押しても駄目なら

風が吹けば、と共に非線型現象の第二例でしょう。

渋滞学 西成活裕 新潮選書 ¥1260-

2006-11-28 22:13:46 | 気になる本
何かの書評欄でこれはなかなか面白い本だとあり、取り敢えず図書館に予約した。しかし手元に来たのは随分時間が経っていて、その予約のきっかけはとうに忘れてしまった。
・・・で、手にとって読み始める。まえがきがあり、一章を読めば後の章は順を追わなくても良い、とある。と言う事は、ひょっとすると残りの章は読まなくても、分ったような気がするのかも知れない。

一章で大事な概念が幾つかあり、紹介されている。最も重要なのは渋滞であろう。これは誰でも日常実感していて、説明不要であろう。渋滞に巻き込まれるのは日常では車であり、人である。水が川を流れる時には、川幅の狭い個所では流れが速くなり、渋滞は起こらない。
車とか人は自発的に動く事が出来て、ニュートンの三基本法則が当てはまらない。そこで非ニュートン粒子とか自己駆動粒子とか呼ばれる。ニュートン粒子の振る舞いは、ニュートンの運動方程式で記述され、それを解くことによって、粒子の位置、速度などが得られる。
自己駆動粒子系(複数の粒子を系と言う)を扱うには非対称単純排除過程(ASEP)と呼ばれる理論モデルが渋滞現象を良く記述する事が判ってきた。このモデルは沢山の箱を用意し、横に一列に並べる。箱には玉が一つだけ入るとする。これが単純排除である。玉は左方向にだけ動けるとする。これが非対称である。沢山並んだ箱に幾つかの玉を適当に入れておく。これが最初の条件、初期条件である。これらの玉を一斉に右隣の箱へ移すとしよう。但し、右の箱に既に玉が入っていれば、移せない。
絵を描くのは面倒なので、空いている箱を0、玉が入っている箱を1とする。これはセルオートマトン法で使われる。では練習・・・

t   01011010111001010000
t+1 00110101110100101000
t+2 00101011101010010100
t+3 00010111010101001010
t+4 00001110101010100101

このパターンを見ると時刻tの中頃にある111の並びがt+4では左へ4駒ずれている事がわかる。つまり、車、人は右に進み、詰まった並び(クラスター)は左に進んでいる。これが渋滞クラスターである。このようにASEPは渋滞現象の記述、解析に役立つ事がお分りになるだろう。

こうして様々な分野の渋滞現象を記述、解析してゆく事になる。

不思議を発見する山歩き/小泉武栄/学士会会報No861p89

2006-11-27 23:07:21 | 気になる記事
学士会会報という会員限定の小冊子がある。偶に面白い記事が掲載されている。今回の冊子には二三大変面白い記事があるので順次紹介したい。

最初は表題の記事。「人はなぜ山に登るようになったのか」と言う最初の章題にちょっと惹かれる。近代的な登山の歴史はせいぜい二百年だそうな。日本では山岳信仰に関わる登山があった。西欧では山は悪魔の住処と言う思い込みがあり、登山を楽しむと言う考えはなかった。そもそも自然を賛美したり、風景画を描くと言うこともなかったそうだ。かの有名なダヴィンチのモナリザの背景の風景は千年振りの風景画だそうである。

そうした歴史を背景に、著者は山岳の地質学的な形成史とそれに伴う植生、植物群落の形成との関連を研究して、修士論文のテーマとした。ところがこの論文テーマが大変評判が悪かったそうだ。植物は出て来る、岩石が出て来る、残雪は出るわ、地形も関係してくる。とても一つの学問分野に収まる話ではない。こんなめちゃくちゃな修士論文は聞いた事がないと散々言われたが、なんとか通して貰ったとのこと。
ここらから本題の「日本の山はなぜ美しい」となります。著者によれば多彩な景色の原因は多雪と強風だそうです。多雪の原因は対馬暖流とシベリヤ寒気でしょう。強風はジェット気流が冬に日本上空で合流して強くなるのだそうです。これらの要因で山頂付近は雪が降るのですが吹き飛ばされる部分と吹き溜まりの部分とが出来ます。露頭の岩地はやがて崩れて砂礫地が出現し、次々に新しい植物が出て来て。植生が豊かになるそうです。しかしこれを実証的に証明するのは難しく、このことを論文にしてジャーナルに投稿したら、植生が豊かになると言うのは著者の思い込みである、とコメントがあり、掲載は拒否されたそうです。どちらも正しいなァ。
吹き溜まりの部分は暖かくなると雪解けが起こり、水の量によっては湿地帯が出現し、別の豊かな植生が生まれます。こうして美しい日本の山岳風景が生まれるのです。
著者の新しい学問分野の形成の苦しみと日本と世界の山岳風景を楽しむ気持ちとを伝える事が充分に出来ないのが残念です。でも、面白いのです。
なお、日本列島の形成について平 朝彦著「日本列島の誕生」岩波新書を紹介されている。面白そうなので図書館で借りる事にした。いずれ紹介記事を書きたい。最後に登山を楽しみとしない国があるそうで、著者に言わせればそれは好奇心の不足で、あれこれのたわいもないことを面白がる文化がないのだそうである。けだし卓見である。

悪夢のサイクル 内橋克人 文芸春秋 ¥1500-(内税)

2006-11-19 14:08:03 | 気になる本
米国経済学者のミルトン・フリードマンが11月18日に亡くなった。ちょっと長くなるが、日経のお悔やみ記事を全文引用しよう。
米経済学者フリードマン氏死去、「小さな政府」提唱

