押しても駄目なら

風が吹けば、と共に非線型現象の第二例でしょう。

日本列島の誕生 平 朝彦 岩波新書 ¥650-

2006-12-04 16:31:24 | 気になる本
小泉武栄の「不思議を発見する山歩き」に紹介されていたので、図書館で借りて読んだ。面白い、現場の話、Field Work、が生き生きと書かれている。高くないので買うことにした。
著者が四国でField Workで学んだ四万十帯という地層、露岩などなどと海底掘削船による南海トラフの掘削の結果から判るダイナミックな日本列島の形成史。豊富な事例と共に説得力を持って読者を楽しませて呉れる。動的な形成史の根底にあるのはプレートテクトニクス理論である。
伊豆半島が本州に衝突して、富士山噴火と形成、南アルプスの形成、丹沢山塊の創生、などなど、身近で面白い。お勧めの本である。

渋滞学 西成活裕 新潮選書 ¥1260-

2006-11-28 22:13:46 | 気になる本
何かの書評欄でこれはなかなか面白い本だとあり、取り敢えず図書館に予約した。しかし手元に来たのは随分時間が経っていて、その予約のきっかけはとうに忘れてしまった。
・・・で、手にとって読み始める。まえがきがあり、一章を読めば後の章は順を追わなくても良い、とある。と言う事は、ひょっとすると残りの章は読まなくても、分ったような気がするのかも知れない。

一章で大事な概念が幾つかあり、紹介されている。最も重要なのは渋滞であろう。これは誰でも日常実感していて、説明不要であろう。渋滞に巻き込まれるのは日常では車であり、人である。水が川を流れる時には、川幅の狭い個所では流れが速くなり、渋滞は起こらない。
車とか人は自発的に動く事が出来て、ニュートンの三基本法則が当てはまらない。そこで非ニュートン粒子とか自己駆動粒子とか呼ばれる。ニュートン粒子の振る舞いは、ニュートンの運動方程式で記述され、それを解くことによって、粒子の位置、速度などが得られる。
自己駆動粒子系(複数の粒子を系と言う)を扱うには非対称単純排除過程(ASEP)と呼ばれる理論モデルが渋滞現象を良く記述する事が判ってきた。このモデルは沢山の箱を用意し、横に一列に並べる。箱には玉が一つだけ入るとする。これが単純排除である。玉は左方向にだけ動けるとする。これが非対称である。沢山並んだ箱に幾つかの玉を適当に入れておく。これが最初の条件、初期条件である。これらの玉を一斉に右隣の箱へ移すとしよう。但し、右の箱に既に玉が入っていれば、移せない。
絵を描くのは面倒なので、空いている箱を0、玉が入っている箱を1とする。これはセルオートマトン法で使われる。では練習・・・

t   01011010111001010000
t+1 00110101110100101000
t+2 00101011101010010100
t+3 00010111010101001010
t+4 00001110101010100101

このパターンを見ると時刻tの中頃にある111の並びがt+4では左へ4駒ずれている事がわかる。つまり、車、人は右に進み、詰まった並び(クラスター)は左に進んでいる。これが渋滞クラスターである。このようにASEPは渋滞現象の記述、解析に役立つ事がお分りになるだろう。

こうして様々な分野の渋滞現象を記述、解析してゆく事になる。

悪夢のサイクル 内橋克人 文芸春秋 ¥1500-(内税)

2006-11-19 14:08:03 | 気になる本
米国経済学者のミルトン・フリードマンが11月18日に亡くなった。ちょっと長くなるが、日経のお悔やみ記事を全文引用しよう。
米経済学者フリードマン氏死去、「小さな政府」提唱

 【ニューヨーク=発田真人】「小さな政府」の理論的支柱で、先進国の経済政策に大きな影響を与えたノーベル経済学賞受賞の米経済学者ミルトン・フリードマン氏が16日、心不全のため米カリフォルニア州サンフランシスコの自宅で死去した。94歳だった。

