パーカーのボールペン

　１３年前に亡くなった父は、特に筆記具へのこだわりがあり、モンブランやシェーファー、パーカー等のボールペンや万年筆を買い揃えていました。

　私がまだ大学生だった頃、店でバイトしていた時だったと思います。父に呼ばれ『重さといい、質感、ボールのすべり、ボールペンではこれが一番使い易いんだよな』と言い、目の前でスラスラと試書きをしてサッと私にくれたのがパーカーのボールペンでした。形見となってしまってからは、無くしてもいけないとあまり持ち歩く事は無く、大事な取引や、会議や講習会でしか使う事はありませんでした。

　ところが５年ほど前に紛失して、ショックではありましたが『そのうちに出てくるだろう』と、いつの間に無くした事すら忘れていました。

　リサイクルショップを始めてからスーツを着る事も少なくなり、冠婚葬祭用と春夏用と秋冬用を各２着決まった物しか着ていませんでした。先日、スーツを着なければならない商談があり、暑い日だったので夏用の１着を見ると、虫穴がありました。もう１つの夏用は折ジワが強く残って、少々古い物を着る事にしました。驚く事というか、喜ぶべき事に、その内ポケットから父の形見のパーカーのボールペンが出てきたのです。素材に銀が入っていた為サビというかカビというのか、すすけて真っ黒になっていました。研磨剤や洗剤を使って磨ききれいにし、ノッキングの動きが悪かったので、潤滑スプレーを使って、多少スムーズに動く様になりました。たかがボールペンでも感覚的に憶えている　もので、指にシックリとなじみ、書き心地も昔のままでした。

　これからは大切に使わせていただきます。