カバーにクラーク遺作とあった。クラークとフレデリック・ポールの共作*
スリランカ。そう遠くない近未来。
(スマトラ沖の津波(2004年)や80年代の民族紛争が親の口から語られている)
寺院僧院長の息子ランジット・スーブラマニアンは幼い頃から数学に長けていた。
使用人の家族と一緒の船で海賊に拉致され、救われたりもしたが、
フェルマーの定理を証明し、名誉と富を手にし、AI学者のマイラを妻にしていた。
恩師ヴォルハーストはスカイフック(宇宙エレベーター)に携わり、
「研究費はあるところにはあるんですよ。研究対象が兵器だったりすればね」とこぼしながらも、
完成にこぎつけ、地上から軌道上、そして月の往き来も行われ、小規模ながら月の利用、植民も始まっていた。
娘ナターシャは月面での競技会、1/6Gでの“人力”飛行で優勝した。ソーラー・セイルは「太陽からの風」そのまま。
ジグソーパズル達人の弟ロバートはペントミノを超えヘキソミノ。
姪のエイダの名は、私は
ディファレンス・エンジンから辿るだけだが、
Wiki無しでもピンと来る人には、終盤でのキーパーソンとしたところに、作者の“粋”を感じるかもしれない。
宇宙エレベーターの時代になっても、世界は民族紛争、諍いが収まらない。
子どもの頃からの親友ガミニ・バンダラは父とともに国際的な平和維持活動に関わっている
○朝鮮はサイレント・サンダー/ワシントンからの遠隔操作のスティルス機/電磁爆発で完全武装解除・解体した。
いっぽう、
大気圏内核爆発の閃光(ビキニ環礁1946)が、宇宙の彼方でキャッチされていた。
とても危険な兆候だ。排除されなければならない。彼らは行動に移し地球にむかった。
(『前哨』『2001』コンタクトというより)
『楽園の泉』等を軸に、『幼年期の終わり』を焼き直した総集編だと思った。
『幼年期の終り』が'53年、『最終定理』が'08年。時差半世紀。
冷戦時代/核のバランスの時代と
ベルリンの壁が崩れ、ワールドトレードセンター・ツインタワーが崩れた現代と。
時差を読むのもs.f. 時代は彼らに追いついたのか?
クラークって文章や人物の掘り下げはないが、場面の“画”から拾う面白味がある
(科学技術というより、それを使う社会)。考えるネタ。
スナイパーの仕事だけでなく、背景の社会デテール拾えるゴルゴ13に似ているかもしれない。
先の、無血武装解除兵器Silent Thunder。作品年代が下るほどに妙なリアリティみたいなものを感じる。
『幼年期』('52)オーバーロードの超常的な能力、『トリガー』('99)の強引だけど想像しうる科学、
今日日の遠隔操作ハッキングやら、無人爆撃ロボットって並べてみると。その是非も思い浮かぶ。
また、ストーリーと文章、わりと行儀イイんだけど、マグニチュード10('96)あたりから、
テロ・暴動という記述のリアリティが出てきた。『幼年期』では観念的にしか浮かばなかったもの。
米中露Big 3、(国連とは別の)平和維持活動機関、文中にもあるが、
ビッグ・ブラザー(notダディ)/『1984』かぶせてニアミスさせているし、
来訪者を前に、周りを差し置いて宣言するアメリカ(ギャグっぽく見えたが^^)
覇権国家の思い上がりというか、現実もたぶん似たり寄ったりに思えた。
ずっとまえ、クラークを書いていたログ仲間に、20世紀の大木を失ったとコメントしたら、
(クラークの)人類に対する憐れみを感じたと、レスされた。
なるほど、そうかもしれない。
科学技術以前に使う方が問題だ。
2013年の今日、冷戦どころか、『1984』目指してる政治屋いるし。
クラークの未来(技術・理念)が必ずしもバラ色とは限らない。
それでも、『最終定理』私たちに残した宿題なのだと思う
遥かなる地平への。
*
クラークはsf・科学ライターだしテーマは(科学)技術と社会のビジョン。主眼は人物の掘り下げでない。
プロット・描写はわりとシンプルでワンパターン。
細かいバリエーションはあるが、まあ、太い幹みたいなもの(だから、読むほどにデジャヴ感じる)。
『宇宙のランデヴー』あたりから、さまざまな人と共作し、共作相手の色、ストーリー・人物のふくらみが出てきた。
本書は骨組みはクラーク、ペンはポールなので、私はクラークで読んだ(“らしくないところ”はポールなのだろう)
ついでながら、エンタメ進化のアメリカに比べ、イギリスはわりと思弁的。
H.G.WellsとかO.Stapledonとかの流れがあって、クラークもその流れを汲んでいる(私感)
(もちろん、ハックスリーやオーウェルの境界線的な作品も)。
アーサー・C・クラーク 1917/12/16 - 2008/3/19(90歳)
フレッド・ポール 1919/11/26 - 2013/9/2(93歳)