 財政ではなく通貨供給量の調節のみでインフレやデフレを制御する「マネタリズム」を唱えた。いわゆるシカゴ学派の巨頭で、米共和党の政策ブレーンとしても活躍。その学説は1980年代にレーガン米大統領、サッチャー英首相、中曽根康弘首相らが進めた規制緩和や民営化などの経済政策に反映された。

 1912年、ニューヨーク生まれ。シカゴ大学などで学び、48年に同大教授に就任した。当時、隆盛だった積極財政論のケインズ経済学を強く批判し、「マネタリスト」の代表となった。70年代以降、ケインズ経済学の限界が指摘されるとともに存在感を増した。
 市場重視の考え方を一般向けにまとめた「選択の自由」(80年刊)は世界的なベストセラーになった。
 76年にノーベル経済学賞。86年には日本政府から勲一等瑞宝章、88年には米国民に与えられる最高の勲章である自由勲章を受章した。

この追悼文は当然ながら、ポジティヴな面のみしか書かれていない。彼のネガティヴな面があることは余り知られていないようだ。この内橋克人の著書は彼の、シカゴ学派の、功罪の評価を極めて明快に行っている。一読に値する著書である。
シカゴ学派の、ネオリベラリズムの、市場原理主義のもたらす循環を新潟大学佐野誠教授は、アルゼンチン経済の経済研究から、発見し「ネオリベラル・サイクル」と名づけました。内橋克人は「悪夢のサイクル」と名づけて強調しているようです。表紙裏にこの悪夢のサイクルの図表があるのでコピーして添付しました。これはアルゼンチン経済の解析から生まれた概念のようですが、更にチリ、米国、イギリス、日本などの現状解析の結果が含められているのだろうと思います。詳しくは本文を読まれたし。第五章は日本のシカゴ・ボーイズ、第六章はバブル再考、第七章は戦争との親和性、第八章は人間が市場を、と展開する。
本の帯、これを業界用語では腰巻と言うのだそうだが、の販売促進キャッチコピーがなかなか良く出来ているので書き加える。
『それはただの景気循環ではない。バブルと破綻を繰り返すなかで共同体を破壊し、人々の心を狂わせる「悪夢のサイクル」なのだ。50年のスパン、世界史的な広がりの洞察から発見された経済のダイナミズム』
裏表紙側の腰巻には『始まっている未来。何だかんだいっても、市場しかないのではないか、そう疑問をもつかたもいるかもしれません。大事な問いだと思います。それに対して私はこう答えることにします。国家でもない、市場でもない、第三の道がある。国家が市場を計画し、すべてをきめるのではなく、市場が人間を支配するのでもない、第三の道。それは、人間が市場をつかいこなすという道です。』

うーーん、この腰巻の文章、キャッチコピーがなかなか含蓄がある。1.国家が市場を計画し・・・ 2.市場が人間を支配する・・・ 3.人間が市場をつかいこなす・・・、とあるが、1.は社会主義計画経済で試みて破綻したものを指しているのだろう。2.は資本主義の特に市場原理主義を指しているのだろう。中国は共産党一党独裁の高度成長市場経済を標榜しているが、どれほど市場を制御しようとしているのだろうか?

宮澤喜一回顧録 御厨貴・中村隆英編 岩波書店¥2200-外税

2006-10-27 01:22:43 | 気になる本
年次改革報告書ーその2で宮澤首相とビル・クリントン大統領がそもそも年次改革報告書の下地の話を始めたとあったので、この本を読んだ。
面白くなかった。宮澤という人は太平洋戦争の始まる前に日米学生会議で米国の大学へ行っている。彼の流暢な英語はその頃身につけたものらしい。戦争中に大蔵省へ入り、それから戦後も大蔵省で過し、大蔵大臣秘書官を拝命している。ここで戦後政治に関わっている。更に大蔵省を辞める直前に講和会議に全権随員として加わっている。そして参議院議員となり、政治に全面的に関わる事になる。経済、財政関係の要職を歴任し、1967年には衆議院議員となっている。
中略
ビル・クリントンとの話し合いでは宮澤首相はもう内閣不信任案は通過していたので、貿易赤字の解消の数値目標を議論しよう、と言う案件をレイムダックだからと言って断ろうとした、とある。こうした大きな問題になるとは思っていなかったらしい。
この方は何が起きてもケロッとしている御仁のようだ。この件もそうだが、現在の赤字国債の半分以上はこの方が作り出したものだが、それにつしても格段の反省はない。
良く言えば覚めている、悪く言えば鈍感のようだ。ケインズを勉強したと書いてあったが、ケインズ理論が線形の範囲では成り立つが、それを非線形の領域まで広げたことの認識は全くない。大体、非線形と言う言葉をご存じないようだ。

