ドグリ
ヤム ーー クリ
ウルクにフジミクニの言葉「イクサ」の意味を問われたナヅラは、
人間が弓を持っている姿の絵を指し示す。
「狩りか?」「喧嘩か?」
ナヅラは首をかしげて言う。
「※※※※ワウ(王)※※※イクサ※※※ピナイ※※※」
人を人が狩ることか?
やはりウルクにはうまく理解できなかった。
定住し、富と権力が集中し、格差が生まれる……
支配した者たちに縛りをかけ、
手にいれた権威や財を身内に継承させようとする……
人のサガなのかーー。
借りたものの、しばらく放っていたが、
読み出したら一気。