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風が吹けば、と共に非線型現象の第二例でしょう。

和歌文学の基礎知識 谷知子 角川選書

2006-08-21 22:51:39 | 気になる本
表題の通りの内容を31項目について解説、1.和歌の始発、2.長歌・反歌、3.枕言葉、4.序詞、5.掛詞、6.縁語、・・・、30.和歌と宗教、31.江戸の和歌 等などである。
 選書というサイズがあるのかどうか知らないが、新書より一回り大きく、200頁余りの容量で、例題が100首ほど、引用和歌が同じほどあり、楽しく解説を理解し、味わう事が出来る。余裕があれば手元に一冊あると随時楽しめそうである。

 新たに楽しんだ和歌を順不同で書留めておこう。

〇霞立つ長き春日を子どもらと手まりつきつつこの日暮らしつ 良寛 31.江戸の和歌
〇桜花散りかひくもれ老いらくの来むといふなる道まがふがに 在原業平 10.祝賀の歌
著者の解釈を書いておくと(桜花よ、散り乱れて目の前を暗くしてくれ。老いがやって来るという道がわからなくなるように)
 この二首は以前なら判らなかっただろうな、と感じた。こうした歌が判る様になると言う事は私も歳をとったということなのだろう。
〇花誘ふ嵐の庭の雪ならでふりゆくものは我が身なりけり 西園寺公経 10.祝賀の歌/引用 
 この歌も老いをうたったもの、時代は下っているが、業平よりは素直な歌で難しくない。
〇花の色はうつりにけりないたづらに我が身世にふるながめせしまに 小野小町 5.掛詞
 この「世にふるながめせしまに」はぼんやり時間を過ごしてしまった、と解釈されている。短い時間の経過を指しているようである。

 この本でちょっと驚かされた歌は次の一首。
〇とけて寝ぬ寝覚めさびしき冬の夜に結ばほれつる夢の短さ 『源氏物語』朝顔・光源氏 19.和歌と物語
 意味は(安らかに眠ることができず、寝覚めてしまうが、それが何とも寂しい冬の夜、見届けられない夢の短さよ)というものだが、夢枕に亡き藤壷が立って、「あなたとの恋愛のせいで成仏できないでいる」と恨みごとを言い、光源氏は狂おしく取り乱す。傍らに寝ていた紫の上がその異変に気づき、「一体何事か」と声を掛け、光源氏は目覚めるが、ただ涙を流すのみ。暫くの沈黙の後、光源氏の詠んだ歌がこれ。凄いですね。この歌は独り言だそうです。そうですよね、「夢の短さ」は藤壺に言いたいのでしょう。この時源氏の心は藤壺に向いているのでしょうね。それをさらりの歌にしてしまう、紫式部の凄さです。

 最後に、藤原俊成、藤原定家について著者は充分な紹介をしている、と思う。歌合には判者と呼ばれる審判がいますが、俊成は六百番歌合で判者として判詞を書き、後世に伝えられる歌論にも匹敵するものを残しているそうです。定家についても優れた和歌と業績が示されています。


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