・・・と言う訳で、甚だ不愉快な本だが、一級の資料であることは認めなければならないだろう。日本が戦争で失った物のある部分を回復し、また失いつつある今日、そうした視点で読み直すと、彼からではなく、学ぶ事は多々あるようだ。

東京裁判への道・上下 粟屋憲太郎 講談社 ¥1600/1500- 読後感

2006-10-22 10:07:11 | 気になる本
借りて読んだが、余り感心しなかった。期待が大き過ぎたからかもしれない。資料は米国のどこやら大学のあり、公文書開示で原文が見られるのだろう。電子文書の時代だから、原資料を翻訳して、日本のどこかの大学で、別に日本である必要はないのだが、保存公開して、誰でも見たい個所を見られるようにして欲しい。
私が関心を持っていた岸信介の件は、著者の解釈だとおもうが、彼より出世の早かったなんとか言う役人の方の罪を重くして、彼は保釈された、と片付けられている。従って、岸信介の調書などは出て来ない。全く残念。

年次改革要望書ーその4 事前調整型と事後調整型

2006-10-21 01:51:46 | 気になる本
関岡英之著「奪われる日本」の第八章あなたはほんとうに訴訟社会を望んでいるか にちょっと面白い視点が記述されている。ツマミ食い的に紹介する。この章は7ページと短いので、ポイントだけ紹介する。最後のゴシック見出しは「事前調整型」社会から「事後調整型」社会へ?である。談合は前者であり、訴訟は後者である。近頃新聞紙上を賑わしている談合の摘発も年次改革要望書が目指している訴訟万能社会を実現するための地ならしなのだ。談合が100%悪で、訴訟が100%善ではないのである。マスコミは残念ながら、談合ペケ、訴訟〇と単純な話が好きで、そのように切って捨ててしまう。ニュースショウの司会者が「また談合か!怪しからん」で一丁上がり。そんな単純な思考をしていると何でも訴訟、金持が有能な弁護士を雇い、金が正義を生み出す社会になる恐れがある。
ボンヤリしていると恐ろしい社会になりますぞ。

年次改革要望書ーその3

2006-10-20 10:09:30 | 気になる本
この項目関連で森田実のサイトを手繰っていたら、借金率に関する記述を見つけた。
借金率=(総債務)/(GDP)だそうだが、財務省は総債務に粗債務を当てているが、諸外国ではここに純債務を入れているそうな。純債務=粗債務ー金融資産だそうで、金融資産には悪名高い?米国国債などがあり、つまり総債務795兆円ー金融資産480兆円=315兆円が純債務となる。したがって、借金率は315/500=63%で、財務省の主張する、795/500=159%は間違い、という説がある(菊池英博・文京大学教授が著書『増税が日本を破壊する』(ダイヤモンド社、05年)の中で財務省の大ウソを暴露)。これを信ずると、63%は欧米諸国並みとなるとか。
この菊池英博先生の本も借りてみよう。

奪われる日本 関岡英之 講談社現代新書 ¥735-

2006-10-12 17:38:03 | 気になる本
年次改革要望書が主題。これはWikipediaでも取り上げられている。しかし、この本をパラパラと読むと、議員諸侯は御存知ないらしい。竹中平蔵元大臣、元議員も知らない、知ってる、書いてある通り、等と言を左右にいなさっているらしい。
この年次改革要望書には、まだ良く見ていないが、例の新会社法等も要望の中に取り入れられていたらしい。バブル以後の規制緩和の諸項目も入っているらしい。やれやれ、私も不勉強だったが、議員諸侯、関岡さんを呼んでご進行をお願いしたそうな、猛勉強。さて、学者先生は如何なりしや?

