ま、いいか

日々の徒然を思いつくままに。

「海賊とよばれた男 上・下」「闇の喇叭」「もどり橋」

2012-10-11 10:10:36 | 
「海賊とよばれた男」 百田尚樹 講談社 2012.7.11

 石油元売会社出光興産の創業者、 出光 佐三のドキュメント小説。
 (いでみつ さぞう、 1885年8月22日 - 1981年3月7日)
 
 小説の中では国岡鐡造。
 政治家や官僚などは、実名が多いと思われる。

 10代の頃、出光だけが他の石油会社と違うと聞いた記憶がある。
 株を公開せず、労組もないと。

 国岡商店では社員を家族同様に扱い、社員がそれに応える。
 タイムカードも定年もないという。
 終戦時、取り敢えずの仕事がないにも関わらず、一人も馘首せず雇い続けたという。
 小説にあるように、出光の社員は驚くほど働いたのだろうな。

 敗戦後、日本の石油エネルギーを牛耳ったのは、巨大国際石油資本「メジャー」たちだった。
 日系石油会社は次々とメジャーに蹂躙される。
 一方、世界一の埋蔵量を誇る油田をメジャーのひとつアングロ・イラニアン社(現BP社)に
 支配されていたイランは、国有化を宣言したため国際的に孤立、経済封鎖で追いつめられる。
 1953年春、極秘裏に一隻の日本のタンカーが神戸港を出港した。

 それ以前、イギリスに拿捕され、積荷の石油を奪われる判決がおりた事件があった。
 契約していた海運会社に突然断られ、自社のタンカー日章丸を赴かせることにしたのだった。
 イギリスに拿捕どころか、狙撃されるかもしれない。
 すべて、秘密裏に運ばなくてはいけないが、
 帰路は世界中が知ることとなる。
 
 待ち構えるイギリス海軍の目をかいくぐり、ホルムズ海峡封鎖を突破しなくてはならない。
 まさに命を賭けた航海に臨んだ日章丸だった。
 
 そうか、それが日章丸事件だったのか!!

 数々の包囲網をくぐりぬけて進む。
 精製された石油の輸入を制限されると、製油工場をつくる。
 徳山に作られた工場は世界初、環境を配慮したものだったと。
 冷戦下にあったソ連・バクー油田の原油を輸入したのも出光で
 これには池田隼人の思惑があったのだそうな。

 生涯の恩人、日田重太郎の存在がすべての基盤になっている。
 業を為そうとする鐡造に6000円の金をポンと渡した度量に畏れ入る。
 「国岡はんは、鍛冶屋や」
 「ふいごに火ぃ入れて、たたら吹きで槌をがんがん打つ鍛冶屋や。わしは、国岡はんが
  鉄床でどんな鍬や鋤を打つのかが見たかったんや」

 最後まで店主であった鐡造、
 五十周年を迎えたときの言葉は信念に満ちている。
 「五十年は長い時間であるが、私自身は自分の五十年を一言で言いあらわせる。
  すなわち、誘惑に迷わず、妥協を排し、人間尊重の信念を貫きとおした五十年であった、と」

 出光が政府や業界から目の敵にされる理由の一つが、
 他社のように官僚の天下りをいっさい受け入れなかったことだという。
 なるほど。

 昭和49年、アンドレ・マルローと対話したそうだ。
 出勤簿も組合も定年もない、国岡商店のありように驚いたマルローの問いに鐡造は答える。
 
 社員に対する信頼だと。  
 
 今現在、同様な経営方針で確実に業績をあげている企業があるという。
 図書館で購入してくれるようリクエスト中で、読むのが楽しみだ。
 


「闇の喇叭」 有栖川有栖  理論社 2010.6

 広島原爆投下のための最終実験が失敗したという設定。
 ソ連が北方領土を手に入れ、
 日本は北海道と、その南に分断された。

 結果、韓国の分断はない。

 本州以南の日本は、日之元共和国(というような名称だった)と名乗る
 北海道のスパイに鵜の目鷹の目で、男子は徴兵制となった。

 国家管理が進み方言は禁止、警察の裏をかくような探偵は国賊扱いとなる。
 探偵業が危うくなり、母は行方不明、
 父とともに母の実家の地に移った純は高校生。
 
 その田舎町に殺人事件が起こる。
 
 純と父の会話がよかった。(P181)
  人は、一度しか生きられんのや。
  せやから、自分に関わる問題を最優先にするのがええ。真剣にな。
  ――けど、自分に直接の関係がのうても大事な問題がたくさんあるやないの。
    そういうのは真剣に考えんでもええの?
  お前の言うのはわかる。もちろん、それも大事やぞ。せやけどな、他人の問題にばっかり
  飛びついて、自分の問題をあと回しにするのが立派かどうかは場合による。存在感を
  誇示したり、自分に酔うために他人の問題にこだわる人間もおるんや。そんな連中の中には
  自分が直面し、自分が解決に挑むべき問題をええかげんにあしらう。それ、真面目やないやろ。
  人生は一度だけやから、まずその一度を真剣に生きろ。


「もどり橋」 澤田ふじ子  中央公論社 1990.4.10

 懐かしい社名だ^^
 この小説も、以前読んだはずだが、読み進んでも思い出せない(^^;

 実に気持ちよく読んだ。
 やはり、ハッピーエンドというか、フワッと心地よくなるのがいい。

 真っ正直に、テキパキと気働きをする主人公・菊だが、
 年頃ゆえに悩みもするし、気落ちもする。
 それでも持ち前の前向きな姿が一貫して清々しい。

 ちやほやされて育ったがために増長して傲慢になり、
 やがては身を滅ぼす人物も登場するが
 みんな、普通の市井に生きる人々だ。

 一癖も二癖もあろうが、それは当たり前のこと。
 角突き合わせては生きてゆけない。

 澤田さんの作品は、いつも、
 生きていく上で大切なことをさりげなく著している。
コメント
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