 【ニューヨーク=発田真人】「小さな政府」の理論的支柱で、先進国の経済政策に大きな影響を与えたノーベル経済学賞受賞の米経済学者ミルトン・フリードマン氏が16日、心不全のため米カリフォルニア州サンフランシスコの自宅で死去した。94歳だった。

 財政ではなく通貨供給量の調節のみでインフレやデフレを制御する「マネタリズム」を唱えた。いわゆるシカゴ学派の巨頭で、米共和党の政策ブレーンとしても活躍。その学説は1980年代にレーガン米大統領、サッチャー英首相、中曽根康弘首相らが進めた規制緩和や民営化などの経済政策に反映された。

 1912年、ニューヨーク生まれ。シカゴ大学などで学び、48年に同大教授に就任した。当時、隆盛だった積極財政論のケインズ経済学を強く批判し、「マネタリスト」の代表となった。70年代以降、ケインズ経済学の限界が指摘されるとともに存在感を増した。
 市場重視の考え方を一般向けにまとめた「選択の自由」(80年刊)は世界的なベストセラーになった。
 76年にノーベル経済学賞。86年には日本政府から勲一等瑞宝章、88年には米国民に与えられる最高の勲章である自由勲章を受章した。

この追悼文は当然ながら、ポジティヴな面のみしか書かれていない。彼のネガティヴな面があることは余り知られていないようだ。この内橋克人の著書は彼の、シカゴ学派の、功罪の評価を極めて明快に行っている。一読に値する著書である。
シカゴ学派の、ネオリベラリズムの、市場原理主義のもたらす循環を新潟大学佐野誠教授は、アルゼンチン経済の経済研究から、発見し「ネオリベラル・サイクル」と名づけました。内橋克人は「悪夢のサイクル」と名づけて強調しているようです。表紙裏にこの悪夢のサイクルの図表があるのでコピーして添付しました。これはアルゼンチン経済の解析から生まれた概念のようですが、更にチリ、米国、イギリス、日本などの現状解析の結果が含められているのだろうと思います。詳しくは本文を読まれたし。第五章は日本のシカゴ・ボーイズ、第六章はバブル再考、第七章は戦争との親和性、第八章は人間が市場を、と展開する。
本の帯、これを業界用語では腰巻と言うのだそうだが、の販売促進キャッチコピーがなかなか良く出来ているので書き加える。
『それはただの景気循環ではない。バブルと破綻を繰り返すなかで共同体を破壊し、人々の心を狂わせる「悪夢のサイクル」なのだ。50年のスパン、世界史的な広がりの洞察から発見された経済のダイナミズム』
裏表紙側の腰巻には『始まっている未来。何だかんだいっても、市場しかないのではないか、そう疑問をもつかたもいるかもしれません。大事な問いだと思います。それに対して私はこう答えることにします。国家でもない、市場でもない、第三の道がある。国家が市場を計画し、すべてをきめるのではなく、市場が人間を支配するのでもない、第三の道。それは、人間が市場をつかいこなすという道です。』

うーーん、この腰巻の文章、キャッチコピーがなかなか含蓄がある。1.国家が市場を計画し・・・ 2.市場が人間を支配する・・・ 3.人間が市場をつかいこなす・・・、とあるが、1.は社会主義計画経済で試みて破綻したものを指しているのだろう。2.は資本主義の特に市場原理主義を指しているのだろう。中国は共産党一党独裁の高度成長市場経済を標榜しているが、どれほど市場を制御しようとしているのだろうか?

政治は印象派の時代

2006-11-10 11:55:01 | 気になる記事
中曽根康弘元首相が「・・・しかも小選挙区制になり、政治が演説を聞くよりもテレビで見るものになった。中身よりも印象の「印象派の時代」。・・・」と仰ったそうな。詳しくはこちらをご覧あれ。この言は安倍内閣発足直後の評価の発言の中で述べたもの。
この表現に痛く感動したのが知事になれなかった田中康夫ちゃん。SPAの東京ぺログリ日記(10月10日)にある。序でながら、知事をやめてからのこの日記はまたそれなりに面白い、舌鋒の冴えがまた出て来た。

増税が日本を破壊する 菊池英博 ダイヤモンド社 ¥1680-

2006-11-05 00:20:33 | 読みちらし
年次計画要望書関連で図書館から借りて読み始めたが、途中で頓挫。理由は「租債務」と「純債務」の定義というか理解の仕方が問題であるということに私が気づかされたからである。租債務とは負債で純債務=租債務ー金融資産である。金融資産に米国債が入るかどうか、は少し議論の余地があるらしい。
租債務と純債務の理解の仕方、定義が正しければ、その後の歯切れの良い議論は正しい事になるらしい。私の理解では1.負債は純債務で考える。2.そうすれば負債/国民総生産(GDP)はEU諸国並みの60%台になり、債務過剰国ではない。4.だから財政均衡至上主義による増税は間違い。5.経済活性化を考えた財政政策を考えよう。
国内では彼の説は少数派である。彼が引用している米国のDavid E. Weisteinの論文を見つけた。
http://www.columbia.edu/~dew35/PDF/happynews.pdf
50ページで読むにはちょっと時間が掛るだろうが、あれこれの専門用語も出て来る事だろう。そうすればまたそれらをググルってあれこれの論文、諸説を探す事が出来そうだ。