兎に角、新書版なので、各自買い求められ、読まれたし。

日本共産党はどこへ行く? いいだもも 論創社 ¥5250-

2006-10-10 05:43:04 | 気になる本
高価な本なので知人から借りて読んだ。ページを繰っただけ、と言う方が実情にあっている。これではそっけなさ過ぎるので、目次を拾い読みしてみよう。

Ⅰ章 四十二年ぶりの党綱領改定
  1 1961年「宮本綱領」から2003年「不破新綱領」へ
  2 不破哲三の今日の「世界の大勢」観は全くもってピント外れだ
  3 不破「新綱領」の三位一体的定式に対する党内外からの疑問の噴出
  4 「帝国主義」概念の歴史的失効と不破「国民党」路線
Ⅱ章 当面する「天皇制」「自衛隊」問題から、21世紀の「人類文明史」的位置まで
  1 「象徴天皇制」と「自衛隊」の事実上の存続をはかる逆ベクトルはなぜ生じたか

この辺りから目次の文章を読んでも内容が判らなくなり始める。

Ⅲ章 日本共産党創立八十一年、宮本綱領四十二年の実践的・理論的帰結としての不破「新綱領」

Ⅳ章 四十二年ぶりの不破「綱領改定案」の根本的な問題点
  1
  2
  3 筆坂秀世「セクハラ事件」罷免の真相と政治的本質
  4 不破「新綱領」は右翼日和見主義的宗派主義への大転落だ
ここの見出しは妙に判り易い。

Ⅴ章 不破「新綱領」の三つの主題

Ⅵ章 不破「新綱領」の未来社会論と世界情勢論

Ⅶ章 マルクス「ゴーダ綱領批判」ならびにレーニン「国家と革命」の読み方

「健全な野党」と唱え続けるのだろうか、だろうね。

Japan as No.1 エズラ・F・ヴォーゲル TBSブリタニカ

2006-10-03 13:56:02 | 気になる本
冨の未来/A&H トフラー/講談社 下巻 を読んでいて、所得倍増論/池田勇人が気になり、表記の本がその昔日本を誉めそやしていた事を思い出し、図書館で借りたが、褒めまくっているだけで、あまり得る所が私にはなかった。
「冨の未来」はこれに反してなかなか面白い。下巻から貸してくれたので、いずれ読後感を書く積りでいる。読み掛けで気になった箇所は第45章 日本のつぎの節目に書かれている事で、・・・今後の十年に日本が行う基本的な変革(あるいは拒否する基本的な変革)によって、われわれがどのような自動車に乗り、どのようなエネルギーを使い、どのようなゲームで遊ぶのかが違ってくるだろうし、それだけでなく、高齢者にどう対するのか、引退者向け住宅の価格やドルの将来がどうなるかも違ってくる可能性がある。・・・

どうです?なかなか面白い視点でしょう。

会社法入門 神田秀樹 岩波新書1005 ¥740+税

2006-09-21 11:59:12 | 気になる本
2006年5月1日施行の新会社法。当日は余り話題にはならなかったように記憶する。国会で審議していた頃の話題は赤い服の南野法相、看護士出身?、一円で会社設立が可能、皆で創業しよう、などなど。
何か新しい事が出来るのかなァ、と気軽にネットであれこれ調べる。むむっつ?!そんなに簡単ではないらしい?本屋の店頭でこの本を見る。帯の文句でつい買ってしまった。その文句は「条文だけではわかりません!1冊でわかる待望の入門書」

看板に偽りあり!こんなに判らない入門書ははじめて見た。この人東大法学部教授。教授って良いな判らない講義をしても、判らないのは学生が、受講者が勉強不足とホザイテいれば済むらしい。

