押しても駄目なら

風が吹けば、と共に非線型現象の第二例でしょう。

松井教授の東大駒場講義録 松井孝典著 集英社新書 ¥735-

2006-08-26 12:00:42 | 気になる本
副題はー地球、生命、文明の普遍性を宇宙に探るーである。多くの大学では入学の時点で進路は決められるが、東京大学では駒場における二年間の教養課程では大まかなグループ分けが行われるだけで、細かい進路は主として本郷における専門課程に進む時に振り分けられる。従って、駒場における講義には進路決定を役に立つような講義が行われる場合がある。これもそうした講義の一つで、専門課程、理学部では更に大学院課程へ進むことを明確にしている。

読んでみると大変面白い。高価な本でないので是非購入して、一読をお勧めする。
内容は副題の通りであるが、もう少し説明すると、一万年前から46億年(太陽・太陽系の年齢)にわたる地球の歴史の最新の研究成果の解説・説明・解釈である。
私が面白いと思った個所をつまみ食い的に書き留めてみよう。

○地球の生物圏はどの位もつか?答えを先に言うと五億年だそうな。生物圏と言う言葉の意味は光合成による生物とそれに支えられている生物とが相互作用して生きている世界が存在することを指すとしています。そうした生物圏は炭酸ガスの存在が根幹にあり、空気中の炭酸ガスの量が増えると温室効果に依り、気温が上がり、海からの水蒸気量が増え、雨が多く降り、雨が炭酸ガスを溶かし込んで重炭酸イオンとなり、岩石を溶かして炭酸カルシウムとして海底に降り積もる。貝とかサンゴ、サンゴ礁もそう。だから、大気中の炭酸ガスは減る。しかし。こうした海底に堆積した炭酸カルシウムはプレート運動で大陸の下へ潜り、火山活動で炭酸ガスとして大気中に再放出される。これは松井先生の唱えた炭酸ガスのフィードバックループ説である。五億年は太陽の明るさが僅かであるが、ある一定の割合で減少しており、それを考慮するとフィードバックループがあっても、五億年で炭酸ガスが減少して、光合成が成り立たなくなるらしい。

○この次に人間圏の話があり、その中におばあさん仮説がある。おばあさんの骨が出てくるのは現生人類だけで、類人猿、ネアンデルタール人などにはないそうです。おじいさんの骨はこれらの世界にはあるそうです。そのことを捉えて松井先生は現世人類が栄えているのにはおばあさんの役割があるのだろう、と想像し、おばあさんのお産婆さん的役割、子育ての指導、手助けなどが大切なのだろう、と唱えています。この説明を読んだのか読まなかったのか、石原慎太郎氏はトンデモナイ誤解をされて、この本が、その事で有名になったことがあったとか。

ジャレド・ダイヤモンドの文明崩壊は一万年程度の歴史の話だが、併せて読むと面白い。他にも沢山著者独自のアイデアが展開されている。

◎ちょっと気になったことだが、松井教授は度々生徒に質問はないのか?ないと、今日の私の話は全部判ったと思われるよ、私はそう理解するよ、と挑発している。私は地方旧帝大で大学院の講義をした経験があるが、ある時期から学生が質問しなくなった。私の記憶ではそれは偏差値教育を受けてきた学年辺りだった。偏差値教育はいまでは当たり前のようだが、その弊害については余り知られていない、議論されていないようだ。私の独断の偏見では、毎週のようにテストが繰り返され、お前の偏差値はこのくらい、と知らされる。だから、進学出来る高校はこの辺、と告げられる。これで殆んどの生徒はやる気を失くす。それが第一。その次には下手な質問しているより、単語の一つでも覚えて、偏差値を良くする事が大切、と言う思考法が植えつけられる。今やこうした教育を受けて、先生になった方々が生徒を教えているのだ。あるいはもう三代目かも知れない。
こうした環境では何が学問的に大切か、何が判って、何が判らないのか、なんてまどろっこしい思考は育てられないのかも知れない。


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