気になる本、としたのは間違い。「気になった本」と過去形にすべきだし、「買わないほうが良い本」である。

東京裁判への道・上下 粟屋憲太郎 講談社 ¥1600/1500-

2006-09-17 23:17:24 | 気になる本
日経の日曜日書評欄に掲載。東京裁判の検察側尋問調書を専門家が調べたもの。調書にはこれまでには知られていない事実が書かれている。例えば、「・・・笹川良一を筆頭に、ほとんどすべての戦犯容疑者が取り調べに対して卑屈な弁明と自己弁護、さらには連合国に対する媚態ともいうべき態度を示したことである。そして、知人、友人、とりわけかつてのライバルに開戦の責任を転嫁したことが、豊富な新資料によって暴露されている。」この文章で、この本を読みたくなった。そう思いません?岸信介もA級戦犯だから、この本に出てくるのではないか?とうずうずする。孫が東京裁判は歴史だとか仰っているようだが、どうしてどうして、まだまだ暴かなければならない事実があるようだ。
嬉しい事に図書館で借りられそう。

敗戦日記 渡辺一夫著 博文館新社 ¥3,500-

2006-08-30 16:43:51 | 気になる本
1945年3月11日から8月15日まで。大変抑えたインテリの日記。ちょっと勉強しないとパラパラとは読めない。しかし、ぱっと読んで、判る箇所もある。
例えば、「生きねばならぬ、事の赤裸々な姿を見きわめるために」

しかし、自民党次期総裁候補の憲法改正の議論、自衛隊を国会審議なしに海外派遣出来るように、・・・のバタバタ取り決め、提案を見聞きすると、この日記が60年余り前に書かれたのか?と恐ろしくなる。

松井教授の東大駒場講義録 松井孝典著 集英社新書 ¥735-

2006-08-26 12:00:42 | 気になる本
副題はー地球、生命、文明の普遍性を宇宙に探るーである。多くの大学では入学の時点で進路は決められるが、東京大学では駒場における二年間の教養課程では大まかなグループ分けが行われるだけで、細かい進路は主として本郷における専門課程に進む時に振り分けられる。従って、駒場における講義には進路決定を役に立つような講義が行われる場合がある。これもそうした講義の一つで、専門課程、理学部では更に大学院課程へ進むことを明確にしている。

読んでみると大変面白い。高価な本でないので是非購入して、一読をお勧めする。
内容は副題の通りであるが、もう少し説明すると、一万年前から46億年(太陽・太陽系の年齢)にわたる地球の歴史の最新の研究成果の解説・説明・解釈である。
私が面白いと思った個所をつまみ食い的に書き留めてみよう。

○地球の生物圏はどの位もつか?答えを先に言うと五億年だそうな。生物圏と言う言葉の意味は光合成による生物とそれに支えられている生物とが相互作用して生きている世界が存在することを指すとしています。そうした生物圏は炭酸ガスの存在が根幹にあり、空気中の炭酸ガスの量が増えると温室効果に依り、気温が上がり、海からの水蒸気量が増え、雨が多く降り、雨が炭酸ガスを溶かし込んで重炭酸イオンとなり、岩石を溶かして炭酸カルシウムとして海底に降り積もる。貝とかサンゴ、サンゴ礁もそう。だから、大気中の炭酸ガスは減る。しかし。こうした海底に堆積した炭酸カルシウムはプレート運動で大陸の下へ潜り、火山活動で炭酸ガスとして大気中に再放出される。これは松井先生の唱えた炭酸ガスのフィードバックループ説である。五億年は太陽の明るさが僅かであるが、ある一定の割合で減少しており、それを考慮するとフィードバックループがあっても、五億年で炭酸ガスが減少して、光合成が成り立たなくなるらしい。

○この次に人間圏の話があり、その中におばあさん仮説がある。おばあさんの骨が出てくるのは現生人類だけで、類人猿、ネアンデルタール人などにはないそうです。おじいさんの骨はこれらの世界にはあるそうです。そのことを捉えて松井先生は現世人類が栄えているのにはおばあさんの役割があるのだろう、と想像し、おばあさんのお産婆さん的役割、子育ての指導、手助けなどが大切なのだろう、と唱えています。この説明を読んだのか読まなかったのか、石原慎太郎氏はトンデモナイ誤解をされて、この本が、その事で有名になったことがあったとか。

ジャレド・ダイヤモンドの文明崩壊は一万年程度の歴史の話だが、併せて読むと面白い。他にも沢山著者独自のアイデアが展開されている。

◎ちょっと気になったことだが、松井教授は度々生徒に質問はないのか?ないと、今日の私の話は全部判ったと思われるよ、私はそう理解するよ、と挑発している。私は地方旧帝大で大学院の講義をした経験があるが、ある時期から学生が質問しなくなった。私の記憶ではそれは偏差値教育を受けてきた学年辺りだった。偏差値教育はいまでは当たり前のようだが、その弊害については余り知られていない、議論されていないようだ。私の独断の偏見では、毎週のようにテストが繰り返され、お前の偏差値はこのくらい、と知らされる。だから、進学出来る高校はこの辺、と告げられる。これで殆んどの生徒はやる気を失くす。それが第一。その次には下手な質問しているより、単語の一つでも覚えて、偏差値を良くする事が大切、と言う思考法が植えつけられる。今やこうした教育を受けて、先生になった方々が生徒を教えているのだ。あるいはもう三代目かも知れない。
こうした環境では何が学問的に大切か、何が判って、何が判らないのか、なんてまどろっこしい思考は育てられないのかも知れない。

和歌文学の基礎知識 谷知子 角川選書

2006-08-21 22:51:39 | 気になる本
表題の通りの内容を31項目について解説、1.和歌の始発、2.長歌・反歌、3.枕言葉、4.序詞、5.掛詞、6.縁語、・・・、30.和歌と宗教、31.江戸の和歌 等などである。
 選書というサイズがあるのかどうか知らないが、新書より一回り大きく、200頁余りの容量で、例題が100首ほど、引用和歌が同じほどあり、楽しく解説を理解し、味わう事が出来る。余裕があれば手元に一冊あると随時楽しめそうである。

 新たに楽しんだ和歌を順不同で書留めておこう。

〇霞立つ長き春日を子どもらと手まりつきつつこの日暮らしつ 良寛 31.江戸の和歌
〇桜花散りかひくもれ老いらくの来むといふなる道まがふがに 在原業平 10.祝賀の歌
著者の解釈を書いておくと(桜花よ、散り乱れて目の前を暗くしてくれ。老いがやって来るという道がわからなくなるように)
 この二首は以前なら判らなかっただろうな、と感じた。こうした歌が判る様になると言う事は私も歳をとったということなのだろう。
〇花誘ふ嵐の庭の雪ならでふりゆくものは我が身なりけり 西園寺公経 10.祝賀の歌/引用 
 この歌も老いをうたったもの、時代は下っているが、業平よりは素直な歌で難しくない。
〇花の色はうつりにけりないたづらに我が身世にふるながめせしまに 小野小町 5.掛詞
 この「世にふるながめせしまに」はぼんやり時間を過ごしてしまった、と解釈されている。短い時間の経過を指しているようである。

 この本でちょっと驚かされた歌は次の一首。
〇とけて寝ぬ寝覚めさびしき冬の夜に結ばほれつる夢の短さ 『源氏物語』朝顔・光源氏 19.和歌と物語
 意味は(安らかに眠ることができず、寝覚めてしまうが、それが何とも寂しい冬の夜、見届けられない夢の短さよ)というものだが、夢枕に亡き藤壷が立って、「あなたとの恋愛のせいで成仏できないでいる」と恨みごとを言い、光源氏は狂おしく取り乱す。傍らに寝ていた紫の上がその異変に気づき、「一体何事か」と声を掛け、光源氏は目覚めるが、ただ涙を流すのみ。暫くの沈黙の後、光源氏の詠んだ歌がこれ。凄いですね。この歌は独り言だそうです。そうですよね、「夢の短さ」は藤壺に言いたいのでしょう。この時源氏の心は藤壺に向いているのでしょうね。それをさらりの歌にしてしまう、紫式部の凄さです。

 最後に、藤原俊成、藤原定家について著者は充分な紹介をしている、と思う。歌合には判者と呼ばれる審判がいますが、俊成は六百番歌合で判者として判詞を書き、後世に伝えられる歌論にも匹敵するものを残しているそうです。定家についても優れた和歌と業績が示されています。